白銀の竜が蔭に咲く   作:ドリベンタス

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第8話です。「暴力描写あり」とは記しておきます。血は出ません。


Ep. 8「白銀の竜が蔭に咲く」

 

 

 

 1on1トーナメント第一回戦、第二回戦が終了した。ロットもパールも、そしてモリチャも、順調に勝ち進んでいき、明日からはついに準決勝が始まる。モリチャはパールとぶつかるそうだ。三人とも気合を入れてトレーニングしているのを横目に、ウチは補習を受けている。サボってたツケだ。

 

「いつまで外を気にしてる」

「ぷぎっ!?」

「やっぱり、未練あるんじゃないか」

 

 部屋にはウチとラフィカしか居ない。だからラフィカも問答無用でウチの頭に優しく───これは本人談で、どう考えても力強い───チョップを入れてくる。

 

「未練じゃないです。集中力切れたんで外見てただけというか」

「それを教員の前で堂々と説明する奴があるか!」

「嘘つくのが正解みたいな言い方でリプされるとは思いませんでした、はい」

「はぁ………………話は変わるが、髪染めたのか?」

「おっ?お目が高いですな。こちら、今流行りの毛先染めでございます。その辺の店で買ったありきたりなヘアカラー剤でお手軽45分」

「吹っ切れたと思ったら随分口が回るようになったもんだ」

「成長を感じてます」

「なら課題も早く終わらせんかい!」

「ぷぎぃっ!?!?」

 

 自分の価値観は、周囲の人たちに比べて少しズレていた。努力は否定しないが、共感が出来ない。誰かの努力を支えられない。それを改善するのが人生だと思っていた節があったが、最近は曖昧な素の自分を受け入れる方針に固めている。「吹っ切れた」とラフィカは表現していたが、他者にはそう見えているのだろうか。ともかくこの判断が正しいかどうかは、結果が教えてくれるだろう。ウチはとりあえず、ペンを取って作業を再開した。終わったら、夕飯と風呂を済ませて例の「秘密基地」に向かおう。この空気を保ったまま同室で寝る事は、今のウチには出来ない。

 

 

 

 

 

〜〜A view of MoLicha〜〜

 

 

 

「はぁ!?エナドリ爆発したってマジかよ!?」

「どうしたんですか?」

「今朝配られてた試供品のエナドリ、色んなとこで爆発してるらしいぞ!」

「それって、確か僕らの部屋にも置いてありましたよね!?」

「クッソぉ!!片付けてくる!!」

「僕も向かいます!今日の調整はこの辺にして解散しますがよろしいですか?」

「うん、アタシは大丈夫。急いで行ってきな!」

 

 そう言って、ロットとパールは自室へと向かった。アタシはエナドリが好きではないので、今朝は受け取っていない。だから部屋が荒れてるなんて事は無いはずだ。でも、もしユミレが居たら、今頃部屋はエナドリの海になっていたかもしれない………………

 

「いけないいけない!!」

 

 自分の頬を叩いて、意識をケイラム(アタシのディノスの名前)の方に戻す。最近ようやく「共鳴」と思われる繋がりを感じられるようになってきた気がする。ユミレとの関係はなんとかして取り戻したいが、とりあえず今は明日の準決勝に向けて最終調整をしなければならない。アタシが勝てば、きっとユミレとも仲直りできる。そう信じて、アタシはケイラムと共に頑張ってきたのだ。

 

「練習中失礼するよ」

 

 後ろから声が聞こえた。振り向くと、長身の男がそこに立っていた。ライトブラウンの髪に爽やかな笑顔。色とりどりの花のイラストが散りばめられたカラフルな服装は、暗くなり始めた広場でもよく目立つ。

 

「……どちら様ですか?」

「僕はトルソー。明日の準決勝で、ロット君と勝負するホリダーだよ」

「……はぁ」

「こんな時間にいきなり悪いんだけど、今ちょっと人探しをしていてね。あっ、別に怪しいものではないよ」

「怪しいかどうかはアタシが決めます」

「うん。模範解答だ。その逞しさは、渇いた砂の大地に咲くサボテンの花のようだ」

「………………」

 

 ヤバいやつきたああああ!!!

