「クレー、お前ってやつは」
クレーはベネットに背負われて西風騎士団本部に帰ってきた。
翌日、大聖堂から退院してきたジン代理団長がクレーと対峙する。
クレーはぽつりぽつり言葉を選びながらジン代理団長に事情を説明した。
それを全て聞き終えたジン代理団長は深いため息をついた。
「一人で勝手な行動をするなと、何度も言ってるだろう」
「ごめんなさい……」
幼いクレーだからこそ、ジン代理団長は心配している。
一人でモンド城外を冒険しているとアルベドから聞いた時は、彼を反省室送りにしたことがあるほどの過保護だ。
「たまたまベネットに見つけて貰ったからいいものの、そうでなかったらお前は――」
「クレー、好きにドカーンしていいって言われたら張り切っちゃった」
「それは仕方がない」
シュンとした顔をするクレー。彼女はきちんと反省している。
そう思ったジン代理団長はクレーの頭をなでた。
「活性化しているヒルチャールの集落を壊してきてくれてありがとう。よくやった」
「クレー、偉い子?」
「ああ。立派な”火花騎士”だよ」
「やったあ」
「だが、昨日の行いを反省するんだな」
「はーい」
反省といったら反省室。
クレーの身体は自然と反省室の方へ向いた。
「いや、今日は反省室ではない」
「え?」
「私と一緒に散――、いや、モンドをパトロールだ」
「お散歩するの!? やったあ!」
「散歩じゃない! 支度が出来たら出掛けるぞ」
「はーい」
こうしてクレーとジン代理団長はモンド城を出て行った。
☆
ジンがクレーと共にパトロールすることになった理由は、少し前にさかのぼる。
ジンが過労で倒れ、大聖堂で眠っていた時のことだ。
「お姉ちゃん! 働き過ぎだよ」
「西風騎士代理団長はこうでもしないと務まらないのだ。コーヒーでは眠気が抑えられなくなったか、他の飲み物を――」
「飲み物のせいにしないで。身体が限界だって訴えた証拠なんだから」
「……すまない。だが――」
「お姉ちゃんが抱えていた仕事は、アンバーとリサさんにお願いして西風騎士団でやって貰ってるから。お姉ちゃんは一人で抱え込み過ぎなの。もっと騎士団の人たちを頼ってよ」
「皆、懸命に働いてくれている。小さなこと、私が出来ることは自分で済ませたほうが早く終わるんだ」
「それがダメなの!」
休憩室での姉妹の喧嘩は堂々巡りだった。
休めという妹のバーバラ。
自分で済ませたほうが早いから、いくつもの仕事を掛け持ちするジン。
睨み合いはしばらく続いた。
「そろそろ仕事に戻っていいか?」
沈黙を破ったのはジンだった。
ジンの発言にバーバラは「もー」と言って激怒する。
「仕事のし過ぎだっていってるじゃん! もう、怒ったよ!」
バーバラはびしっとジンを指し、こう言い放った。
「一週間お仕事禁止! 西風騎士団本部出入り禁止!」
「は……?」
「って、気を失っている間、西風騎士団の人に伝えちゃったもん」
「バーバラ……。西風騎士団は――」
「なんでお姉ちゃんは団長室で気を失っていたのかな? 禁止している間、”反省”してね」
「……分かった」
とバーバラに言われたものの、こっそり仕事をしようと西風騎士団本部、団長室へ足を運んだところ、クレーが怪我をしたという報告を受け、今に至る。
☆
「ジン団長! どこをパトロールするの?」
「そうだな――」
モンド城を出る直前、ジン代理団長を見た兵士に止められた。
バーバラの忠告が身に染みているらしく、仕事をしようとするとこの調子で止められてしまう。
事務作業、訓練はダメ。となれば、外で自主的にパトロールしようと思いついたわけだ。
だが、ジン代理団長の性格を知り尽くした西風騎士団員は一人で外出することすら許してくれなかった。
というわけで、クレーの出番である。
クレーと一緒に出掛ければ、”付き添い””保護者”と許してくれるだろうとジン代理団長は考えたのだ。
バーバラにああいわれても、ジン代理団長は仕事をする。
ジン代理団長もクレーと同じく”反省しない”性格なのだ。
「ダウババの谷へ行ってみようか」
「うん! 楽しそう!」
モンド城からダダウパの谷まで結構距離がある。
ヒルチャールが多く生息する場所ともあって、目を光らせている場所だ。
クレーとジン代理団長はそこを散歩もといパトロールをしていた。
「おっきい鍋があるー」
クレーは崖の下からヒルチャールの集落を眺める。
モンド城校外の集落と違って、ここはとても大きい。
調理をするために使う、大きな鍋は圧巻だった。
「クレー、後ろ!」
ジン代理団長に呼ばれた。クレーが振り返ると、ヒルチャールが木の棒でクレーに殴りかかる寸前だった。
クレーはその攻撃を後方へ避ける。
だが、後ろは崖。足の踏み場を失ったクレーは地に落ちていった。
「はわわっ」
落下してゆくクレーの身体をジン代理団長が受け止める。風の翼を使い、落下速度を殺した。
クレーとジンは着地した。
そこは大鍋の前。招かれない客の来訪に、ヒルチャール達は武器を持ってクレーとジン代理団長の前に立ちはだかった。
「これはいい運動になりそうだ」
ジン代理団長はそう呟き、片手剣をヒルチャールに向かって振るった。
一人でも全滅できそうである。
「クレーもバンバンする!」
クレーは爆弾を投げに投げる。
ジン代理団長とクレーの攻撃により、ダウババの谷の一つが全壊してしまった。
「ふう」
ジン代理団長とクレーがダウババの谷を歩くと、二人を恐れたヒルチャールたちが道を開けた。
戦意を失ったヒルチャールを見たジン代理団長は剣を納めた。
今日は任務ではない。なので、殲滅しなくてもいい、という考えだ。
「さて、帰るか」
「うん!」
クレーとジン代理団長はモンド城へ帰る。
☆
城門をくぐると、アンバーがいた。
「ジン! どこいってたの? 探したんだから」
「……どこでもいいだろ。今日は休みなんだから」
「あのね、エンジェルスフィアで酔っぱらった西風騎士団員が取っ組み合いの喧嘩をしてるの!」
「なんだと!?」
「お願い! その人たちに喝入れてくれないかな」
「分かった。すぐにいく」
ジン代理団長はエンジェルズシェアに向かって駆けて行った。
取り残されたクレーはアンバーの前に立った。
アンバーはジン代理団長の姿が見えなくなると、「ごめんね」と舌を出して笑った。
「ああでもしないと、酒場に行かないジンが悪いんだから」
「アンバーお姉ちゃん?」
「さーて、クレーも行こう」
「え? どこに?」
「行ってからのお楽しみ」
アンバーはクレーの手を引き、ある場所へ向かった。
彼女の行く先はジン代理団長が駆けて行った方角と同じだった。
次話で最終話です。
お楽しみに!