戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

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君の敵

「やったじねゃーか!!」

「ついに1機落としたんだってな!!」

 

 ストライクから降りたキラを、整備クルーたちが両手を挙げて迎えた。

 

「最近のお前は本当にすげーな!」

「この調子で残りも頼むぜ!」

 

 敵機を落としたパイロットを褒め称える声に、キラが応えるはずは無かった。

 

「やめてくださいっ!!」

 

 叫んだ彼の纏う異常な空気に、ドック内は一瞬にして静まりかえる。

 

「人を殺したのに……『よくやった』だなんてっ……!!」

 

 苛立ちながら吐き捨てたキラに、誰かが小さく呟いた。

 

「今さら何だよ。今までだってさんざんやってきたじゃねーか……」

 

 ビクン……とキラの肩が震えた。

 そのタイミングでフラガが間に割って入らなければ、取り返しの付かない事態になりかねなかった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 ナナは乱れた息を整えもせず、キラを追った。

 フラガのキラに対する言葉は、もっともだと思った。

 

 『自分たちは戦争をしている、人殺しじゃない』

 『迷っていては自分が撃たれる』

 

 キラも「わかっている」と叫んだ。

 

「キラ……」

 

 ようやく追いついても、彼はナナを振り返ろうとはしなかった。

 ナナは次の言葉を躊躇った。

 何度も何度も、キラに対する言葉を彷徨わせてきた。

 が、これほどに躊躇ったことはない。

 

「次は……むこうの3機も仲間の敵を討とうと、これまで以上に責めてくるよ」

「わかってるよ……!」

 

 彼の背は、ナナの言葉を拒絶していた。

 だが、ここで言わなければ、次にキラが撃たれてしまう。

 どんなに拒絶されても、嫌われても、ナナには言う必要があった。

 

「“イージス”は……きっと“迷い”を捨てて撃って来る……」

「…………!!」

 

 イージス……「アスラン」と言えず、ナナは「イージス」と言った。

 そして、キラの背すら直視できず、床に視線を落とした。

 

 親友の仲間を殺したキラの気持ちも、親友に仲間を殺されたアスランの気持ちも、どちらもナナを締め付けた。

 だからといって、どちらも救うチカラなどナナにはなかった。

 もどかしく、悔しくて……二人の運命を呪うことすら無責任な気がして、ナナもまた拳を握った。

 ただ、アスランがこれまでの迷いを捨て、キラを本気で撃って来ることだけはわかった。

 だから……。

 

「次に襲撃があったときは……私が“イージス”を撃退する」

「……え……?!」

 

 キラはその言葉に驚き、初めてナナを振り返った。

 

「キラはアークエンジェル防衛と、グレイスの援護に回って」

 

 淡々と言おうと努めても、アスランの面影が浮かんで声が震えそうになる。

 

「私が“イージス”と戦う……!」

 

 それは自分自身にも突きつけた決意の言葉だった。

 それを揺るがぬものにするよう、ナナはまっすぐにキラの瞳を見つめる。

 キラは歯を食いしばった。

 明らかに苛立ちを増していた。

 

「大丈夫だからっ……!」

「キラ……!」

 

 ナナの決意は跳ねつけられた。

 

「僕は大丈夫だから!!」

「でもっ……! キラっ」

 

 さらに食い下がろうとしたところをキラは吐き捨てるように言った。

 

 

「君が『戦え』って言ったんじゃないか……!!」

 

「……え……?」

 

 

 一瞬にして身体も頭も冷えきった。

 

「撃たなければ撃たれるって……! そう言い続けてきたのは君だよ」

 

 キラの吐き出した心の意味は、とても今受け止めきれるものではなかった。

 

「君の言ったとおりだってこともわかった。撃たなきゃ撃たれる……戦わなきゃ護れない……だから僕は撃ったんだ!!」

 

 やり場のない怒り……いや、憎しみに似た焔が、やさしいキラの背で激しく揺れていた。

 

「キラ……」

「僕は……“イージス”と戦うよ……!!」

 

 ちがう……。

 こんなキラを見たかったわけじゃない。

 キラにこんな言葉を吐かせたかったわけじゃない。

 持ってほしかったのはこんな決意じゃない。

 

「キラ……」

 

 擦り切れた心で、歩き出したキラの背に、ナナは精一杯言った。

 

「“彼”はあなたの敵じゃない……」

 

 キラは立ち止まり、

 

「僕は……」

 

また吐き捨てるように呟いた。

 

 

「“彼”は……僕の敵だよ……!!」

 

 

 抱えていたヘルメットが、ナナの腕から床に落ちた。

 再び遠ざかるキラの背を、ナナは追うことができなかった。

 力が抜け、壁に手をつきながら、ナナは“彼”の面影をかみ締めた。

 

「……キラ……!!」

 

 喉の奥で止まった言葉は、キラにはもう、伝わることはなかった。

 

 

 

 

 

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