戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

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燃える空

「なんでなんだっ! なんであんなものに……!!」

「仕方なかったの。みんなが生き延びるためには、私がアレに乗るしかなかったんだから」

「でもっ……!!」

「キラも……キラがストライクに乗っていなきゃ、私たちはザフトに撃たれてた」

 

 アークエンジェルはレジスタンスのキャンプに招かれ、艦を砂丘の陰に隠す作業をしていた。

 ナナはカガリと岩陰で話していた。

 カガリの怒りと困惑は収まりそうになかった。

 

「ずいぶん具合が悪そうですが……大丈夫ですか?」

 

 キサカが周囲の目を警戒しつつ、ナナに問う。

 

「大丈夫。降りるときにちょっとドジっちゃって……」

「ナナ!!」

 

 カガリは不安げにナナの肩に手を置いた。

 が、

 

「あんたこそ、何でこんなところにいるの?」

「…………」

 

 逆にナナに問われて目を逸らす。

 

「家出?」

「そんなところです」

 

 キサカが代わりに答えると、ナナは呆れたようにため息をついた。

 

「父さまがどれだけ心配されてることか……」

「ナナだって! 勝手に地球軍なんかに入って……!!」

 

 不満げなカガリにもう一度ため息をつき、ナナはキサカを向いて言った。

 

「第8艦隊のハルバートン提督に事情を明かして、“私”は軍に入隊していないことにしてもらっている……だから大丈夫」

「あの艦の者たちには?」

「誰にも言ってない……」

「そうですか」

 

 二人で話をすすめるキサカとナナに、カガリは苛立ち、割って入った。

 

「地球軍に入隊してないことになってるからって、あのMSに乗って戦ってるんだろ?!」

「今は私にアレが必要なの!!」

 

 ナナは初めて怒りを表した。

 その瞬間、眩暈に襲われて額を押さえる。

 

「ナナっ……!!?」

 

 キサカも駆け寄って支えた。

 

「確かに……」

 

 それを抑えて、ナナは再び低い声で言う。

 

「確かに私は戦争に加わった。ザフト兵をたくさん殺した。でも……」

「ナナ……」

「でも、それでしか道は開けなかった、今もまだ途中なの……」

 

 カガリはうつむき、己自身と対話した。

 

「……国を出た時から、私は同じ目的のために動いてる。少しずつ、やっと少しずつ見えてきたの。……だから、わかって……カガリ」

 

 だが、ナナの言葉に納得がいくわけではなかった。

 

「カガリ……!!」

 

 彼女はナナに背を向け、丘を走り去って行った。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 その夜、アークエンジェルのクルーたちは、レジスタンス「明けの砂漠」のキャンプでしばしの休息をとっていた。

 「明けの砂漠」はこの近隣の街から集まった有志の集まりで、ここを勢力圏とする「砂漠の虎」に対抗して暮らしていた。

 そんな男たちの中には、まだ少年の域を脱しない子供もいた。

 

「ねぇ、カガリ知らない?」

 

 ナナはその一団に声をかけた。

 

「さっきアンタらの艦の方へ行ったぜ」

「そう。ありがとう」

 

 もう一度彼女とちゃんと話さなくては……ナナはそう思い、フラつく身体で彼女を探し回っていた。

 そこへ聞こえてきた、只ならぬ声。

 

「私、昨夜はずっとキラの部屋にいたのよっ!!」

 

 思わず足を止める。

 岩陰の向こうから聞こえたそれは、フレイの声。

 

「え……? ど、どういうことだよ……?」

 

 震えるサイの声。

 

「もうやめなよ、サイ」

 

 そして……低い声は、キラのもの。

 

「どう見ても、君が嫌がるフレイを追っかけまわしてるとしか思えない。昨日も戦闘で……疲れてるんだからほっといてくれよ」

 

