クレーは任務中岩山をドカーンとして、西風騎士団員が怪我をした。そのおかげでヒルチャールたちを退却させることが出来たのだが、「火力が強すぎる! 加減しろ」とジン代理団長に怒られ、反省室に入れられてしまった。
「クレー頑張ったのにい〜」
クレーは専用の机に顔を沈める。
今回も「ドカーンしてごめんなさい」と反省文を書き終えたクレーは退屈していた。
リサに余計に貰った紙にぐるぐると円を描く。
クレーは退屈な一人の時間を紛らわすため、お絵かきをすることにした。
「アンバーお姉ちゃんに、ジン団長、リサ…、お姉ちゃんにガイアお兄ちゃん!」
「俺を呼んだか?」
「あー、ガイアお兄ちゃんだあー!」
反省室にガイアが入って来た。
クレーはぶすっとしていた顔を満面の笑みに変え、ガイアに駆け寄る。
ガイアの前で立ち止まると、クレーは本日の任務について抗議した。
「クレー悪くないもん! 悪くないのに、ジン団長があ」
「そうだな。クレーの爆弾でヒルチャールが退散したんだもんな。それが無かったら騎士団は大変だったかもしれないな」
「そうだよー。ガイアお兄ちゃん、ジン団長に伝えてよお」
「……」
クレーは首を傾げた。
いつもなら「お兄ちゃんにまかしとけ」と言い、ジン代理団長を上手く説得してくれるのに。だんまりだ。
ガイアは空笑いをし、クレーから視線をそらした。
「ジンに怒られたばかりなんだ」
「えー、ガイアお兄ちゃんが!?」
クレーは驚いた。ジン代理団長を上手く言いくるめているガイアが反省室に入るほどの失敗をするとは思えなかったからだ。
「だから、俺はここで反省文を書く」
「そっか……」
ガイアに期待していたクレーは肩をがっくりと落とし、とぼとぼと歩きながら自分の席に着いた。
ガイアは反省文をさらさらと書き上げた。彼は文面では反省するものの、クレー同様反省するフリである。彼は書き終えた反省文を読み直し「これでいい」と呟いた。
「ガイアお兄ちゃん、終わった?」
「ああ。終わったぞ」
「クレーも終わってるの」
「そうか」
「………」
沈黙が場を包む。
クレーはじっとガイアを見つめる。反応はない。
「俺の顔に何か付いてるか?」
ガイアは机に頬杖を付き、ニヤついた顔でクレーに尋ねる。
クレーは「うっ」と言葉に詰まった。
(クレーから遊ぼうって言わないと駄目かな……)
口に出さないと伝わらない、と理解したクレーは自身の願望をガイアに吐き出した。
「クレー、遊びたい!」
「そうか」
ガイアは席を立つ。そしてクレーを脇に抱える形で抱き上げた。そして、窓の扉を開ける。彼はそこから身を乗り出した。
「え? え!?」
ガイアの行動にクレーは驚いた。
少しの時間放心した後、クレーは足をバタバタさせ、ガイアの腕の中で暴れだした。
「お外出ちゃった!!」
クレーが気づいた時には、二人は外に出ており、モンドの小道にいた。
反省室からの脱走である。
これはジン代理団長に怒られるんじゃ……、という不安な眼差しでガイアを見上げる。
「さあ、クレー"悪い"遊びをしよう」
ガイアはクレーを離した後、口元を緩めた微笑で告げた。
"悪い"と聞いたクレーは首を激しく横に振った。
「だめだめ、悪いのだめー」
「そうか、じゃあ俺一人で行くことにするよ」
ガイアはクレーに背を向けた。
去ってゆくガイアをクレーは引き止めた。
「……悪い遊びって?」
クレーは退屈をまぎわらしてくれる相手を失いたくなかった。
ジン代理団長にバレたら大変なことになると知っていても、ガイアお兄ちゃんならなんとかしてくれる、とクレーはガイアに絶大な信頼を置いていた。
「モンドからの脱走だ」
「モンド出ちゃうの!?」
「ああ」
脱走という響きにクレーの胸が踊った。
ただ、不安なことが一つある。
「ジン団長に怒られない?」
「夕方の鐘がなる前に戻るさ」
「そっか!」
ガイアは考えているから付いて行って大丈夫、とクレーは力強く頷いた。
幼いクレーにはガイアが"屁理屈"を言っていると分かっていなかった。
☆
ガイアとクレーは裏口からモンドを出る。
正門には西風騎士団が見張っているからだ。ガイア一人なら嘘をついて通れただろうが、反省室常連のクレーと一緒では誤魔化しきれない。
清泉町を過ぎたところで、外に出てご機嫌のクレーがガイアに質問した。
「どこに行くの?」
「アカツキワイナリーだ」
「なんでそこに行くの?」
「それはだな……」
ガイアは企んでいるような笑みを浮かべる。
「そこに、俺の大切なものがあるんだ」
「ガイアお兄ちゃんの宝物!?」
興味深い話を聞き、クレーの表情がぱあっと明るくなった。
ガイアの大切なものはなんだろう。自分みたいに宝箱に詰めいてるのかな。アカツキワイナリーにつくまで、クレーはガイアの宝物を想像していた。
「ついたー!」
クレーはグレープ畑の間を駆ける。
屋敷についたところで、ガイアに張り付く。
「ガイアか。これだな」
「ああ、それだ。ありがとう」
ガイアはアカツキワイナリーの従業員から二瓶受け取っていた。
「それが大切なもの?」
「ああ。これがないと西風騎士団はヒルチャールに簡単に倒されちまう」
「それは大変だね!」
クレーは瓶の中身を爆弾を作るための薬だと思い込んだ。
それを使ってヒルチャールを倒す爆弾を作るんだ、とクレーは一人納得していた。
もちろんガイアが受け取ったのは爆弾を作る薬ではなく、果実酒である。
☆
クレーとガイアはアカツキワイナリーからモンドへ戻った。
反省室に戻って来たところで、夕刻の鐘が鳴る。
クレーは反省文を持って、反省室のドアを開けた。
そこにはジン代理団長がいた。
「今日は静かだったな。偉いぞクレー」
「う、うん!」
クレーは反省文をジン代理団長に渡す。それを受け取ったジンは珍しく上機嫌だった。
「ガイアお兄ちゃんのおかげだよ!」
「ほう、ガイアの」
ジン代理団長の笑みは崩れない。
ガイアはジン代理団長が何をしたいのか察し、二瓶を隠した場所に視線を落とした。
「クレーが静かに反省する方法を是非とも教えてほしいな」
「簡単さ。クレーが興味を引くことをすればいい」
「分かればこう苦労はしないのだがな……」
「クレーいっぱい反省したからお家帰るね!」
「ああ。気をつけて帰るんだぞ」
「うん! バイバイ!」
クレーは西風騎士団本部を出た。
クレーとすれ違うときに、ジン代理団長は彼女の髪についていた葉っぱを掴んだ。
ジン代理団長はその葉を観察し「アカツキワイナリーだな」と呟いた。
「クレーは反省室で一日反省していたはずだが、なぜアカツキワイナリーに自生する葉が髪に付いているんだろうな?」
「さあな」
「ガイア! お前はーー」
「ははは……、はあ」
誤魔化せない、と観念したガイアはジンの説教を聞き流すのであった。
ガイアが反省文を書くことになったのもお酒関連です(おまけ)。
次回はリサです。お楽しみに!