怒りが全身を熱く駆け巡っていた。
あの場でキラがコーディネイターだと明かしてしまったフレイの浅はかさ。キラを「裏切り者のコーディネイター」と言ったガルシアの汚らわしさ。キラが傷つく状況で、何もできなかった自分。向けられる銃口よりも、それらが腹立たしくて仕方なかった。
ナナは苛立ちをぶつけるように、強くキーボードを叩いていた。ひとまず怒りをどこかへ置いて、冷静にこれからのことを考えなくてはならないはずなのに。
「おい! まだロックを解除できないのか?!」
コックピットを取り囲む技術者のひとりが、痺れを切らしたように言った。その瞬間、コックピット内にアラートが響く。
「な、なんだ?」
「解除されたのか?」
馬鹿なヤツら……。騒ぎ出す彼らに、ナナは冷ややかな視線を送る。それで少し、冷静さを取り戻せた。
「すいませんね、アナタが話しかけたから暗号コードをひとつ間違っちゃいました」
薄く笑うと、彼らは一斉にナナを睨んだ。
「あーあ……もう一度やりなおさなくちゃ」
わざと大きな独り言を言い、ナナは再びキーボードを打ち始めた。
「最高機密だから、複雑なロックをかけてるんですよ。気が散るから話しかけないでくださいね」
彼らの苛立ちは最高潮に達している。ものすごい目つきでこちらを睨み、今にも発砲しそうな雰囲気だ。が、どうにか時間を稼がねばない。キラもおそらく、ストライクで同じことを考えているはずだった。ロックなど、本当はあと一つキーを叩けば解除される。だが今は、解除にてこずっているフリをして、この状態を脱しなければならない。機を伺うという受け身の戦法しか見つからないが、せめてアルテミス本部に連行された士官が艦に戻るまで……。
やがてナナが3度目のアラートを鳴らした時、アルテミス内部が突然大きく揺れた。
「なんだこの衝撃は……!?」
「こ、これは……爆破か……!!!?」
コックピットに群がっていた軍人や技術者たちが、驚いてドック内を見渡す。
「キラ!!」
その隙に、ナナはキラに合図を送る。と同時に周囲の人間を蹴散らし、コックピットのドアを閉じた。
「き、貴様っ!!」
「何をする!!」
最後のキー『G』を叩き、グレイスのメインコンピュータを起動させた。
≪ナナ……!!≫
「キラ、動ける?」
≪だ、大丈夫……!!≫
ストライクと交信し、すぐにブリッジと連絡をとる。
「ブリッジ?! そっちの状況は?!」
≪……グレイスか? こちらブリッジ、艦長たちはまだ戻らないが、どうにか始動できそうだ≫
ナナからの呼びかけにややあって、チャンドラの声が返って来た。
「よかった……」
とりあえずホッとする。クルーたちはあの軟禁状態をどうにか脱し、アークエンジェル始動の体制を整えつつあったのだ。
が、少しも気を休めることは許されなかった。爆撃はまだ続いている。
≪どうやら要塞内にMS《モビルスーツ》が侵入したようだ……≫
鉄壁の防御を誇っていたアルテミスの“内側”に……?
が、ナナもキラも、アルテミスの軍人ほど驚きはしなかった。
≪キラ、ナナ! 侵入したMSはブリッツよ!≫
オペレーターブースについたミリアリアがそれを伝える。
≪外側にはデュエル、バスター、それにローラシア級がアルテミスを攻撃中……!!≫
「了解」
返答すると、続けざまにキラに言った。先ほどの心の揺れを、微塵も感じ取られぬよう。
「キラは艦長たちを救出して。私はブリッツを抑える」
彼は一瞬躊躇った後、
≪りょ、了解……。ナナ、気をつけて……!≫
通信モニターに映ったキラは、目を伏せながら答えた。
2023/7/12 改訂