戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

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 ラクスの身柄をどうするのか……決断を下せないまま、アークエンジェルは月の地球軍本部へ向かっていた。
 ひたすらザフトに見つからぬよう、祈りながら。
 だが、そこに希望の光が差し込む。
 本部からの第8艦隊先遣隊が、アークエンジェルを迎えにやってきているという通信が入ったのである。
 しかも先遣隊の中には地球連合外務次官ジョージ・アルスター……フレイの父親の姿があったのだ。
 フレイや、他の乗員のみならず、さすがのナナも安堵した。
 先遣隊と合流さえすれば、ザフトもそう簡単に手出しをして来られないだろう。
 そのまま本部へ着くことができれば、艦に乗っている難民は無事に保護される。
 そして……キラたちも。
 ただ、ラクスの身が心配だった。
 ラクスにとって、いわば敵の本陣へ送り込まれるのである。
 いくら民間人とはいえ、彼女は評議会議長の娘。
 敵対するザフトの最高司令の娘である。
 それを地球軍がただ手厚く保護し、あっさりと送り返すとは微塵も考えられない。

 だが、事態はそれ以前の凶事に陥った。
 先の見えない緊迫感から開放されたブリッジは、再びどん底に突き落とされる。
 先遣隊が、ザフトの襲撃を受けたのだ……。



モントゴメリ撃沈(前編)

「『ランデブーは中止! アークエンジェルは反転離脱せよ』との打電です!!」

 

 

 ここまできて……。あと一歩のところで……。

 そう悔しがったとて、事態は変わらなかった。

 マリューは艦長として決断を下さざるを得なかった。

 

 

「今から反転離脱しても、逃げ切れる保証はありません……。アークエンジェルは先遣隊援護に向かいます!」

 

 

 艦には第一戦闘配備がしかれた。

 自室で休憩をとっていたキラは、ドックに急ぐ。

 

 

「キラ!」

 

 

 その彼を、呼び止める声。

 

 

「キラ……! ねぇパパは……?!!」

 

 

 蒼白の顔で彼にすがりつくのは、フレイ・アルスターだった。

 

 

「パパの船は……大丈夫よね……?!!」

 

 

 キラは彼女を安心させるように、優しく言った。

 

 

「大丈夫だよ、僕たちもいくから……!」

 

 

 フレイはかすかに安堵した顔を見せた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 戦渦の宙域へ駆けつけたアークエンジェルが目の当たりにしたのは、護衛艦バーナードとロウの撃沈だった。

 それを成したのは、イージス……。

 後ろからはあのナスカ級が「とどめ」を狙っていた。

 アークエンジェルからストライクとグレイス、そしてメビウス<ゼロ式>が発進した。

 なんとしても、残る戦艦モントゴメリを護らねばならなかった。

 

 グレイスはジンと交戦した。

 ゼロが1機を撃破したものの、被弾し帰還する。

 ストライクはイージスと戦っていた。

 

(徹夜でシステムいじったのに……!!!)

 

 戦いやすいようシステムを調整しておいたにも関わらず、グレイスは苦戦していた。

 集中力の乱れ……それも命中力を鈍らせていたかもしれない。

 目的はジンの撃破でなく、モントゴメリの救援である。

 あの艦を、ジンだけでなくナスカ級からも護らねばならなかった。

 それに……。

 

 

(キラっ……!!)

