戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

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 居住区は、就寝時間に入っていた。
 艦のクルーたちも交替で休憩に入っている。
 後方でザフト軍のナスカ級がこちらを伺っていたが、こちらに人質(ラクス)がいる以上、手出しはして来ないはずだった。
 静まる艦の中、キラはこっそりと部屋を抜け出した。
 向かった先は、ラクスに宛がわれた部屋だった。



決別

 ナナはテキストボードを片手に、居住区へと向かっていた。

 そして、ある一向に遭遇する。

 

 

「……ナナ……?!」

 

 

 彼女をみつけて、いや、彼女に()()()()()驚いたのは、サイとミリアリア、そしてキラだった。

 キラはあわてて何かを後ろに隠す。

 が、隠しきれるはずもなく、ナナにはそれがラクスだとわかった。

 

 

「ナナ、あのね……こ、これは……」

 

 

 ナナが口を開く前に、ミリアリアが弁解する。

 が、ナナに対するそれは無駄とわかったのか、キラはきっぱりと言った。

 

 

「ナナ、黙って行かせて。あとでいくらでも怒っていいから……!」

 

 

 ナナは大きくため息をついた。

 ミリアリアやサイの怯えに似た視線。キラの強行的な態度。

 そんなに自分が彼らと異なる存在だったのかと思うと、笑いさえこみ上げる。

 

 

「ナナ、お願いだから……」

 

 

 再びキラが懇願した時、ナナは遮るように手にしたテキストボードを突きつけた。

 

 

「これ、機体からのハッチの解除操作が書いてある」

 

 

 彼女の言葉の意味がわからず、息をのむ面々。

 

 

「ブリッジの管制システムを通さないで、機体から直接装備を着用するマニュアルも書いてあるから」

 

 

 真意を悟ったのは、ラクスが最初だった。

 

 

「ナナ……それを調べてくださったんですの?」

 

 

 ナナは返事もしなければ、表情も変えなかった。

 ただ、驚いてラクスとナナを見比べる三人を尻目に、ぶっきらぼうに言い捨てた。

 

 

「マードックさんたちも休憩室に入ってる。出るなら今しかないから、急いで。私もグレイスで出る……」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 ロッカールームで、ナナはラクスにスペーススーツを着せた。

 

 

「ハロは……宇宙空間でも大丈夫?」

「大丈夫ですわ。ね? ハロ」

「オマエモナ!」

 

 

 自身もパイロットスーツに着替えたナナは、すっかり懐いたハロに小さく笑って見せた。

 

 

「ありがとう。ナナ」

 

 

 ラクスはナナの手をとった。

 

 

「お礼を言われるどころか、あなたには謝らなくちゃならない……」

 

 

 その瞳を、ナナは見ることができなかった。

 それでも、ラクスは握る手を強くした。

 

 

「あなたはとても、強くてお優しい方ですわ……」

 

 

 そんなことはない……と、否定の言葉すら返すことはできなかった。

 ただ、本心は自然とこぼれ出た。

 

 

「私は……本当はあなたみたいになりたかった……」

 

 

 そして、無理やりに笑ってみた。

 口にしてみて、それは本心に違いなかった。

 ラクスに出会い、ラクスと話し……ラクスのようでありたかったと、漠然と思い、感じた。

 そうなれなかった己自身に失望しさえした。

 

 

「私は馬鹿だから……あなたのように平和を願っても、チカラがないと先へ進めなかった」

「ナナ……」

 

 

 だが、失望したからこそ、素直になれた。

 

 

「内側に入らないと……、戦争が何で始まって、何で終わらないのか……、自分の目で見なきゃ、『本当の敵』が何なのかはわからないと思った……」

 

 

 その答えなど……いざ内側へ入り込んでみても、まだ見つからないが……。

 ラクスとは異なるこのやり方が、果たして良かったのかわからない。

 犠牲にしたものも数え切れない。

 ただ……、迷いを捨てようとした。

 迷うと進めなくなるから。

 

 

「キラを……戦争に巻き込んだのは……私……」

 

 

 迷うなと、キラにさんざん言っておいて、自分が迷いと戦っていた。

 

 

「キラに……チカラを持たせたのは……私……」

 

 

 挙句、キラを傷つけることしかできなかった。

 そんな自分に失望し、ラクスのようにキラを癒せたら……と、外側から平和を訴えられていたら……と、そう思った。

 

 

「ナナ……」

 

 

 ラクスはナナの頬に手をそえた。

 

 

「何が正しいやり方かなんて……わかるはずもありませんわ」

 

 

 そう……それも、わかるけど。

 

 

「私は、あなたが間違っていたとは思いません」

 

 

 ラクスはそう言ってくれるけど。

 

 

「あなたは、強くてお優しい方だから……ご自分を信じていてください」

 

 

 ナナはようやくラクスの目を見た。

 

 

「何が『本当の敵』なのか……見定めようとするあなたは、間違ってなどいません」

「ラクス……」

「わたくしは……あなたの意志を信じます」

 

 

 はじめてみせる、強いまなざし。

 ナナはわずかに安堵して、微笑を返した。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 にわかに起動したストライクとグレイスに、静まっていたはずの艦内は騒然とした。

 

 混乱する彼らを尻目に、キラとナナはラクスを連れて発進した。

 向かうは艦の後方で襲撃の機を伺うナスカ級。

 アークエンジェルとそれのちょうど中間地点で、2機は止まった。

 

 

≪こちらは地球軍所属艦アークエンジェル搭載機……ストライク……!≫

 

 

