カセキホリダー研修。ホリダーライセンスを獲得してカセキホリダーとして活動し、最終的にはカセキホリダー関連の資格取得、上手くいけば就職を目的とする研修制度だ。対象年齢が中学生以上に設定されているだけあって、参加者は中高生が9割。資格取得には所定のカリキュラムをこなす必要があるが、それと並行してカセキ発掘やカセキバトルを楽しむ事も出来る。「カセキホリダーとして活動してみたかったけど、タイミングを逃してしまって将来を考えなければならなくなった」といったような声を聞いたとある企業の社長が、生活水準や年齢に関係なく皆平等にカセキホリダー体験を享受出来るように、この試みを考案したのだとか。果たしてどんな世界が待っているのか。ウチの興奮と緊張は、速度を上げていくジェットコースターのように留まる事を知らない。
「ユミレ!着いたよ!」
モリチャとウチが搭乗していたヘリコプターが、島のヘリポートに着陸する。ヘリコプターに乗ったのはこれが初めてだったが、思った以上に安定していて心地良かった。音はうるさめだけど。
「ようこそ皆さん!ここはホリダーステーションになります」
案内に従って、島の施設を巡る。ホリダーとして知っておくべき事項は想定していた以上に多い。手元に資料が配布されていなかったら、全て抜け落ちていたかもしれない。一通りのガイダンスが終わって、モリチャとウチは合宿所の二人部屋に荷物を置く。
「はぁ〜!歩いた歩いた〜!」
「疲労困憊電池切れ症候群ってか」
「何それ草生える」
「流行らせないと明日の発掘講習でコプロライト(※ウンコの化石の事)まみれになる」
「それは嫌だなぁ〜……だが断る」
「何ィッ!?」
他愛も無いやり取りは夕食、風呂、そして就寝時まで続いた。モリチャに寝る合図を送って、二段ベッドの下で目を閉じる。今日は一日が過ぎるのが凄く早かった気がする。学校の授業で疲れ切って寝落ちするのとは全く違う。いっぱい動いたし、お腹も満たされたし、気の置けない友人と過ごしたし。人生でもトップクラスに充実していた一日。ウチは今、幸せの絶頂を噛み締めているのかもしれないと、早合点してしまいそうになる。そうこう考えていると、意識がコーヒーに溶ける角砂糖のように、ゆっくりと夢の中に溶けていった。
〜〜
ウチは、鬱蒼と生い茂る森の中に佇んでいた。頭上は木々の枝葉で覆われ、周囲には霧が立ち込めている。幻想的な風景の中に、ウチは独り取り残されていた。
「出口探すか。脱出ゲーム的なノリだ」
自然を使った脱出ゲームを聞いたことがある。その類だろう。手ぶらでお役立ちグッズも何一つ持ち合わせていないのが少し不満だ。とりあえず、微かに声が聞こえる方へ歩いていく。モリチャの声だ。森の中で比較的明るい方からモリチャの声が聞こえる。きっと出口だろう。
「楽勝〜。クエストクリア報酬でアイスでも買お──」
足が止まった。何かに縛られてるわけでも無いのに、足が思うように動かない。
(えっ……なん……で……?)
身体が重くなってしゃがみ込む。足元には透明感のある銀色の花が咲き乱れていた。
(やだ……行か……ないで……)
手足が動かせない。モリチャがウチを呼ぶ声が聞こえるような気がするが、返事を返そうにも声が出せない。いつの間にか傍にマキが立っていた。
「……ごめんね。気付いてあげられなくて」
(やめて……)
「ユミレが辛くなった分、私ももっと頑張るから」
(お願い……!もう……やめて……!)
モリチャの呼ぶ声が仕切りに聞こえて来るが、それよりもマキに自分の声が届かない事が心残りだった。お願い。これ以上無理をしないで───
「ユミレ!!」
「んなっ!?」
───夢か。モリチャに揺すられて意識が覚醒したようだ。
「大丈夫?うなされてたけど……」
「あぁ……えと……ちょっと嫌な夢見てただけ」
「そっか……寝汗凄いし、シャワー浴びてきたら?」
「そする」
シャワーを浴びながら夢の内容を思い出そうとしたが、何故かすっかり忘れてしまった。
〜〜
「───これで、発掘講習のガイダンスは以上になります。何か質問はありますか?」
発掘講習が始まった。文字通りカセキ発掘をする講習なのだが、果たして非力なウチにこのピッケルを使いこなせるだろうか……。
「ユミレ、話聞いてた?」
「確か、四人班作るって……」
「そこのお二人さん」
ウチらの会話に水を差すとは……何奴。
「もし宜しければ、僕らと班を作りませんか?」
現れたのは、男二人組。片方は整えられた青髪の青年。ここにいる四人の中では一番身長が高いが、二番目に高いモリチャとは僅差と言ったところか。眼鏡の奥から優しそうな緑の瞳を向けている。もう片方は威勢の良さそうなガキ……間違えた、少年。
「なあ俺、先に掘ってきて良いか?」
「ダメです。先にご挨拶です」
早く発掘したくてそわそわしている所に若さを感じる。茶髪に小柄な体型がさらに拍車を掛けている。オレンジの瞳は真っ直ぐに、ウチらじゃないどこかを見つめている。
「申し遅れました。僕はロット、こちらはパールです」
「好きなのはダイヤモンドだけどな!」
「アタシはアラモ・リチャード。『モリチャ』って呼んで。で、こっちがユミレ」
「……ども」
「モリチャさんにユミレさん。どうぞよろしくお願いします」
「よろしくだぜ!」
「ユミレ、班組んでも良さげ?」
「……特に文句なし」
「オッケー。と言う事で、班結成!」
「よっしゃあ!行ってくる!」
「あっ!こら!……はぁ、すみません。昔からあんな感じでして……」
「いやいや、楽しみなのはアタシらも同じなんで」
こうして、愉快な二人組が仲間に加わった。今のところ悪い人ではなさそうだが、警戒を解いてはいけない。とりあえずモリチャ達も動き出したのでウチもピッケルを持って……
「あれ、不良かな?」
「ピッケル引きずってる……怖」
……すみません。筋力付けるよう精進します。
レーダーでカセキ岩を探すウチら御一行。固まってても良くないと思ったので、メンバーの姿が確認できる範囲で各々散らばる事にした。確かこっちに反応が……
「……ありゃ」
レーダーの反応は、「立入禁止」の札がある柵の少し先を示していた。えっ、でも発掘場外でカセキ岩の反応って出るの?
