クレーはだっだだーとモンドを駆ける。
商店街、噴水広場を抜け、西風騎士団本部も通り過ぎた。
階段を登り、風神象を抜け、大聖堂で走るのを止めた。
「どうしたんだいクレーちゃん」
「ジン団長が! ジン団長が!」
「ああ、ジンさんだね。バーバラの治療を受けているよ。過労だ――」
大聖堂前の兵士にジン代理団長の居場所を聞いたクレーは、最後まで話を聞かず、大聖堂の中へ入った。
クレーの後ろ姿に、兵士はため息を吐く。
☆
「クレーちゃん」
「バーバラお姉ちゃん! ジン団長は?」
聖堂内を駆けまわり、クレーはバーバラを見つけた。
沈んだ顔をしていたバーバラだが、クレーを見つけ、笑顔を作る。
クレーはジン代理団長の様子を尋ねるも、バーバラは首を横に振った。そして人差し指を唇に当て「しー」っと言った。
「聖堂ないではお静かに! あと、走っちゃだめだよ」
「ご、ごめんなさい」
「分かればよろしい」
バーバラの注意を受け、クレーはシュンとする。
ジン代理団長の妹であるバーバラは、顔つきが姉と似ている。
注意する際、丸い瞳が吊り上がる様子がそっくりだ。ジン代理団長に怒られているようにクレーには感じられた。
「ジンは仕事のし過ぎで倒れただけ。身体をここで休めているだけだから、安心して」
「よかったあ」
「だから、クレーちゃんも仕事――」
「バーバラお姉ちゃん?」
バーバラが何か言いかけた。クレーは上手く聞き取れず、じっとバーバラを見つめる。
「クレーちゃん、お願いがあるんだ」
バーバラの顔つきが変わった。
バーバラのお願いとは何だろう。クレーの関心が更に高まった。
「モンドの外で派手にドカーンしてきてくれないかな」
「え? いいの!?」
派手にドカーンしてくれ、そう頼まれたのは初めてだった。
クレーはバーバラのお願いに耳を疑った。
バーバラは「いいよ」と言った。
「あ、でも、周りに人がいないことを確認してね。クレーちゃんが怪我しちゃうドカーンはダメ」
「はーい」
「お願いね」
クレーはだっだだーと聖堂を出た。反省しないクレーはバーバラの『聖堂内は走っちゃだめ』という注意を忘れている。
バーバラは注意しようにも「あっ」と言葉が漏れただけで、何も言えずクレーの後ろ姿を見守るだけだった。
☆
クレーはスキップしながら、モンド城を出た。
今日は好きにドカーンしていい日。
草原を歩きながら、クレーはドカーンする場所を考えていた。
人に迷惑がかかるドカーンはダメ。
クレーが怪我するような危険なドカーンもダメ。
「どこにしよっかな~」
好きにドカーンしてもいいと言われると、どこをドカーンするか考えてしまう。
「お魚にしようかな~、それともヒルチャールかな?」
こんな理由でドカーンされる魚もヒルチャールもたまったものではない。
「あっ」
モンドの外を歩いていると、ヒルチャールの集落を見つけた。
そこは先日『改良型ウサギ伯爵』で木っ端微塵に破壊された場所である。
あそこまで破壊されたにも関わらず、ヒルチャールたちは集落を再建していた。
この場所はモンド城全体を眺めることが出来、ヒルチャールたちにとっても立地がいいのだろう。
更地にされた理由を知る者たちはクレーによって吹き飛ばされたので、危険性を伝えることも出来なかった。
「ここにしよう!」
そして再び、クレーの手によってヒルチャールの集落は壊滅させられるのであった。
ドカーン。
ドカーン。
爆音と共に、ヒルチャールが吹っ飛んでいく。
「ボンボン爆弾!」
ボンボン爆弾に当たったヒルチャールたちは、火の粉を消そうとその場をぐるぐる回っている。そのうちに誘導弾が爆発し、更に被害が広がる。
「火力、ぜんかーい!」
調子がノッテ来たクレーはドッカン花火を発動させた。
ヒルチャールや建物に花火が降りかかる。
花火が舞っている間も、クレーは爆弾を投げ続けた。
「やったあ! ドカーンおーわり!」
ヒルチャールの集落が壊滅させられるのに、そう時間はかからなかった。
クレーにしては派手にドカーンした方である。
「人にも迷惑かけてないし、クレーも怪我してない。よーし、バーバラお姉ちゃんに報告――」
クレーは油断していた。
ヒルチャールの一人が、最後の力を振り絞り、氷元素を込めた弓矢をクレーに向けて放ったことに気付かなかった。
「ひゃ」
その矢はクレーの太腿に突き刺さった。
「痛いよお」
爆弾を散々投げて、集落を壊滅させた人物の言うセリフではない。
矢を放ったヒルチャールはその場に倒れ、動かなくなった。
クレーは脚に刺さった矢を抜こうとするも、非力だったためそれが出来なかった。
氷元素のせいで、体がどんどん冷えてゆく。
「クレー、失敗した」
モンドに辿り着く前に、クレーはその場に座り込んでしまった。
矢が刺さっている足が動かなくなってしまったのだ。
「どうしよう」
クレーは急に不安になった。
いつもは西風騎士団の人たちと一緒に行動しているため、こんなトラブルが起きることはなかった。
不安な気持ちでいっぱいになったクレーはぽろぽろと泣き出した。
「クレー!?」
名前を呼ばれた方へ、クレーは顔を向けた。
「ベネット……、お兄ちゃん!!」
「どうしたんだ……? 足に矢が刺さってる」
「助けてえ」
「分かった」
そこにいたのはベネットだった。
クレーの容態を瞬時に理解したベネットは、そっとクレーに近づく。
「クレー、爆弾を全部、床に置いてくれないか」
ベネットの要求通り、クレーは爆弾を全て床に置いた。
それを確認したベネットはクレーの太腿に触れる。
「氷元素が含まれてるな。痛くて冷たかったろ、今、抜いてやるからな」
「うん」
「痛いのは一瞬だ。我慢してくれな」
「……うん」
ベネットは矢を引き抜いた。それから、彼は包帯でクレーの足をきつく縛った。そして彼は神の目を使い、クレーの傷を癒した。
「ありがとう!」
「単独行動は感心しないな。一人で冒険していいのは俺だけだぞ」
「ごめんなさい。クレーはりきちゃった」
「張り切った……? まあ、それは帰りながら聞くよ」
ベネットはクレーを背負い、彼女の荷物を担いだ。
「モンドまで送っていく。傷を塞いだつもりだけど、一応バーバラに診て貰おう」
「うん」
クレーはベネットに背負われた状態で、モンド城へ帰還した。
投稿遅れてすみません。
次回お楽しみに!