「つくづく拾い物をするやつだな、キミは……」
ナタルの皮肉とため息がアークエンジェルのドックにこぼれる。
作業を中断して帰艦したストライクが持ち帰ったのは、物資ではなく救命ポッドだった。
「開けますぜ」
マードックの合図で、取り囲む兵士が銃を構える。
ポッドのマークは民間船のそれとはいえ、『プラント所有』を意味するものだった。
中からは何が飛び出すかわからない。
緊迫した雰囲気の中、扉は開かれた。
そして中から現れたのは……
「マイド!」
ピンク色のしゃべる球体……。
「……は……?」
それはけたたましく喋りながら、ナナに向かって飛び跳ねた。
「なに……これ……」
両手で受け止めたものの、その「おもちゃ」の意味がわからないでいると……。
「ありがとう……ご苦労様です……」
別のものがポッドから現れ出た。
桃色の長い髪をした、美しい少女だった。
拍子抜け……というより、あっけにとられた周囲に構わず、少女はにこやかにナナの両手に留まる球体に向かう。
途中、無重力の中でバランスを崩した彼女に腕を差し伸べたのは、キラだった。
「ありがとう」
どこか気品のある笑顔を向けられ、キラは戸惑いを浮かべた。
が、次の少女の言葉で、周囲はもっと困惑することになる。
「まぁ……ここはザフトの船ではありませんの……?」
何てのん気な……。
ナナも呆れてため息をついた。
両手の中で、ピンクの球体が賑やかに言った。
「テヤンデイ! オマエモナ!」
彼女は、名をラクス・クラインといった。
まぎれもなく、現プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの実子だった。
つまり、地球軍にとっては「敵」の「ボス」の「娘」……である。
「血のバレンタイン」の悲劇追悼一周年式典に追悼団団長として出席するため、彼女はこの宙域を訪れていたのだった。
が、途中で地球軍の民間船と遭遇してしまい、その対応について船内でいざこざが発生し、身の危険を案じた者が彼女を救命ポッドで逃がしたという。
とんだ拾い物をしてくれた……。
ナタルはあからさまにため息をついた。
マリューやフラガも、補給問題が片付いた直後の新たな問題に頭を抱えた。
当のラクスは、敵陣に居るというのに、周囲にくったくない笑顔をふりまいた。
まるで事態を「問題」と感じていないようだった。
形式上は「保護」でも、鍵のついた部屋に「軟禁」されているにも関わらず。
だから、仲間とはぐれて遭難した彼女よりも、動揺しているのは周囲の方だった。
今も、食堂では少女たちの言い争いが起こっている。
「嫌なものは嫌なの!!」
「フレイ!!」
ドックでの作業がひと段落したキラとナナは、食堂に入るなり思わず顔を見合わせる。
聞けば、ラクスに食事を運んでくれというミリアリアの頼みを、フレイが執拗に断っているのだという。
理由はもちろん、ラクスがコーディネーターだから……。
フレイは、コーディネーターの能力を恐れていた。
遺伝子を操作して生まれたコーディネーターと、自分たちナチュラルの違いを恐れ、嫌悪していた。
「あ、でもキラは別よ!」
キラの姿を見とめ、慌てて取り繕うフレイに対し、キラが曖昧に笑みを返した時、
「何が別ですの?」
混乱の主が登場した。
鍵がかかっている部屋に居るはずの彼女が何故……?
誰もが声を出せずにいる。
「私もみなさんとお話がしたいですわ」
ラクスだけが笑った。
そして、
「なんでアンタがここに居るのよ!!」
恐怖と憎悪の声で、フレイが叫んだ。
「なんでザフトの子がここに居るのよ!!」
フレイは後ずさった。
が、ラクスはにこやかに彼女に近づく。
「私はザフトの軍人ではありませんわ……あら、あなたもそうですわね?」
そして、手を差し出す。
「では、お友達になりましょう」
その手は、友好の印だった。
だが、フレイがそれに応じるはずもなく。
「ちょ、ちょっと……やめてよ!!」
汚いものでも見るようにその手を見つめ、
「なんで私がコーディネーターなんかと握手しなくちゃならないのよ!!」
その場を切り裂くようにそう叫んだ。
そのセリフに、さすがのラクスも差し伸べた手をさ迷わす。
初めて彼女の顔が凍りついた。
そしてキラは、かすかに震えた。
誰もが靴底を床に張り付かせている中で……。
「どいてよ、フレイ」
ナナがつかつかとカウンターに歩み寄り、トレーを取り上げる。
そして、もうひとつ。
「行こう、ラクス。私がアンタの部屋で食べるから」
その言葉に促されて場を取り持つように、ハロがまた騒ぎ出す。
「あ……、ぼ、僕が持つよ」
片手に一つずつのトレーを持って、さっさと食堂を出ようとしたナナに、キラは不意にそう言った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここのみなさんは、私のことがお嫌いなんですね」
部屋に戻るなり、ラクスは初めて暗い表情を見せて呟いた。
「そりゃあ、この艦はコーディネーターと戦ってるんだし……」
当たり前のことを、キラはためらいがちに言う。
「こちらのみなさんとお話したかったですわ」
それでもラクスは、置かれた食事を見て残念そうにため息をついた。
「私が話し相手になってあげるからさ、ここで我慢しててよ」
ナナが向かいの椅子に座る。
「でも……」
ラクスは言った。
「あなたたちはとてもお優しいんですね」
美しい笑みで、二人を見る。
「ぼ、ぼくは……」
キラは言葉を詰まらせながらも、告白した。
「ぼくもっ……コーディネーターですから……!」
ナナはうつむくキラを見上げた。
複雑なカオ。
継ぐべき言葉はみつからなかった。
代わりにラクスがこう言った。
「でも、あなたが優しいのは、あなただからでしょう?」
優しい言葉、優しい笑み。
キラは久しく与えられなかったそれに戸惑うように、部屋を出た。
その後しばらく、ナナはラクスの部屋にいたが、誰もそれを気にとめなかった。