 キラが全周波チャンネルを使って通信を送る。

 それは当然、アークエンジェルにも聞こえているはずだった。

 ナナはじっと、前方のナスカ級と後方のアークエンジェルの動向を伺っていた。

 

 

≪今からラクス・クラインを引き渡す。ただしイージスが1機で来ること。それが条件だ……!≫

 

 

 キラが緊張で上ずりがちな声で告げる。

 

 

≪これが守られない場合……≫

 

 

 ナナはちらりと、ストライクを見た。

 

 

≪彼女の命は……保証しない……≫

 

 

 キラに似つかわしくないセリフだった。

 だが、ナナは沈黙を守った。

 自分たちが、幼い行為を犯しているとはわかっていた。

 ラクスを無事に帰す保証も、自分たちが無事に帰れる保証もないなか、あのキラがすすんで起こした行動。

 予測していたから、先回りしてブリッジを通さずともモビルスーツを発進させられるマニュアルを引っ張り出していた。

 キラの願う心は、知っているつもりだった。

 そして、イージスのパイロット、“アスラン”がそれに応えてくれることを願った。

 

 少しして、熱源が2機に向かって来た。

 数は1つ……。キラの要求通り、イージスが単体でやって来た。

 ストライクとグレイスは、ライフルを向ける。

 

 

≪アスラン……ザラか……?≫

 

 

 わずかに震えるキラの声。

 

 

≪ああ……そうだ……≫

 

 

 “アスラン・ザラ”の声を耳にするのは二度目だった。

 

 

≪コックピットを開いて……!≫

 

 

 イージスのコックピットから、“アスラン”が姿を現す。

 初めて目にするその姿。

 ヘルメットで顔はわからないが、背格好はキラとほとんど変わらなかった。

 ナナがグレイスから見守る中、ラクスはキラの手で“アスラン”の元へと帰された。

 

 

≪ありがとう・・キラ、ナナ……≫

 

 

 ラクスはキラと、そしてグレイスのナナを見て言った。

 

 

≪またお会いしましょうね≫

 

 

 そして、キラがコックピットを閉じようとした時……。

 

 

≪キラ! お前も来い!!≫

 

 

 “アスラン”が言った。

 

 

≪お前はコーディネーターだ。なぜ地球軍にいる?!≫

 

 

 彼の声は、必死だった。

 

 

≪オレたちに戦う理由はないはずだ……!!≫

 

 

 友を敵としなければならぬ苦しみは彼も同じだったのだ。

 そして、同じコーディネーターであるはずの友が敵側にいる理不尽さに戸惑い、苛立っている。

 そのもどかしさに、グレイスがいることも構わずそう言ったのだろう。

 彼の「誘い」に対し、突然、威嚇のはずのライフルが下された。

 ストライクではなく、グレイスの……。

 

 

「行って……キラ……」

 

 

 ナナは初めて口を開いた。

 しごく単純な言葉を、とても静かに。

 

 

≪え……ナナ?!≫

 

 

 キラばかりか、“アスラン”やラクスも息をのんだのがスピーカーから伝わる。

 が、ナナは軽く笑い飛ばすかのように言った。

 

 

「今までごめんね、キラ」

 

 

 ストライクも、ライフルを下ろした。

 

 

「キラは優しいから……こんなところは似合わない……。わかってたのに、戦わせたのは私……」

≪ナナ……?!≫

 

 

 キラはコックピットから身を乗り出し、グレイスを向く。

 ナナはメインモニター越しにキラを見た。

 

 

「ラクスと……友達と……行って。そして平和な場所で暮らして」

≪だって……ナナ!!≫

 

 

 キラの言葉を、丸めこまねばならない……。

 

 

「大丈夫」

 

 

 ナナは彼を遮った。

 でないと、ここまでついて来た()()()()()()()()が達せられない。

 キラをラクスと友の元へ……。

 戦禍の届かぬ場所へ……。

 だから、ナナは思い切り明るい声で言った。

 

 

「アークエンジェルのみんなは、ちゃんと私が守るから……!」

 

 

 一瞬の沈黙。

 

 

≪キラ……!≫

 

 

 願いを込めて名前を呼んだのは“アスラン”だった。

 ラクスはまだ、沈黙を守った。

 そしてキラは……。

 

 

≪だめ……だよ……≫

 

 

 すり切れそうな声で呟いた。

 

 

≪アークエンジェルには……僕の友達がいるんだ……!!!≫

 

 

 そして、迷いを振り切るかのように、コックピットのシートに身を置く。

 

 

≪僕も……みんなを守らなくちゃ……!!≫

 

 

 決意と、絶望が入り混じった声。

 

 

「キラ……!!」

≪キラ!!≫

 

 

 ナナと“アスラン”が、同時に叫ぶ。

 が、キラは再びライフルをあげた。

 

 決別……。

 

 キラと“アスラン”のそれを目の当たりにし、ナナにそれ以上の言葉を見つけ出せなかった。

 “アスラン”は、苦悩に震える声で言った。

 

 

≪ならば……次に戦う時は、オレがお前を討つ……!!≫

≪……僕もだ……!!≫

 

 

 どうしてこんな言葉を交わさねばならないのか……。

 彼らが幼少の頃に、どれだけの絆を紡いだかナナは知らない。

 が、少なくともキラの肩にいつもとまっているトリィの存在を見れば想像はできる。

 それが、また……ここで引き裂かれようとしている。

 再び互いの扉を閉めた二人をモニター越しに見て、ナナは操縦桿を力いっぱい握りしめた。

 

 

 

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