夢か現実かもわからぬ状態の者もいる中、彼らは協力してストライクとグレイスの2機、及び残されて無事だったパーツを『アークエンジェル』に収容した。
アークエンジェルは先ほど港の方から現れた地球連合軍の戦艦である。その1番デッキに、艦の発進の指揮を執ったナタルらブリッジにいた士官と整備班が集まっていた。
そして、先のオレンジ色のモビルアーマーのパイロット、ムウ・ラ・フラガも姿を現す。
ナナはざわつく周囲を冷静な目で見ていた。ナタルとマリュー、そしてフラガの会話により、だいたいの現状は把握できた。整備班や下士官らが混乱を隠せずにいる原因が自分とキラにあることもわかっていた。
やがてフラガがコチラに近づいてきた。そしてキラの前に立ち止まり、
「キミたち、コーディネイターだろ?」
そう言った。
ざわめきは一種の驚愕に変わり、一気に緊張の糸が張り詰めた。
「はい……」
躊躇いがちにキラが答えると、カチャリという銃を構える音が不気味に鳴った。
ナナはため息をついた。
別に、驚くことでもない。ここは中立国オーブのプラント『ヘリオポリス』。中立の国なのだから、戦争を嫌うナチュラルとコーディネイターが共存していてもなんらおかしなことはないのである。
だが、そのコーディネイターと銃を突き付け合っている地球連合軍の人間ともあれば、そういう意識を持つのは難しいのであろう。銃を構える者たちの目には、恐怖とそして敵意の色が滲んでいた。
それを見て、キラは続けて言った。
「ぼ、僕はそうですけど、彼女は違います……!」
ナナはキラを見た。彼は怯えた瞳を隠しきれずとも、銃口を睨んで立っていた。
イライラした。本来なら静観すべきところだ。ナナにも聞かれたくない“事情”がある。 なるべくおとなしくやりすごす手段を考えるのが得策だった。
が、イライラはつのるばかりで……殴りかかって片っ端から銃を破壊してやりたかった。
しかし……。
「だ、だからなんだよっ!」
すぐ側で声がした。
「キラがコーディネイターだからなんだっていうんだよ! キラは敵じゃねぇよ!」
「トール?!」
キラの友人のひとり、トールだった。
ナナはかすかに驚き、彼を見る。
「お前ら何考えてんだよっ! さっきの見てなかったのか?」
他の友人たちもぞろぞろと進み出て、キラをかばうように立ちはだかった。
(へぇ……)
ナナにとって、その光景は少し珍しかった。
だから、
「……コーディネイターだから? ここで撃つの? アンタらバカじゃないの?」
ナナの口も開いていた。
「な、なにぃ?!」
銃口は再びナナにも向けられた。
が、ナナは冷ややかに言った。
「あんたらの大切なコレを護ったのに、コーディネイターだから“敵”だっていうの?」
彼らを睨む目から、射殺すほどの圧力を発している自覚はあった。
「てかさ、ナチュラルなのに新型のコレをいきなり扱えた私の方が明らかに不信人物じゃない?」
そして小さく鼻で笑う。
銃口は完全にナナだけをとらえた。
「銃を下ろしなさい」
ようやくマリューが言った。
「ここは中立国のコロニーですもの。コーディネイターがここで暮らすのはなんらおかしなことではないわ。争いを避けたい人たちがいるのは当然のことよ。そうよね? キラくん」
キラはうなずき、自分は『一世代目』のコーディネイターだと明かした。
一世代目……つまり両親はナチュラルということだ。
「なるほどな。で、そっちのお嬢ちゃんは?」
キラのことに一瞬考えを奪われていたが、ナナはまっすぐにフラガと向き合った。キラたちも固唾をのんで自分を見つめているのがわかった。
「なんで訓練を受けていそうもない君が、あんなに上手く“G”を動かせた?」
ナナは迷わず答えた。勝手に口の端が上がった。
「私はモルゲンレーテの人間で、開発中の“G”のテストパイロットだったから」
『コーディネイター』という言葉がここで出たときほどのざわめきはなかった。ただ、誰の頭にもナナの言葉が理解できていないようである。
「試作機に搭乗して、コレの開発に協力してきたってコト」
面倒なので……いや、どうせ面倒事に巻き込まれてしまったので、あえて簡潔にそう言った。
「コレが地球連合軍のモノになるなんて、知らなかったけどね」
そして全員を見回した。皮肉の笑みを隠しきることはできなかった。
2023/7/12 改訂