戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

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第4章 アラスカ編
出航


 アークエンジェルの修理は完了し、出航の時が来た。

 港のドックに出水が始まり、アークエンジェルは再び戦の水に身を浮かべる。

 ナナは地球軍の軍服を着て、アークエンジェルのドックにいた。

 そしてすっかり甦ったグレイスを見上げていた。

 

 みな、彼女がアスハの名を捨てて同行することに、驚きを隠さなかった。

 が、ナナは相変わらず平然としていた。

 己の意志を言葉にして言うつもりはなかったし、マリューやフラガが理解してくれているとわかっていた。

 それに……。

 正直、フェンス越しに見た顔が頭から離れなかった。

 だから、自分のことについて考える余裕がなかった。

 

 

 

 やがて、いよいよ出航というときに、ブリッジからアナウンスが入る。

 キラと自分に、後部デッキに上がるようにとの指示だった。

 

「キラ」

「……なんだろう……もう出発なのに」

 

 二人は互いの間の空気をぎこちなくしたまま、供にデッキに上がった。

 すると、港からカガリが駆けてくる。

 彼女は走りながら、港施設の上方を指差した。

 

「お前のご両親っ……!!!」

 

 ナナの隣で、キラが息をのんだ。

 そこからコチラを向いていたのはウズミと、そしてキラが決して会おうとしなかった彼の両親だった。

 二人は届くはずの無い声で何か言い、キラの母は泣いた。

 

「キラ! ナナ!」

 

 やがてデッキに上がってきたカガリが、息を切らしながら言った。

 

「キラ……! 本当に、会わないまま行くのか?!」

 

 キラはうつむき、両親のいる方に背を向けて言った。

 

「……二人に……心配しないでって……伝えてくれる?」

 

 カガリはうなずき、それ以上何も言わなかった。

 そして、ナナに向き直った。

 

「ナナ……お前はいつでも、私の姉なんだからな!」

「カガリ……」

 

 少し涙をため、叫ぶように言った。

 

「ぜったい(うち)に帰って来いよ!」

 

 オーブの公人の服を着たカガリを、ナナは目を細めて眺めた後

 

「わかった」

 

 小さく笑った。

 そして、父の言葉と想いを受け止め、ここに残ることを決めた“妹”に誓った。

 

「行ってくるね」

 

 カガリは少し零れた涙を拭って笑った。

 そしてナナとキラに抱きついた。

 

「お前らっ……死ぬなよ……、絶対!!!」

 

 ナナとキラは彼女を安心させるようにうなずいて、別れを告げた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 アークエンジェルはいよいよ戦の海へと舵をとった。

 ウズミは領海ギリギリまでオーブの護衛艦をエスコートさせた。

 再びドックに戻ったナナとキラは、そのままパイロットスーツに着替えていた。

 示し合わせたわけでない。

 ただ、二人とも()()()()()からそうしたまでだった。

 何の命令も出ないまま、ストライクとグレイスに乗り込む二人に、マードックは当然驚いた。

 

「おいおいどうしたんだよお前ら? まだ戦闘配備はしかれてねーぞ」

 

 キラは淡々とコックピットに入りながら言った。

 

「領海を出たら、ザフトの攻撃が始まりますから」

 

 その言葉にどれだけの確信があるのか、マードックには知る由も無かった。

 ただその数十分後、オーブの領海を出て間もなく、二人の予想どおりに第一戦闘配備が発令された。

 

 

≪向かって来るMSは、デュエル、バスター、ブリッツ、イージスの4機です!≫

 

 ミリアリアから通信が入っても、二人に驚きなどあろうはずも無かった。

 

≪グレイスは艦上空、ストライクは後部デッキへ……!≫

 

 指示が入ってから、ナナは初めてキラに通信を入れた。

 

「キラは迎撃に回って! 私はスカイグラスパーと空中戦をやる」

≪了解!≫

 

 あえて二人とも、“アスラン”については触れなかった。

 ナナはキラに気遣う言葉をかけなかった。

 結局、彼には話せなかった……。

 今さらそれ話してもどうにもならないし、何より自分も余裕がなかった。

 

 発進後、グレイスはすぐに遠距離からバスターの攻撃を受けた。

 回避行動は難なくこなす。

 グレイスの操縦桿を握るのは久しぶりだったが、ナナの腕は衰えてはいなかった。

 ストライクもトールの乗ったスカイグラスパー2号機の支援を受け、煙幕の陰からビーム砲を放つ。

 敵の4機が散開したと同時に、グレイスは長く折られていた羽を羽ばたかせてバスターに接近し、『グゥル』を破壊する。

 それが無ければ、モビルアーマーに変形できるイージス以外の3機にとって、大気圏での空中戦は不得手だった。

 自在に空を飛べるグレイスは、イージスに向かって行く。

 

(イージスは……私がっ……!!)

