まだクラクラする頭を無理やり抑え、ナナは居住区へ向かった。
ラクスは今……どうしているだろう。
「人質」にされて、軟禁されて……。
ナナはその“生い立ち”から、友人を作る機会が極端に少なかった。
だから自分が、キラの友人たちに溶け込めないことを知っていた。
彼らも、心の中では自分を怖がっていることも分かっていた。
が、ラクスは違う存在だった。
初めから彼女が、「プラント最高評議会議長の娘」ということは知っていた。
そういう存在である彼女の、くったくのなさに興味を覚えた。
敵の壁の内に入ったくせに、ちっとも壁を作らない。
平和を唄う少女は、美しくたおやかに笑みを振りまいた。
それに、彼女はきっと、何かを導く存在だった。
おそらくキラも、感じているはず。
『でも、あなたが優しいのは、あなただからでしょう?』
そう言ってほほ笑んだラクスの崇高さ。
本当はずっと、そんな言葉を知りたかった。
ナチュラルとかコーディネーターとかじゃなく、キラはキラであり、自分は自分であると……。
それを表す言葉を、ナナはずっと探していた。
至極簡単な言葉なのに、ラクスの声でようやくみつけた。
だから彼女は、ナナにとって特別だった。
そのラクスに、今、言うべき言葉は見つからなかった。
彼女の尊厳を守れなかったのは、自分の弱さ……。
だが、それでも彼女に会うために、ナナはひとりで向かった。
が、途中……、ある部屋の戸口にたたずむキラの姿を認める。
室内は、ただならぬ雰囲気。
ナナは嫌な予感がしてかけつけた。
すると、フレイが取り乱した様子でサイにしがみつき、泣いていた。
錯乱してベッドから落ちたのか、乱れたシーツが床に落ちていた。
そして、フレイは立ち尽くすキラに向かって叫んだ。
「あんた……自分もコーディネーターだからって、本気で戦ってないんでしょっ?!!!」
何かが砕け散った音が、耳の奥でしたようだった。
キラは肩を震わせ、走り去る。
「キラ……!!」
ナナは思わず、彼の後を追った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
船尾のガラスに拳を打ちつけ、キラは泣いた。
ナナは黙ってうつむいた。
彼にかける言葉は無い。全てが自分の責任のような気がした。
自分の弱さが、キラを苦しめている気がした。
自分の言葉が、キラをここまで傷つけた。
自分が彼を、無理に戦場へと引っ張り出したりしたから……。
だが、彼を置いて立ち去る勇気すらなかった。
いつの間にかトリィが肩にとまり、一緒にキラを見守った。
トリィに話す言葉も出なかった。
そこへ……。
「あら……」
場にそぐわない、やわらかな声がかけられる。
「……ラクス……?」
ラクスはナナの肩に優しく手をかけ、ほほ笑んだ。
まるで、ナナを慰めるように。
自分が泣きそうな顔をしていたのだと、ナナは初めて知る。
ラクスはそのまま、泣き崩れるキラの側へ行った。
その姿に驚き、涙を見られたことに赤面するキラ。
ラクスはこうも簡単に、キラの涙を止めてしまった。
「戦いは終わったのですね」
「はい……あなたのおかげで……」
少し戸惑いながら、キラが答える。
ナナはまだ、彼らを傍観するしかなかった。
「僕は……本当は戦いたくないんです……」
キラはラクスに、胸のうちを吐露した。
罪悪感で、ナナはついに視線を落とす。
「アスランは……あのイージスのパイロットは、僕の友達なんです……」
キラはナナがそこにいるにも関わらず、そう呟いた。
「それはお辛いですわね。彼もあなたも、とてもいい方ですもの……」
が、その呟きに、ラクスは落ち着き払ってそう答える。
「ア、アスランを知ってるんですか?」
思わず目を見開いたキラに、ラクスは静かに笑った。
「アスラン・ザラは、私がいずれ結婚する方ですわ」
その言葉には、ナナもキラ同様に驚いた。
「無口なのですけど……とても優しい方ですわね」
ナナの手に、突然ハロが飛びついた。
「そのハロちゃんも、アスランがプレゼントしてくれましたの」
「僕のトリィも……アスランにもらったんです」
ナナの肩で、トリィが鳴いた。
「お二人が、戦わなくてすむようになると良いのですけれど……」
ラクスはその光景を見て、囁くように言った。