クレーは戦闘中、ボンボン爆弾を誤った方向に投げてしまい、騎士団の戦闘を妨害したとして反省室に入っていた。
「『ドカーンしてごめんなさい』っと」
クレーはお決まりの反省文を書いた。
あとは一日反省室で過ごすだけ。
何度も反省室に入れられているため、クレーはうんざりしていた。
「騎士団で生き抜くための心得……、ちゃんと守ってるのにい」
城内爆破は反省室
ケガ人いるところにジン団長あり
山火事は一巻の終わり
ガイアに教えてもらったこの三つはちゃんと守っている。
クレーは事がなんで上手く行かないのだろうと悩んでいた。
クレーはようやく、反省室に入らなくて済む方法を反省室で考えるようになった。
コンコン。
ノックの音が聞こえた。
クレーはドアを開けた。
「リサおば……、お姉ちゃん!」
「……ごきげんよう。クレーちゃん」
訪ねて来たのはリサだった。
クレーはリサが皆よりも大人びているため、『おばさん』と言ってしまうことがある。
リサのひきつった笑みを見て、クレーは唇を両手で隠し、失言をしないよう自身で口を塞いでいた。
「反省文は書き終えたかしら」
「うん!」
「そう。なら、少し手を貸してちょうだい」
「え……、クレーはジン団長に反省室から出ちゃだめって言われてるの」
「それなら心配ないわ。ジンに許可を取って来たもの」
「ほんと! クレー反省室から出ていいの!?」
「ええ。私のお手伝いをするならね」
反省室から出られる、とクレーは全身で喜びを表現した。
大喜びのクレーをみて、リサは「ふふふ」と微笑んだ。
「お返事は、訊かなくてもいいみたいね」
「クレー、リサお姉ちゃんのお手伝いする!」
「ありがとう。じゃあ、図書館に行きましょう」
「と、図書館……」
「どうしたの?」
行き先を聞いた途端、クレーは青ざめた表情を浮かべた。
図書室は反省室の様に物音立てず静かに過ごさなくてはいけない場所。
外でだっただーと駆けまわっていたいクレーにとってあまり好きではない場所なのだ。
一歩後退ったクレーにリサは尋ねる。
クレーは首を激しく横に振り「なんでもないよ!」と自分の気持ちを誤魔化した。
「クレーちゃん、図書館には絵本もあるから反省室よりも楽しいわよ」
「絵本!? 読みたーい!」
「ええ。行きましょ」
クレーはリサから差し伸べられた手を掴み、図書館へ向かった。
クレーとリサは図書館の受付に着いた。
カウンターの前にはクレー用の高さが低い椅子が置いてあった。
「わー、絵本だあ!」
椅子の近くには数冊の絵本が積んであった。
クレーは一番上の絵本を手に取った。風龍と狼が描いてあり、傾けるとキラキラする表紙で、関心をそそるものだった。
「読んでもいい?」
「ええ」
「わーい!」
クレーはいつもの様に喜んだ。その声が大きかったため、図書館利用者が一斉にこちらを向いた。
図書館の中では静かに。
クレーはそのルールを破ってしまったことを思い出し、口を塞ぐ。両手が離れたせいで絵本を落としてしまった。勿論、図書館の本を乱暴に扱うのも厳禁である。
クレーが落とした絵本をリサが拾った。
「ごめんなさい」
「いいのよ。次は気を付けましょうね」
「はーい! あ、またやっちゃった」
リサから絵本を貰ったクレーは、それを夢中になった。
騎士団教本の絵より色鮮やかでページをめくる手が止まらない。絵が飛び出す仕組みがあったりして、感嘆の声を出したくなる。
クレーは何度も何度もその本を繰り返し読む。
「クレーちゃん」
「はわわ!」
夢中で読んでいたため、クレーは突然声をかけられびっくりした。
リサは図書館に入ってきた人を指す。
「お仕事よ」
リサはクレーに一枚の紙を渡す。
そこにはクレーが読める簡単な文章が書かれている。
「これをあのお兄さんに言って頂戴」
「う、うん……」
リサのお願いはこれのようだ。
文章の内容を理解したクレーは困惑する表情を向けたが、満面の笑みを浮かべているリサに文句を言えず、ただ頷いた。
利用者は受付の方にやってきた。本を返却する利用者にむけてクレーはこう言った。
「お兄ちゃん、返却期限過ぎてるよ」
「ご、ごめんねクレーちゃん。最後まで読み切りたかったんだ」
「だーめ! 次は守ってね。守らなかったらーー」
「分かった。次はちゃんと更新するようにするよ」
「クレーちゃんもきっちり守ってるのよ。あなたもしっかり返却期限を守って頂戴」
「は、はい〜」
一人の幼女と女性に同じ指摘を受けた利用者は返却期限が遅れたことを二人に謝り、もうしないと誓ってくれた。次の本を借りたのち、彼は足早に図書館から出ていった。
「クレーのお仕事、これでおしまい?」
「まだまだよ」
「約束破った人にまた言うの」
「ええ。お願いね」
「はーい」
クレーのお手伝いはどうやら本の返却期限が過ぎた相手にチクリと釘を刺すことのようだ。
楽なお仕事、そうクレーは思っていたのだが、守らない人たちが続々とやってきて、その度に読書が中断されるのだった。
☆
「お疲れさま」
夕刻を告げる鐘が鳴る。
リサが労いの言葉をクレーにかけた。
得意ではないお手伝いに、クレーの顔には疲労が浮かんでいる。
「守らない人いっぱいいるんだね」
「モンドの人たちの性格なのかしら……、期限を守らない人が多いのよね」
リサが額に手を当て、首を横に振った。
「さあ、ジンに反省文を提出しましょ」
「うん!」
クレーとリサは図書室を閉館させ、反省室に戻った。
反省室の前にはジン代理団長がいた。二人の姿に気づいた彼女は、はっとした顔を浮かべる。クレーがリサの手伝いをしていたことを忘れていた様子。
クレーは反省室に入り、書いていた反省文をジン代理団長に渡した。
「よし、クレー帰っていいぞ」
「やったあ」
「待って頂戴」
リサがクレーを引き止めた。彼女は巾着をクレーに渡した。
「手伝ってくれたお礼よ」
「わあ! 何が入ってるの?」
「爆弾に使ったら楽しそうな素材よ」
「ありがとう! リサおば……、お姉ちゃん!! またね!」
クレーは巾着をリュックに入れ、騎士団本部を出ていった。
二人のやり取りを見て、ジン代理団長はため息をついた。
「クレーが問題を起こしそうなのを渡して……」
「子供の発想は無限大、あの子の爆弾製造のセンスは今のうちに伸ばしておくべきよ」
怪訝そうにしているジン代理団長をリサは説き伏せる。
「……それで問題が起きているのだが」
「それは、あなたの指導方法が悪いのよ」
「例えば?」
「クレーちゃんが理解できそうな指導教本を反省室に置いているのかしら」
「分かるだろ。私が、クレーの年のときはーー」
「ジン、クレーは貴方ではないわ」
「そ、そうだな……」
ジン代理団長はリサの言い分に頷いた。
「あいつに頼むか」
そして、行動に移すためにある人物の力を借りることを決めた。
次回はアルベドです!
お楽しみに!!