予測できた行為に、アークエンジェルからもフラガの<ゼロ式>が援護に駆けつけた。
が、ラクスの強い意志により、戦闘は免れた。
その後ナスカ級は、ラクスを迎えの船に送り届けるため去って行った。
アークエンジェルは事実上、ナスカ級の脅威を脱したこととなる。
無断で機体を発進させ、さらに人質を返還するためにザフトと接触するという行為を犯したキラは、アークエンジェルに戻るなりナナとともにクルーに拘束された。
キラは静かにそれを受け入れた。
胸に渦巻くのは、「後悔」なのかわからなかった。
アスランの言葉は忘れようとした。ラクスの癒しの歌も。
もう二度と会うことはないかもしれぬ二人のことは、忘れてしまおうとした。
ただ、同じようにクルーに連行されるナナの横顔が気になった。
いつも強気な瞳は、今は暗く伏せられている。
『行って……キラ……』
思いもよらぬ、さっきの言葉。
ナナの想いは……?
今のキラに、それをうかがう余裕などなかった。
が、戸惑いの中に、わずかばかり温かいものが込み上げてくるのがわかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「キラ! ナナ!」
「どうだった? なんて言われたんだ!?」
艦長室を出た二人を、ミリアリアとサイが待ち構えていた。
「大丈夫だよ……僕たちが軍人じゃないからって、艦長が許してくれたんだ」
二人はホッと胸を撫で下ろした。
「でも良かった……お前がちゃんと帰って来てくれて!」
そしてサイが、キラに言う。
彼はキラがストライクに乗りこんだ時、きっと帰って来るようにと、願いを込めてそう言っていた。
「心配してたんだ。あのイージスのパイロット、お前の友達だったんだろ?」
キラと、そしてナナの顔色が変わった。
「カズイがさ、お前とあのコが話してるところを聞いてたらしくて……」
「大丈夫よ、私たち以外は知らないから」
ナナは艦長室の扉をチラリと見て、その場を移動する。
つられたように、彼らも続いた。
「だから、もしかしたらキラもそのままザフトに行っちゃうかと思ったけど……戻ってくれて本当に良かった」
「うん……」
キラは笑った。
心の隅に、また忘れようとしたアスランの声が甦ったが、無理矢理押し戻した。
ここにはサイたちが……護るべき友達が居る。
だから、帰って来た。
アスランの言葉を撥ねつけて、彼の想いを遮って。
ナナの想いを、無視して。
「じゃあ、オレたち交代だから」
「あとでね」
二人はキラとナナに手を振り、ブリッジへ向かうエレベーターに向かった。
「あ、あのさ……ナナ……」
反対方向のドックへ向かおうとしたナナを。彼は呼び止めた。
久しく、こうしてナナと向き合っていなかったような気がしていた。
「ヘリオポリスでの戦いの時……ストライクの周波をグレイスが拾ってたの。だから、キラと“彼”の会話が聞こえてた」
ナナは移動を止めぬまま、先回りしてそう答えた。
「二人のこと……本当は最初から知ってた……」
そしてキラが何か言う前に、ナナは低い声のまま言った。
「知ってたのに、私はあなたを友達と戦わせていた……」
「……ナナ……」
キラに、彼女を責めるつもりはなかった。
が、ナナは呟く。
「ごめんね」
そしてそのまま、ドックへ続く通路へと去って行った。
「……ナナ……君は……」
困惑した表情で、キラはその後姿に呟いた。
返すべき言葉は思いつかなかった。
ナナの想いはまだ、わからなかった。
ただ少し、彼女との隔たりが薄くなったような気がして、彼もドックへ向かった。
その側で、一人の少女が拳を震わせていたのを、誰も知らなかった。