「本当にすまなかった……」
「ええっ!?そんな……頭上げてよ!アタシが注意を怠ったのがそもそもの原因だし、個人で活動する人間の行動を捉え切れないのは仕方ないって!」
「しかし、ユミレに続いてアラモ……いや、モリチャまでも助けられなかった。これは私の不祥事だ」
「ラフィカさんもその名前で呼んでくれて凄く嬉しい。けど、やっぱりアタシらの顧問はラフィカさんだけだからさ」
「……!!」
「これからもアタシと……あのバカの事もよろしく頼むよ!」
そんなやり取りを、病室の扉の前に佇んで聞いているウチ。看護師たちが不審者を見る目つきで通り過ぎていくが、そんな事お構いなしに中の様子を伺う。どうやら、ラフィカが退室するようだ。
「それじゃ、私は仕事に戻る。準決勝に出たい気持ちは分かるが、今日は1日安静にしていてほしい」
「……………………うん。そうする」
ラフィカが扉を開ける。それと同時にウチは隣の空き部屋に隠れ、やり過ごした。ラフィカが戻って来ない事を見計らって、ウチはモリチャの病室に足を踏み入れる。
「ユミレっ……!」
「うっす」
「見舞いに来てくれたんだ!サンキュー!」
「はいこれ。今週の週刊少年ジャンピン」
「おおおお!気が利くぅ〜!今週の『祝賀海鮮』気になってたんだぁ〜!」
「それ好きだよね」
「もち!まあ、元はといえば、ユミレが勧めてくれたんだけどね」
「それな」
ウチは近くにあった荷物棚に見舞いの品を設置する。
「ここにフルバス置いとく。荷物少し退かすよ」
「ええそんなに!?1日安静にしてるだけなのに……」
「この機会にたまにはフルーツ三昧しとけや」
「…………その」
急に歯切れが悪くなったモリチャ。ウチは思わず身構えてしまった。
「アタシ、気付いてなかったんだ。ユミレとアタシが同じじゃないって事に。ユミレと道を違えても、いつかはまた合流すると思ってた」
「…………」
「でも、こんな目に遭って、それでもユミレはアタシの事助けてくれて……もうユミレは、アタシの知ってるユミレじゃないんだなって痛感しちゃってさ」
「…………」
「ユミレは、最初から気付いた上で、アタシの夢を否定しないまま互いの道を進む事を選ばせたんだよね。ユミレって凄いね。ほんとに凄いよ」
「それは……少し違う」
「そうなの?」
「モリチャとウチが違うのは確かに予選以降はっきりと分かったけど、それよりもウチは、夢に向かって本気で挑むモリチャを支えられる自信が無かった。ウチは何かのために本気になって結果的に自分を追い込んでいった人達を知ってるから」
「…………そう、だったね」
「だからウチは、モリチャにそうなってほしくない。でも、モリチャが挑みたいものがあるなら、それも否定したくないって事に気付いた。何だかんだ、結局ウチも視野が狭かったというわけ」
「挑みたいもの……か」
モリチャがウチから顔を逸らす。
「アタシ………………ゆめ、おわっちゃった」
声が震えている。
「せっかく………………新しい目標になったのに………………」
頬を滴が伝っている。
「ユミレも、ロットも、パールも、ラフィカも、みんな…………応援してくれてたのに…………………………」
彼女の中で、はっきりと、「折れてしまった」事を実感した。
「…………悔しい…………………悔しいよ…………………!」
準決勝直前の惨事。トルソーは出場権を剥奪されてロットは不戦勝扱い。モリチャは、解毒剤の効果が安定せず医者からドクターストップが掛かった。このまま行けば、決勝ではロットとパールがぶつかる事になる。そして、モリチャは夢を諦める────。
「出たかった!!!アタシ…………ケイラムと…………戦って、進んで、勝ちたかったよ!!!」
モリチャが腹の底から本気の思いをぶつけてきた。ウチは、そんなモリチャの魂の叫びを初めて聞いた。
「……準決勝、14時からだよ」
「………………間に合わないよ」
「動画配信するんだって」
「………………どうせ不戦勝ですぐに終わるよ」
「なら、せめてその瞬間だけでも見届けな」
ウチは、ポケットに右手を突っ込むと、モリチャに背を向けて病室の扉に左手を掛ける。
「ユミレ…………ごめんね………………」
「………………」
ウチは何も言わず、病室を後にした。
宿泊施設に戻ると、ラフィカが居た。
「何を考えてる」
「世界平和について」
「真面目に答えろ!」
「『真面目』ですよ」
ウチはラフィカに一瞥もくれず、その辺の店で買った「グッズ」をぶら下げて自室へと向かう。
「『太陽』が無ければ世界は終わります」
「…………私は止めたからな」
「責任は全部ウチが取りますから」
「バレたらモリチャも無事じゃ済まない」
「だったらバレなきゃ良い」
ウチは立ち止まり、ラフィカの方を振り返る。
「『グレイ』なウチの戦い方、見せてやりますよ。ひひっ」
〜〜A view of MoLicha〜〜
時計が14時を回った。中止された準決勝の様子をわざわざ見る気にはなれない。そう思いつつも、アタシは無意識でスマホに手を伸ばし、動画サイトを開いてしまった。ユミレの言葉が、いつまでも脳裏に焼き付いていたのだ。生中継の画面が表示され、聞き慣れた実況の声が聞こえてくる。
「本日はパール選手vsアラモ選手!ルーキー達が決勝を巡って火花を散らします!」
「ロット選手出場の準決勝戦は中止になってしまいましたから、こちらの方では名勝負を期待したいです!」
「さあ、両者のリバイバーが場に揃いました!準決勝スタートです!!」
───────は?