「んー……」
周囲の目を確認する。モリチャ達は皆発掘に夢中だ。行くなら今しかない……!
「ういしょ」
ピッケルを放り投げてから、柵を越える。背丈の高いススキのような草が生い茂る中を進み、森の中へ入る。反応はすぐそこだ。
「え……なにこれ」
レーダーが示すその場所は、辺り一面に銀色の花が咲き乱れる独特の空間だった。頭上は木々の枝葉で覆われ、太陽光はほとんど届かない。足元をよく見ると、キノコも生えている。
「……おりゃ!」
周りの花やキノコを傷付けないように、何とか頑張ってカセキ岩を掘り出す。重労働だ。カセキ岩一つでこんなに筋肉使うとは思わなかった。
「……おぉ」
白いカセキ岩が出てきた。白は確か、無属性だったか。今回はめぼしいカセキ岩を一人一個か二個拾ってくれば良いらしいので、さっさと撤収しよう。
「おい」
「!?」
背後から女性の声が聞こえる。低めのマジトーンだ。
「ここは立入禁止区域だぞ」
「ひ、ひぃぃぃぃ!!すみませんすみません!!」
「あっ、こら、待て!」
早く戻らなきゃ。えーっと確か出口は……あれ?どっちだ?森に入ってそんなに歩いてなかったのに出口らしき場所が見当たらな
「待てと言ったろ!」
「ぷぎっ……!」
追っ手のチョップを頭頂部に喰らい、容疑者ユミレは確保されました。あれだけ堂々と柵を乗り越えたのだから、「迷っちゃいました☆」なんて言い訳は通用しないだろう。
「すみません……レーダーに反応があったのでつい……」
「ったく……私が巡回してなかったら今頃どうなってたか」
「うぅ……」
怒られ事案だ。久しぶりだったのもあって結構キツい。
「戻るぞ」
「は、はい……」
ここでようやく追っ手の姿を確認した。スタッフの服装をしているが、帽子を被っており、抹茶色の髪は後ろで結んである。女性なのは分かっているが、それにしてはガタイが良い。さながら裏方で活動する諜報員のようだ。いや、諜報員がどんなものかはっきり分かってるわけではないけど。
「遅れたが、私はラフィカだ。お前は?」
「……ユミレです」
「ユミレ……なるほど、合縁奇縁と言うやつだな」
「え……?」
「お前ともう一人アラモ・リチャードって奴の顧問スタッフになってる。これから約一年お前らの面倒を見るわけだが、出会いからこんなに手が掛かるとは……」
「す……すみません」
「悪い事だと分かって反省してるならそれで良い!それに、ミッションは達成出来たからな」
「ミッション……?」
「その白いカセキ岩だ。少し重要なものでな。誰かに奪われる前に回収に来たんだ」
「あっ……」
「ははっ!まあ新人ホリダーなら仕方ない!どのみち私の管轄下だ。回収は無事完了」
気付いたらさっきの背丈の高い草むらを通り抜け、柵まで来ていた。
「あっ、ユミレ!」
モリチャとロットとパールがお出迎え……なんて言える雰囲気では無さそうだ。
「それじゃ、そのカセキ岩は回収する」
そう言って、ラフィカは草むらに消えた。ウチは柵を越えると三人の元へ近づき、土下座した。
「……すみませんでした」
「あはは!!発掘場で土下座する奴初めて見た!!」
「危ない目に遭うかもしれないんですから……気をつけて下さい」
「まあでも、ユミレが無事だったしノープロじゃね?」
「ん?……おい、銀髪」
ウチの事か。パールは名前を覚えない人らしい。
「ピッケルどうした?」
「……あっ」
ユミレのカセキ発掘一日目は、取れ高ゼロで終了した。
次回、Ep. 5「グレイ」