【完結】クレーは反省室で反省しない   作:リヒス

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クレーとウサギ伯爵 上

「クレー、反省室に入る!」

「あ、ああ。だが、反省室に入るほどの問題ではないぞ」

「悪いことしたもん。だから入る!」

「……分かった。反省文を出したら好きな時間で出てきていいからな」

「はーい!」

 

クレーは、だっだだーと団長室を出ていった。

その後ろ姿を見ていたジン代理団長は、不安げな表情を浮かべていた。彼女はクレーの変化に困惑しているのだ。

今までのクレーは悪いことをしても、反省することなく色んな場所をドカーンしていた。だから叱り、反省室に入れていたのだが、アルベドの絵本を受け取ってからはドカーンすることが悪いことだと認めている。

 

「素直すぎるのもな……」

 

極端な行動しか出来ないクレーにジン代理団長は苦言をこぼした。

 

 

「ドカーンしてごめんなさいっと」

 

反省室に入り、早速反省文を書く。

書き上げた後、クレーは絵本を開いた。

『セビュロスきしだんのこころえ』である。

今日のドカーンはどういうタイプなのか確認していたのである。今回のドカーンに当てはまるページを見つけ、クレーは悪いことをしたのだと"反省"する。

 

「よーし、新しい爆弾を考えるぞー!」

 

クレーが反省室に入る目的も大きく変わってしまった。

小さなドカーンでも反省室に入るのは、新しい爆弾のアイディアを練る為である。

アルベドの助言でクレーは気づいてしまった。

自宅よりも反省室の方が爆弾のアイディアが浮かぶ、と。

 

「羽つきの爆弾を思い通りに動かすには〜」

 

独り言を呟きながら、思いつくままのアイディアを紙に描いてゆく。それに夢中になり気がつけば、夕方の鐘が鳴っているのだ。

 

「反省室に入るの楽しい!」

 

どんな理由であれ、クレーは反省室で反省しないのである。

 

「クレー」

「……」

「何してるの?」

「アンバーお姉ちゃん!? いつからいたの?」

「さっきだよ」

 

クレーの背後からアンバーが現れた。

クレーは慌てて紙を体で隠した。

 

「こそこそ何してたのかなー?」

 

クレーの行動に訝しんだアンバーは、企みの笑みを浮かべるとクレーの両脇をくすぐった。

くすぐったいクレーは、その場でもがく。もがいている時に隠していた紙をアンバーに取り上げられた。

 

「ふふーん、お絵かきしてたんだあ」

 

アンバーは紙をすぐに返した。

クレーにとっては爆弾のアイディアを考えていたのたが、アンバーからすると、お絵かきをしているようにしか見えなかった。

 

「うん!」

 

クレーは元気良い返事を返す。

内心はアルベドとの秘密がバレなくてよかったと安堵していた。秘密がバレたらアイディアを真似されてしまうというアルベドの忠告をクレーは素直に信じているのだ。

 

「アンバーお姉ちゃんは? また、飛んじゃいけない場所で飛んじゃったの?」

「……そうなの」

 

アンバーから元気のない返事が帰ってきた。

アンバーはクレーをギュッと抱きしめた。クレーの頬に頬擦りをする。

 

「クレー、慰めてー」

 

それはアンバーが満足するまで続いた。

抱擁が解けると、アンバーは真摯な態度で反省文と向き合う。

 

「書き終わったら一緒に遊ぼう!」

 

アンバーは自分に言い聞かせるようにそう言った。

しばらくしてアンバーの反省文が書き上がった。

「出来たー」と反省文を持ち上げ、背伸びをする。

 

「さあ、クレー遊ぼう!」

「……」

「クレー?」

「え? クレーのこと呼んだ?」

「うん。遊ぼうって」

「遊んでくれるの!?」

「反省文書き終わったからね」

「わーい!」

 

クレーは爆弾のアイディアを練ることに夢中でアンバーの話を聞いていなかった。アンバーが遊んでくれることにクレーは喜んだ。

アンバーはクレーとお絵かきをして遊ぶ。

いつものようにアンバーはウサギ伯爵を描いた。

ウサギ伯爵を見たクレーははっとした。

 

「ウサギ伯爵も爆弾だ!」

 

クレーは思いついた事をそのまま口にする。

アンバーはクレーが突然大声をあげたことに驚いた。

 

「クレー、どうしたの?」

 

クレーの様子がおかしいと心配し、アンバーが声をかけた。

 

「アンバーお姉ちゃん、ウサギ伯爵見たい!」

「ほら、ウサギ伯爵はここだよ」

「絵じゃなくて本物が見たい!」

「うーん、ここでは出せないなあ」

「じゃあお外出る!」

「お外出たらジンに怒られるんじゃ……」

「『好きに外に出ていいぞ』ってジン団長に言われてるの。だから、反省文出してくるね!」

 

クレーは反省文を持って出ていった。

クレーの頭には本物のウサギ伯爵を見ることしかない。

 

「クレー、どうした?」

「ジン団長! これ反省文」

「受け取った。反省室から出ていいぞ」

「うん! アンバーお姉ちゃんとお出かけしてくる」

「アンバー? アンバーは反省室でーー」

「バイバイ!」

 

クレーはジン代理団長の話を聞かず、だっだだーと団長室を出ていった。

 

「はあ……、最後まで聞いてくれよ」

 

話を聞かないクレーにジン代理団長はため息をついた。




下は来週投稿します!
クレーの爆弾への熱意は誰にも止められません(笑)

10話で完結予定です。
折返し地点にきました。
次話もお楽しみに!

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