 

「早速で悪いんだけど、君。『ユミレ』って子知らない?」

「知りません」

「とぼけんなよ」

「!?…………何が目的ですか?」

 

 うわ、豹変した。怖すぎる。

 

「彼女は『お花リバイバー』を不幸にしている。だからあのタペヤラを回収しに来た。僕は花の扱い方をよく知っている。正しい知識を持つ者が扱うべきなのは君も分かるだろ?」

「ケイラム!!!」

 

 ケイラムはアタシの前に陣取る。もちろん人間相手に攻撃するわけではない。あくまでアタシへの直接的な被害を避けるためだ。

 

「君なら分かってくれると信じていたんだが………………いやまあ仕方ない。特別な存在を理解出来るのは同じく特別な存在だけなのだから」

 

 トルソーはメダルを投げた。現れたのはデルター。属性だけで見ればこちらが優勢か。しかし、油断は出来ない。

 

「ごめん!時間稼いで!!」

 

 アタシはケイラムに指示を出すと、トルソーに背を向け全速力で逃げた。背後からケイラムとデルターの鳴き声と何かの衝突音が聞こえてきた。アタシがスタッフを捕まえて安全な場所を確保したところで、ケイラムを回収すれば問題ない。広いとはいえ、あれだけ沢山いるスタッフなど簡単に見つけられる───────はずだった。

 

「何で……何で誰もいないの!?」

 

 この時間は夕飯時だった。ホリダーもスタッフも食堂に赴いているのだろう。でもシフトで時間をずらした他のスタッフもいるはずだ。なのに何故……?アタシはスマホで助けを呼ぼうとする。

 

「没収」

「っ!?何で─────」

「しーっ…………今は静かに。君の二つの質問に答えると、まず一つ目は、僕が仕掛けたエナドリトラップと警備システムの誤作動に多くのスタッフが施設内に集まっている。二つ目は、花を育てるには筋力や体力が必要なんだ。君たちみたいに何でもかんでも他者に頼り過ぎていると、花は君たちを軽蔑する。花を愛で、かつ花に認められるために必要なのは、己の力だよ。あと、君のディノス、動きが鈍いよね」

「───────!!」

 

 まずい!取り押さえられた!!ケイラムはまだデルターと交戦中だ。戦闘を中断してここまで来てもらうか?否、隙を見せてデルターに倒されてしまっては意味が無い!!

 

「教えてよ。ユミレの居場所」

「し、知らないっ!!!」

「あっそ」

「!?」

 

 手を離した!?抗う力が突然解放され、バランスを崩す。足がもつれて体勢を立て直そうとしたが、足に力が入らない………………

 

「即効性の毒だよ。一度捕まった事自体が取り返しのつかない失敗になるということを学習した方が良い」

「…………っああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 痺れる足を無理矢理地面に突き立て、必死で逃げる。トルソーは追って来ない。いずれアタシが倒れるものだと高を括っているのだろう。ならば、持てる力を全て使って逃げる!絶対に逃げ切ってやる!!意識が朦朧としてきて頭が回らない嫌だ捕まりたくない怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────隠れ家を見つけた。でも、扉を開ける力は、もう残っていない。扉の前で、アタシは倒れ込んだ。ケイラムとのパスは、今ちょうど切れてしまった。倒されてしまったのだろうか。これ程離れていてもパスを繋げられたのなら、せめて誰か助けを呼べば良かった………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜A view of Tolsaw〜〜

 

 

 

 

 ようやく毒が回ったか。思いの外効かなかったのは、配合を間違えたからだろう。確か調合の際に「水やりの時間」が来て自宅の庭に咲く1000本の花に水をやっていたのだった。ビオラ、サルビア、パンジー、スミレ、タンポポ、キク、ローダンセ、ヒマワリ、サボテン、ウメ、モモ、サクラ…………花ごとに異なる美しさと個性。それぞれは互いの個性を消す事なく、力強く咲き誇る。そんな花が好きな僕が、お花リバイバーを好きになるのは必然だった。お花リバイバーには、他のどんなリバイバーにも負けない逞しさと可憐さ、そして力強さがある。それを活かしきれない者は、お花リバイバーのホリダーとして失格だ。トーナメント予選でギンリョウソウのリバイバーを見かけた時は、真っ先に「僕が救わねば」と判断した。今もきっと、あのタペヤラは苦しい思いをしているに違いない。毒が回って倒れ込む君なんかよりもよっぽど辛い思いをしているのだ。僕は必ずあの最低なホリダーからタペヤラを救い出す………………ん?倉庫の扉が開いたな。中に誰か居たのか。見た目からしてスタッフではない。透明な銀髪、センスの無いTシャツの上に黒いジャケット、不良のような見た目をしたあの女は───────!!!

