戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

18 / 80
 アークエンジェルは、ザフト軍ローラシア級とXナンバーのMS(モビルスーツ)の攻撃を受けながらも、これを退け、ようやく地球軍第8艦隊との合流を果たした。
 クルーには安堵の笑みがもれ、避難民はようやく安全な場所へ移ることに喜んだ。
 トールたちには、バジルール中尉から除隊許可証が手渡されていた。
 便宜上、ヘリオポリス崩壊前からの入隊が記録されている。
 これでやっと、もとの生活に戻れる……と思った矢先に、フレイが『志願』を名乗り出た。
 揺れる彼らの心……。
 その頃、ナナは自身の決意を、マリューとフラガに語っていた。



月への航路(後編)

「残って戦ってくれるのは心強いけど……本当にそれでいいの?」

「グレイスの操縦をしちゃったとはいえ、提督のご厚意で何事もなく艦を降りられるんだぜ?」

 

 ナナは二人に笑って見せた。

 

「このまま降りたんじゃ、“何のため”に戦ったのかわからなくなりますから」

 

 その言葉の意味を理解しかね、マリューとフラガは顔を見合わせた。

 

「私はただ勝つために戦ってきたんじゃなく、戦争を終わらせるために戦ってきたんです」

 

 いつになく控え目な視線で、強い言葉をナナは吐く。

 

「……今はまだ、生き延びるのに必死で、艦を守ることさえ満足にいかないけど……」

 

 息をのむ……それくらい緊張して、マリューはナナを見つめていた。

 ナナの次の言葉に、半ば希望の光でも見出すように。

 

「でも、私はこんな戦争は終わらせたいから……そのためには、今はどうしても力が必要だし、戦争から離れちゃいけないんです」

「力って……グレイスの力……?」

 

 

 思わず聞き返したマリューにナナは曖昧に笑って答えた。

 

「自分の目的のために、アークエンジェルとグレイスを利用しているみたいですよね……?」

 

 大人びた笑みだった。

 

 

「でも私、地球軍のためにザフトと戦うんじゃなく、戦争を終わらせるために“本当の敵”と戦っていきたいんです」

 

 

 そのまま受け取れば、屁理屈ともとれそうな子供じみた言葉。

 だが、マリューもフラガも、皮肉のひとつも出なかった。

 ナナの瞳があまりにまっすぐで、強い光を宿していたから……。

 

 

「アークエンジェルなら、それが叶うかもしれない……そんな気がするから、残りたいんです」

「なんで……そんな気がするんだ?」

 

 

 黙って聞いていたフラガが口を開く。

 ナナは彼に向きなおり、ちゃかすように答えた。

 

「だってこの艦、孤立無援だったおかげで、ずいぶんと『自分の意志』で動いてきたでしょ?」

 

 それ以上、マリューは何も言わなかった。

 それがナナの「評価」なのか「皮肉」なのかわかりかねた。

 だが、ナナはそれをも察したように言う。

 

「敵を倒すのが楽しくて、勝つのが嬉しくて戦争をしている軍人がどれだけいるのか、私は知らないけど……少なくともこの艦に、そんな意志は働いていないから」

 

 二人の頭の隅に、アルテミスで向けられた銃口が浮かぶ。

 

「ラミアス艦長もフラガ大尉も、そんな軍人じゃないから」

 

 ナナは自然にそう言いきった。

 まっすぐに見つめられ、士官二人は言葉を失くした。

 この場に最も強い意志で臨んでいるのはどちらか……ひしひしと感じた。

 

「というわけで、これからもよろしくお願いします」

 

 ナナは大げさに深々と頭を下げ、二人に背を向けた。

 

「私、キラと話して来ます。彼にはどうしても、艦を降りてもらわないと」

 

 最後に見せた笑顔の中に、かすかな陰を見出して、残された二人は複雑ため息を洩らした。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「キラ……」

 

 誰もいないドックで、キラはストライクを眺めていた。

 

「ナナ……」

 

 出会った頃と同じ姿のキラは、不安げに瞳を揺らしていた。

 それでも、無重力の空間を飛んでくるナナを、彼は受け止めた。

 

「ナナ……君は……」

「私は残るよ」

 

 

 キラは目を伏せた。

 

「……そっか……」

 

 トリィが彼の肩で、いぶかしげに首を振る。

 

「ナナ……僕は……」

「ハルバートン提督に何て言われたの?」

「え……?」

「話してたんでしょ? 今まで」

 

 ナナは彼の歯切れの悪い言葉尻をすくうように言う。

 

「あ……うん……」

 

 キラはうつむいたまま、ハルバートンの言葉を伝えた。

 

「覚悟もない軍人なんて、役立たずだってさ……」

「そっか……」

 

 ナナは小さく笑った。

 そして、まるで小さな子供のように佇むキラに言った。

 

「キラは艦を降りなよ」

「……ナナ……?」

 

 何の曇りもない声に、キラは初めて彼女の瞳を見る。

 

「今まで……ごめんね」

 

 まっすぐに、ナナはそれに応えた。

 

「キラを一番傷つけてたのは私だって、わかってたのに」

「そんなこと……」

 

 ナナは逆に戸惑うキラから、ストライクへ視線を移した。

 

「これは……キラには似合わない力だったよね」

 

 そして溜息のようにつぶやく。

 キラもストライクを見上げた。

 

「無理にそれを押し付けたのに、護ってくれてありがとう」

 

 言った瞬間、トリィが羽ばたき、二人の頭上を旋回してナナの肩に止まった。

 

「私はこんな生き方しかできないから、これからも戦うけど……」

 

 そのくちばしに手を添えて、ナナは言う。

 

「キラは……キラらしく生きてね」

 

 トリィは彼女の指先をつついて鳴いた。

 キラに言葉はなかった。

 それでいいと、ナナは思った。

 キラが自分をどう思っているのかなんて、知っている。

 だから、

 

 

「ほんとに……ごめんね」

 

 

 ナナはそう言って、弱く笑った。

 別れを悟ったかのように、トリィは再び旋回し、キラの肩に帰った。

 ナナはそれを見届けて彼らに背を向けた。

 

「戦争が終わったら……また逢えたらいいね」

 

 ナナはキラの言葉を待たず、漂うように去った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。