 「友達」すら拒絶するキラの言葉……なかば信じられず、ナナは確かめるようにその光景を覗いた。

 すると、サイは逆上してキラにつかみかかる。

 が、キラは信じられない身のこなしでサイの腕を封じ、艦のタラップから突き落とした。

 

「サイ!!」

 

 ナナは思わず駆け寄った。

 サイの肩は、怒りと恐れで震えている。

 

「……フレイは……優しかったんだ……」

 

 砂上の二人に背を向け、キラはうめくように呟いた。

 

「僕を護るって……言ってくれた……」

 

 彼の背も、震えていた。

 

 

「誰もっ……僕がどんな気持ちで戦っているかなんて知らないくせにっ……!!!」

 

 

 ついに吐露した彼の心。

 ナナの心も凶器で突き刺されたようだった。

 しかし。

 

「行きましょう、キラ……」

 

 フレイに促されて去ろうとする彼に。

 

 

「独りで戦ってるような顔しないでよっ……!!!!」

 

 

 ナナもそこにあるカタマリをぶつけた。

 

「私だって一緒に戦ってる……!! 艦長だって、フラガ少佐だって、サイたちだって……!!」

 

 「止せ」……そう頭の片隅でもう一人の自分が叫んでも、止まらなかった。

 

「あのシャトルのことだって……私も一緒に背負ってる!!」

 

 それ以上、踏み込んではいけないとわかっているのに……。

 

 

「“アスラン”のこともっ……!!!」

 

 

 その言葉尻、キラはついに振り返り、怒りに燃える瞳でナナを見下ろした。

 ナナはそれを受けた。

 また、キラを傷つけた……。

 そんな後悔もあったが、今はただの怒りに支配されていた。

 キラも、ナナの言葉の中身より、彼女の叫びに苛立った。

 

 その時、キャンプの方から警鐘が鳴り響く。

 

「タッシルの街が燃えてるぞ!!!」

「ザフトだ!! 虎が襲撃をかけてきたんだ!!」

 

 突然、殺気だった空気。

 彼らも空を見上げると、街の方角が赤く染まっていた。

 

「キラ!!」

 

 フレイの横をすり抜け、キラは艦内に走り去った。

 ナナは彼を追おうとしてよろめいた。

 

「ナナ!!」

 

 彼女を支えたのは、サイと、そしていつのまにか駆け付けたカガリだった。

 

「ナナを頼む!」

 

 カガリはサイにそう言い残し、キャンプへ走り去った。

 

「……っ……カガリ……待って……!!」

 

 ナナの声は、もう届かなかった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 ナタルと医師を乗せ、ナナはタッシルへとバギーを走らせた。

 町全体を囲む焔が、砂丘の向こうに真昼のような明るさを成している。

 

「全滅か……」

 

 ナタルが唇を噛んだ。

 だが……。

 

 

 町外れの丘には、多くの人間が逃げ延びていた。

 

「街の人は……みんな無事なんですか?」

 

 スカイグラスパーで先に到着していたフラガと並び、ナナは思わず呟く。

 

「ああ、攻撃の前に警告があったらしい……ていうか、お前、出歩いて大丈夫なのか?」

「警告? 砂漠の虎が……?」

 

 ナナは彼の心配を聞こえなかったことのようにして、町民の輪を覗き込む。

 家族の無事を喜びつつも、怒りに震える「明けの砂漠」の男たち。

 

「でも、攻撃の前に警告をするなんて……ずいぶんと優しいじゃない、砂漠の虎は」

 

 フラガがそう言った。

 

「あんたらと本気で戦争する気はないんじゃないか?」

 

 周囲からの視線が鋭くなったが、ナナもそのとおりだと思った。

 「本気」なら、警告などせず町を全滅させているはずだ。

 

「これは……昨日の一件の『報復』ってことですか……?」

「だろうな……」

 

 ナナの問いにフラガが答えると、周囲はざわめき立つ。

 

「人は助かったけど……!!」

 

 最初に叫んだのはカガリだった。

 

「街は燃えたっ!! こんなことをするやつのどこが優しいんだよっ!!」

「カガリ」

 