 

「見つけたよ!!ユミレ!!!」

「………………」

 

 顔が見えないな。この女はいつも下ばかり向いている。タペヤラも飛行中は視線を合わせられなくて大変だったろうに。

 

「君のタペヤラを救いに来た!!大人しくこちらに渡せば、彼女に解毒剤を投与するよ!!」

「はいはい」

 

 聞き分けが良いな。ユミレは倉庫から出てくると、両手をジャケットの前ポケットに突っ込んで、気怠そうに向かってきた。

 

「これで……!!これで僕はギンリョウソウを救ったヒーローだ!!!」

 

 興奮が抑えられない。やはり善行は気持ちが良い───────!!!

 

「まあ、そう熱くなるなって」

「…………?」

「グレイ───」

 

 ユミレはギンリョウソウのタペヤラを呼び出した。白銀の翼が月光に照らされて美しい!その姿に見惚れていると、デルターが後ろからやってきた。見事ディノスを撃破したデルターには、後でご褒美をあげよう。今はとにかく、相棒と共に勝利の瞬間を味わうのだ!!!

 

 

 

─────青白い幻想的な光が辺りを包んだと思ったら、突如風が吹いた。あの女の方からだ。生ぬるい風だった。このジメッとした感じが気に入らない。ああ、面倒臭い。早く家に帰って極上の布団にくるまって、24時間365日永遠に俗世間から離れていたい…………立っているのも疲れたので、僕は地面に膝を付いた。ん?地面に膝を付いた?何故僕は地面に蹲っているのだろうか。あっ、そうだ。もう何もかもが嫌なんだ。自分を認めてくれないこの世界が。自分に牙を向くこの世界が。ああ、僕なんてこんな世界に生まれて来なければ良か─────────────。

 

「この顔面への蹴り一発で、ウチからの制裁は一区切りとさせてもらう。後は任せましたぜ、ラフィカさん」

 

 

 

 

 

 

〜〜A view of Humile〜〜

 

 

 「秘密基地」。つまり、例の倉庫で、ウチは寝泊まりしていた。そんなに寒くないし。狭くて暗い部屋は何かと落ち着く。何かあればグレイもいるし。そうやって、ウチは倉庫に置かれていたルービックキューブを適当に弄っていると、突然扉に何かがぶつかる音がした。

 

「えっ、怖……」

 

 ウチはグレイのメダルを手にし、そっと扉を開けた。人が倒れている。この金髪は、モリチャだ。え……何で?何があったの?

 

「見つけたよ!!ユミレ!!!」

 

 前の方には知らない男がいる。よく見てないけど、たぶん知らない男だ。状況が読めずに困惑してると、倒れ込むモリチャから、小さくか細い涙声が聞こえてきた。

 

「ごめん…………ユミレ………………」

 

 全てを察した。いや、そんな察しの良い人間になった覚えはないが、それでも今やるべき事は何となく分かった。ウチは男の方に近づく。射程は確か10 mくらいだった気がする。合ってるよね?グレイ……って、グレイにはSI単位系の概念なんて分からないか。にしても、あの男変に熱くなってるなぁ。本気で取り組んだって良い事ないよ。世の中そんな上手くいく事ばかりじゃないし。そもそもお前みたいな外道がいつまでも調子に乗ってられると思わない事だ。ねぇ、そう思うでしょ。グレイ。

 

 グレイは出現と同時に青白い幻想的な光を撒き散らす。すると、男とその後ろからやってきたデルターの頭頂部にギンリョウソウが咲く。これがヒットの合図らしい。射程内であれば必中の、お花リバイバー専用技。グレイの場合は、「相手の活力を奪い取る」。グレイと触れ合ってる時にグレイから直接教えてもらった。いや、正確には、そんな事が出来るように感じた。不思議な事もあるもんだ。男が静かになったのを見計らって、スマホでラフィカに現在地を送った。そんな遠くないし、すぐ来るでしょ。

 

「うぅぅぅぅぅ………………」

 

 しばらくして男は、唸り声を上げて地面に蹲ってしまった。結構効くんだな、この技。とりあえず、ウチの大事な親友を泣かせた罰として、現役JCの蹴りを一発顔面に食らわせとくか。デルターは……リバイバーに罪は無いのでそのまま無力化されててもらおう。あっ、ラフィカさんの到着だ。後はお任せします。えいっ。

 

 

 

 

 

 月光が高木の枝に隠れて出来た「蔭」の下。結局ウチは、身近な人が傷付くのを見てられなかっただけで、誰も彼も傷付かないでほしいなどという博愛主義じみた思想の持ち主ではなかったのだと理解した。そして同時に、ウチの「戦い方」が何となく定まってきたのだと実感した。

 




次回、Ep. 9「金髪と銀髪」
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