 

 

 ストライクはまた、イージスと戦っている。

 キラは、また“アスラン”と戦っている。

 本当は阻止したかった。

 キラの代わりにイージスを、……“アスラン”なる人物を討つことになっても。

 同じようにキラが悲しむとしても、己の手で“落とす”よりは他人の手で成されるほうが苦しみは少ないと……せめてそうであったらと、そう思っていた。

 が、二人は引き寄せ合うように、刃を向け合った。

 

 

「くっ……!!!」

 

 

 ジンのロックをはずし、逆にロックする。

 グレイスのライフルが火を噴いた。

 

 

 1機撃破。残るエネルギーは50%。

 手に残る発射ボタンの感触が残ったまま、ナナはモントゴメリへとグレイスを向かわせた。

 しかし、その刹那……。

 ナスカ級の砲撃が、モントゴメリを襲った。

 

 

「うわっ…………!!!」

 

 

 モントゴメリに接近していたグレイスは、その爆発に吹き飛ばされる。

 

 

≪ナナ……?!!≫

≪ナナっ!!!≫

 

 

 ミリアリアとキラから、同時に通信が入る。

 が、機体が受けた衝撃で、ナナは息すらまともにできなかった。

 辛うじて開いた目に、眩い光になって散るモントゴメリが映った。

 

(そんなっ……!!)

 

 絶望感に、背筋が凍りつく。

 だが、ナスカ級の狙いが次にアークエンジェルに向くことを、ナナの感覚が察知した。

 喉の奥で膨らむカタマリを飲み込み、ナナは機体をフルパワーで立て直す。

 乱れた息を整えもせず、ナスカ級に向かう。

 その時、

 

 

≪こちらは地球軍特装艦アークエンジェル!≫

 

 

 全周波回線で、聞き覚えのある声が発せられてきた。

 

 

「バジルール少尉……?!」

 

 

 突然のことに、グレイスの動きは止まった。

 ストライクと、イージスも静止した。

 

 

≪当艦は先日、プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クライン嬢が遭難しているところを発見、保護した!≫

 

 

 モニターに、アークエンジェルのブリッジが映し出される。

 そこにはナタルと、そしてラクスの姿があった。

 

 

≪我々は人道的立場で彼女を保護したが、貴艦が当艦に対して攻撃した場合、彼女の身柄に対する責任能力を放棄したと見なし、当艦は彼女に対して然るべき処置を取ることをここに警告する!≫

 

 

 いわゆる……人質。

 アークエンジェルはラクス・クラインを人質にとったのだ。

 ナスカ級は当然攻撃を中止した。

 イージスも、撤退した。

 ナナとキラは、互いに言葉を交わさぬまま、そのアークエンジェルへと帰還した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「どういうことですか!? 彼女を人質にするなんて!!」

 

 

 キラの怒りを、ナナも同じだけ持っていた。

 

 

「そうするしかなかったのは、オレたちが役目を果たせなかったからだ! ……艦長や副長を責める権利はないよ、オレにも、お前にも……!」

 

 

 フラガの言うことも当然だった。

 ナナは二人のやり取りを視界の端に入れながら、ロッカールームへ入った。

 ヘルメットを放り投げ、スーツのチャックを乱暴に下ろす。

 汗の粒がいくつも浮遊した。

 身体に受けた衝撃は、まだ引かなかった。

 戦艦の爆破で吹き飛ばされて、機体に損傷がなかったのはラッキーだったが、人間の……ナチュラルの身体はそれほど丈夫にはつくられていなかった。

 全身の痺れ、吐き気もあった。

 が、不快なのは身体よりもこの事態にであった。

 

 

「くっ……!!」

 

 

 拳で壁を打った。

 無力な自分が、一番不快な存在だった。

 「護る」ための努力はしたつもりだった。

 昨日も睡眠に宛がわれた時間を割いて、グレイスのシステムを改善した。

 ストライクとの連携を高めるための攻撃もインプットした。

 艦隊との合流で、この先そんな必要がなくなったとしても、やれることは全てやろうと思った。

 それなのに……なにひとつ、護れなかった。

 艦隊も、フレイの父親も、ラクスも……キラも。

 

 イージスが去り際、“アスラン”がキラに何を言ったのか……知らずとも想像はついた。

 想像がつくだけに、苦しかった。

 キラがもっと苦しんでいることもわかって、胸が痛かった。

 彼に対して、自分が何もしてあげられないことも、知っていた……。

 

 

 

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