 ナナの嗜めにも、カガリは止まらなかった。

 

「こうやって我々を苦しめて……アイツは卑怯な臆病者だ!!」

「カガリ、やめなさい!」

 

 激高は身を滅ぼしかねない。

 危険な予感がした。

 そして、ナナの予感はすぐに的中した。

 

「サイーブ!! 大変だ!!」

「若い連中が!!」

 

 「明けの砂漠」の若者たちが、すでに離脱したザフト軍を追うと息巻いているという。

 急いで駆けつけたサイーブの止める言葉に少しも耳をかさず、彼らはジープで去った。

 

「くそっ……!!」

 

 仕方なく、サイーブはそれを追う。

 

「サイーブ、私もっ……!!」

「カガリ! 待ちなさいっ……」

 

 彼のジープに乗り込もうとしたカガリを、ナナは止めた。

 が、上手く声がでなかった。

 

「おい……ナナ……!!」

 

 腹を抑えて膝をついたナナをフラガが支えたが、カガリはそのままサイーブのジープに飛び乗った。

 しかし。

 

「お前は来るなっ……!!」

 

 サイーブは彼女を突き飛ばす。

 カガリの暴走は止められたかに思えた。

 が、一台のジープが彼女を乗せた。

 カガリやナナと同世代の少年、アフメドだった。

 

「カガリっ……待っ……!!」

 

 砂で咳き込むナナの横を、キサカが通り過ぎる。

 彼はナナに目配せし、同じジープに乗り込んだ。

 カガリの身は、彼に任せるほか無かった。

 

 

 

 いつもなら、フラガの制止もマリューの命令も振り切って、グレイスで後を追ったはずだが……あいにくナナもグレイスも、降下作戦の時の傷が癒えてはいなかった。

 

 やがて夜が明けて、砂漠は金色に輝きだす。

 たった数時間が、何日にも思えた。

 ナナは半ば上の空で、タッシルの住人たちの救護を手伝う。

 アークエンジェルからストライクが援護に向かったとフラガに聞いた。

 キラが向かってくれれば、きっとあのサイーブたちもカガリも大丈夫……。

 そう言い聞かせるほかなかった。

 

 やがて、そのストライクがキャンプの方角へ向かって上空を通り過ぎ、ザフト軍を追って行ったレジスタンスのメンバーが帰還する。

 

「カガリ!」

 

 ナナが1台のジープに駆け寄ると、カガリはうつむいたまま降りた。

 彼女のジープを運転していたはずのアフメドは、冷たくなって仲間の手で砂に下ろされた。

 カガリは泣き崩れるタッシルの住人たちに背を向けた。

 ナナはキサカの視線で何があったかを悟った。

 そして小さくため息をつく。

 

 まだまだ……このコは学ばなければならない……。

 

「カガリ……」

「うるさいなっ……!!」

 

 伸ばした手は振り払われ、カガリは走り去った。

 その横顔……泣いてはいなかったが、頬が赤くはれていた。

 

「あのカオ、どうしたの?」

 

 ナナはその背中を見送ったまま、キサカに問う。

 

「キラ・ヤマトに……」

「キラに……?!」

 

 ナナが驚いて彼を見上げると、彼は落ち着いた声で先ほどの一件を告げた。

 

「『思いだけで何が守れるのか』……と、彼はカガリ様に言いました」

 

 ナナは再び、カガリが去った方を向いた。

 そして、ストライクが帰った空を見上げた。

 

「……キラが……」

 

 その言葉をカガリに言ったキラの心。

 それを言わせたカガリの性格。

 どちらも手に取るようにわかり、ナナは再び溜息をつく。

 自分が何か言葉を差し出して、どうにかなることではなかった。

 二人が何を思い、何を選ぶのか……それは二人が決めること。

 ナナはただ、限りなく遠い傍から、二人に思いを馳せて見守るしかなかった。

 

 

 

 

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