クレーとアンバーはモンド城の外に出た。
周りに人やヒルチャールがいないことを確認して、アンバーは本物のウサギ伯爵を出した。
「本物だあ!」
ウサギ伯爵はヒルチャールの気を引くためのデコイだ。
アンバーはこれを使って、ヒルチャールとの距離を取り、顔面に矢をお見舞いする。
ヒルチャールがウサギ伯爵を数回殴ると爆発し、木の盾や武器に燃え移るようになっている。
デコイでもあり爆弾でもあるため、ドカーンが大好きなクレーにとって良い研究対象なのだ。
「アンバーお姉ちゃん、借りてもいい?」
「いいよ。でも、爆発させないように気を付けてね」
「はーい」
クレーはアンバーからウサギ伯爵を受け取る。
「ボンボン爆弾とは違う仕組みだあ。面白ーい」
「へえ、私はそういうのよく分からないんだ……」
「ねえねえ、もっとドカーンさせるようにいじってもいい?」
「え? ドカーン……!? そ、それはちょっと」
「え~、いい配合思いついたのにい」
「一個だけならいいよ。近くにヒルチャールの巣があったから、そこで試してみよう」
「うん!」
ドカーン出来るように改良すると言われ、アンバーは今までのクレーの行いを思い出し、不安になった。
クレーは断られると思い、肩を落としがっかりしていた。
そんなクレーの態度をみたアンバーは一度だけならと、言葉を濁した。
「いいよ」と聞いたクレーは悲しい表情からすぐに笑顔になり、ウサギ伯爵を抱き抱えた。
「扱いには気を付けて、ウサギ伯爵は――」
「衝撃を与えると爆発しちゃうんだよね。大丈夫、クレーどういう仕組みで爆発するか覚えた」
「へ、へえ……」
クレーはリュックから材料を取り出す。
これらは全て、クレー自ら配合したもので、爆弾の威力を大きくするものだ。
ウサギ伯爵は強い衝撃を与えるか、時間で爆発する。
クレーのボンボン爆弾よりも仕組みが複雑であり、慎重に扱う必要がある。
だから、ウサギ伯爵はボンボン爆弾よりも火力が低い。
「ドカーンするんだったら、この薬かな!」
クレーは材料の一つをウサギ伯爵に埋め込む。
これでドカーン出来るはずだ。
「アンバーお姉ちゃん、出来たよ!」
「ありがとう。じゃあ、試し撃ちにいこう」
クレーとアンバーはモンド近くあるヒルチャールの集落へ向かった。
西風騎士団はヒルチャールの同行を監視し、勢力がモンドに近づいていれば柵や杭を撤去する業務を行っているため、ヒルチャールの動向を探る偵察騎士のアンバーは、ヒルチャールの巣の場所を覚えている。
クレーの改良により、ウサギ伯爵の爆発力が増えたのならば、最近動きが活発なヒルチャールの巣へ放り込んで無力化させてもいいかもしれない、というアンバーの考えだ。
「クレー、ここでやろっか」
「うん! ウサギ伯爵、しゅつげき!!」
クレーは崖の上からウサギ伯爵を放り投げた。
ウサギ伯爵はヒルチャールの巣の中央へ落ちた。
いつも通り、ウサギ伯爵がヒルチャールたちの気を引く。
ヒルチャールがウサギ伯爵を殴る。
一回、二回、三回、四回――。
五回目に到達した時、ウサギ伯爵の起爆スイッチが入った。
「え、ええ~!?」
轟音と共に、従来の百倍の威力でウサギ伯爵が爆発した。
ヒルチャールたちの姿は跡形もなく、集落は壊滅状態になっている。
アンバーはウサギ伯爵の威力に唖然とした。
「えへへ~、ドカーンした。やったあ」
アンバーと対照的にクレーは大喜び。
「これが、ドカーンかあ。そりゃ、ジンにしょっちゅう反省室に入れられるわけだ」
「アンバーお姉ちゃん、ウサギ伯爵改良してもいい?」
「だーめ! 私に怪我をさせる気かあ!」
「いたい、いたいよお」
アンバーはクレーのほっぺたをつねった。
今回は崖の上から落としたから無事だったものの、普段使いをしていたら、爆発に巻き込まれたヒルチャールの様になってしまう。
「クレー、これで満足した」
「うん!」
「じゃあ、モンド城に帰ろっか。私、まだ反省しなきゃいけないことがあるんだ」
「そっか、うん! モンドに帰ろ」
アンバーとウサギ伯爵をいじり、満足したクレーはモンド城へ帰った。
☆
モンド城へ入ったところで、夕刻を告げる鐘が鳴った。
「あ、鐘がなっちゃった」
「クレーとお別れの時間だね。また明日、騎士団本部でね」
「うん! アンバーお姉ちゃん、バイバイ!」
クレーはアンバーと別れた。
☆
「ただいま~」
アンバーは西風騎士団本部に帰って来た。
今回は特例で反省室から出られたものの、戻ってきたら顔を出せとジン代理団長に言われている。
外でやったこと、ジン代理団長に報告しておこう。
ヒルチャールの巣を一つ壊滅させるほどに、クレーのドカーンは凄まじいものでしたって伝えなきゃ。
コンコン。
アンバーは団長室のドアをノックする。
この時間、ジン代理団長は書類の整理をしているはずだ。
いつもなら「入れ」という声が中から聞こえて来るのに、返事がない。
コンコン。
業務に集中して聞こえていなかったんだろう。
アンバーはもう一度ドアをノックする。
ジン代理団長からの返事はない。
「あれれ~?」
アンバーは恐る恐る団長室のドアを開けた。
中の様子を覗き見る。
机には座ってない。なら、迎えにある書類を見てるのかな。
「ジン!!」
扉を開けると、ジン代理団長が床にうつぶせで倒れていた。彼女のまわりには書類が散らばっており、業務中に突然倒れたようだ。
アンバーはジン代理団長に駆け寄った。彼女の身体を仰向けにさせ、耳を彼女の口元に近づける。
呼吸は安定している。
どうやら眠っているみたいだ。
「よかったあ~、いやいや、全然良くない!」
アンバーは自身に突っ込みを入れつつ、他の団員を呼ぶために騎士団長室を飛び出した。
いよいよ終盤です。
次回作のネタもちょっとずつ形になっています。
この作品を終えても、原神の二次創作は続けます。
次話お楽しみに!