 

 ナナには以前より強い思いがあった。

 “アスラン”のことは頭から捨てる。

 たとえここで彼を撃つことになっても、自分が撃たれたとしても、キラがそうなるよりは良いように思えた。

 

 あの夕暮れに、フェンス越しに向き合うキラとアスラン、そして自分。

 一番恐ろしいのは、キラとアスランが殺し合うことだと思った。

 そんな瞬間は見たくない。

 そんなことはさせたくない。

 だから、あの孤島での優しい“アスラン”は忘れてイージスに銃を向ける。

 が、“イージスのパイロット”の腕はナナを凌いだ。

 追い詰められないまま、アークエンジェルへの攻撃を許してしまう。

 

 しかし、トールからの支援もあり、互いに決定的なダメージのないままに時が過ぎる。

 全体の戦況は、アークエンジェル側の有利な展開で進んだ。

 

 グレイスはエネルギーパック補充のため、一時的にアークエンジェルに着艦した。

 おそらくストライクもあと10分でこの行為が必要になるだろう。

 しかし、それ以前に敵の4機が先にフェイズシフトダウンするはずだった。

 

「ミリアリア、敵の状況は?!」

≪ストライクの攻撃でブリッツが戦闘不能に、デュエル、バスターもグゥルを失ってるわ。今はスカイグラスパー1号機が交戦中です≫

「……イージスは?」

≪ストライクと交戦中……! 今小島に着陸したところよ!≫

 

 ナナは奥歯を噛んだ。

 すでに汗でびっしょりだった。

 

「エネルギーパック交換終了、グレイス出ます!!」

 

 早く其処へ……!

 嫌な予感がした。

 

 

 

 再び明るい空の下へ出ると、眼下の小島でストライクがイージスと交戦していた。

 痛む胃を押さえつけ、迷わず其処へ向かう。

 

≪ストライク! 何をしている!! 出過ぎるな!!≫

 

 アークエンジェルから通信が入るも、ストライクはイージスへ向けたソードを引かなかった。

 そしてイージスも、激しくストライクに応戦する。

 が、ついにイージスのフェイズシフト装甲が剥がれた。

 

「キラ……!!!」

 

 続く言葉は出なかった。

 「撃つな」と言えば罪になる。

 じゃあ、キラより先に撃てば……と思えども引き金を引く指は動かない。

 グレイスはソードを振り上げたストライクの脇にただ降り立った。

 

「キラ……待って……!!」

 

 力尽き、ただのグレイの塊になったイージス。

 必死で頭をめぐらして、ナナはキラに言う。

 

「待って! このまま……」

 

 このまま拘束を……。

 

 刃を振り下ろす前にそうして欲しいと言いかけたその時、グレイスの右肩に突然衝撃が走る。

 

「……ぐっ……!!」

≪ナナ……?!≫

 

 戦艦1隻分の大きさもない、小さな島だった。

 木も生えない岩盤むき出しの島。

 一体何処から……?

 十数メートル後方へ押し込まれて顔を上げると、ブリッツがミラージュコロイドを解いてこちらへ向かって来ていた。

 

「ブリッツがっ……!?」

 

 最後のミサイルをグレイスに向けて放ったのだ。

 

「キラ……!!!」

 

 ナナは咄嗟に前方のストライクを見た。

 今、こちらは完全に虚をつかれている……。

 

 それからは、やけにスローモーションでその光景が映った。

 

 ストライクは体当たりしてくるブリッツを寸前で避けた。

 そして、手にしたソードでブリッツのコックピット斬りつけた。

 

 グレイスと、ストライク、そしてイージスの目の前で、ブリッツは爆音と供に散った。

 

 

 

 

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