「パール選手のバリオンが動いた!!」
「名前は『ホール』と言いましたか。パール選手との息もピッタリです!」
「アラモ選手のディノス『ケイラム』はどう出るのか!?」
待って。何でアタシが出場してるの?夢か。夢なのか。いや、違う。これは────ユミレだ。ユミレが変装しているのだ。面と向かって戦うのが好きではないユミレが、金髪のウィッグと黒いキャップを被り、友人の姿に扮して出場しているのだ。ケイラムのメダルとアタシのホリダーライセンスは、さっきフルバスを置いた時にアタシのバッグからこっそり盗み取ったのだろう。
「これは…………アウトでしょ…………」
案の定、ユミレとケイラムの連携はあまりうまく取れていない。攻撃を回避しようにも、ワンテンポ遅れている。ユミレの指示の出し方も何だかぎこちない。このままでは負けてしまうか、途中でバレて失格ルートだ。
「今のアタシに、『動け』と…………」
ここでアタシが───────本人であるアラモ・リチャードが出場している事を示せなければ、勝っても負けても締まりが悪い。全く、それが病室で寝てる親友にやる事かよ。
「バカ………………ほんっっっっとバカ!!!」
さっきまでの鬱々とした気持ちは既にそこには無い。アタシは、全神経を集中させ、ケイラムの意識を探る。カセキアムから病院までの距離は直線距離にして約10 km。届くか?いや、届ける!!
ケイラムとアタシの間に「共鳴」と呼ばれるパスが繋がったのは、予選から数日後の事だ。絆を深めたホリダーとリバイバーの間に生まれる固い絆のようなものだと、ラフィカは言っていた。そんなケイラムとのパスは、昨夜ケイラムからかなり離れた地点まで逃げていた時でも継続していた。このパスが遠距離でも持続する事は、さっき事情を伝えたラフィカしか知らない。ユミレはおそらく彼女から聞き出したのだろう。
「届け…………届けっっっ───!!」
拳を握り、額に汗を浮かべながら、遠くの相棒に意識を届ける。何かに触れた感覚がした後、画面の向こうで不調気味だったケイラムが突如雄叫びを上げた。
「………………来た!!!」
ケイラムとのパスが繋がった!後は簡単だ。相手やユミレの動きを画面で見ながら、ケイラムに指示を出す。動画の回線のラグはさっきの共鳴接続の反応から少ないと見た。ここからは反撃だ────!!!
「この攻撃は耐えて!ケイラム!!」
昨夜「トルソー≪アイツ≫」が言ってた事を思い出し、作戦を回避重視から防御重視へと変更する。そう。ケイラムはディノスにしては動きが鈍い。だから、その分パワーが高いはずだ。
「おおっと!!ホールの大技にケイラムが耐え抜いた!!!凄まじい耐久力!!!」
リバイバーの個性を見極め、その場に応じた的確な指示を出す。カセキホリダーの素質を、頭で、心で、そして身体で理解する。
「カウンターを決めて畳み掛けろ!!」
アタシが指示を出すと、ケイラムはホールによる水の砲撃を物ともせず、両腕でホールの首を掴む。そして、スタジアムの壁に思いっきり投げつけた。防御力の低いバリオンは、攻撃をまともに受けると大きな隙が生じる。チェックメイト。アタシはケイラムに、大技を繰り出すよう指示を出した。ケイラムは両腕の爪から白い光を放ち、ホールの元へ斬り掛かる。
「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」
画面を挟んで、「金髪」と「銀髪」の泥臭い絶叫が響き渡った。
〜〜A view of Humile〜〜
「クッソぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
パールの悔しそうな声がスタジアム内に反響する。客席は、モリチャを称える拍手と声援で溢れかえっていた。
「………………はぁ」
これが勝者の景色か。こんな事でもない限り、ウチにはもう二度と見られない景色だろう。ガラにもない事をした。あれだけ自己犠牲を拒み、本気で生きられないとほざいていたウチは、今。大切な友人の夢を繋ぐというただそれだけのために、リスクを背負ってまで本気で戦った。いや、でも結局はパス繋いだモリチャが何とかしたんだから、ウチは戦ってすらいないのか。ともかく、ウチの任務はこれで終了だ。記者に囲まれる前に、ウチはスタジアムを立ち去った。控室に戻ると、後ろからパールが追いかけて来た。
「かっけぇじゃねぇか。見直したぜ、銀髪」
「……!?」
「この事は黙っといてやる。俺らだけの秘密だな!」
そう言って、パールは少し悔しさを残した笑みを浮かべ、控室を出て行った。パールの事はてっきり脳筋野郎だと思っていたが、寧ろ高い洞察力と鍛え抜かれたセンスが光る強者に違いなかった。ケイラムが最後に「なんかよく分からないオーラ」を放ってパワーアップしていなければ、反撃されて敗れていたかもしれない。ケイラムに起きた不思議な現象は追々モリチャと相談してみる事にして、ウチは何とか自室に到着し、金髪から銀髪へと戻ったのだった。
次回、「奇跡vs奇跡の裏で」