戦いは必然……。
アラスカ基地の勢力圏内まであと少し……というところで、アークエンジェルは苦戦を強いられる、
ブリッツを失ったザフトの追撃部隊は、さらに勢いを増して責め立ててきた。
辛うじて迎え撃つアークエンジェル。
キラも、ナナも、平常心ではなかった。
やはり、「イージス」はストライクを攻めてきた。
二人の戦いに割って入ることなど、ナナにはできるはずもなかった。
海も空も、仲間を失った3機の強奪“G”の殺気で埋め尽くされていた。
グレイスはデュエルと、スカイグラスパー・フラガ機はバスターと交戦していた。
その隙を突くようにして、さらにディンも襲い掛かる。
ナナに、イージスと戦うストライクの援護に向かう暇など与えられなかった。
「キラ……!!」
ストライクとイージスが近くの孤島に降りたところまではモニターで確認できた。
だが、今はただ祈るしかなかった。
あれ以来、一度も目を合わせていないキラの、強さと弱さが怖かった。
撃っても撃たれても……きっと何も残らないと思った。
キラをこんなふうにしたかったんじゃない。
あんな目をして戦って欲しかったんじゃない。
そんな言葉を言って欲しくなかった。
『“彼”は……僕の敵だよ……!!』
ちがう……。
ナナの心はそう叫ぶ。
かつての親友といっても、敵軍に属する者を“敵”じゃないと言う方が間違っているのかもしれない。
だが、間違っていようと何だろうと、ナナの信念は彼をキラの“敵”としてはいけないと叫んでいる。
そしてナナにとっても……。
だが、心の叫びは声にならなかった。
キラに言うほど強くなれなかった。
躊躇いと戸惑い。
それに揺さぶられたまま、ナナはグレイスに乗っている。
「くっ…………!!!」
ナナは心の揺れをなぎ払うように、デュエルの片足を切り捨てた。
青い海へと降下していく機体。
目の前で避難民を乗せたシャトルを撃破した“彼”のことも、殺したいわけじゃない。
とりわけ執拗に攻撃をしてきても、“彼”を殺したいわけじゃない。
だからナナは、落ちて行くデュエルが撃ち続けるビーム砲を避け、反撃もせずにそこから離脱する。
ディンの羽を撃ち抜き、エンジンをやられて孤島に不時着したアークエンジェルの元へ。
「フラガ少佐……?!」
島を抉るように落ちたアークエンジェルに近づいた時、サブモニターには船尾から黒煙をして帰投するスカイグラスパーが映し出された。
《バスターにエンジンをやられた。これより帰投する……!!》
「了解……!」
メインモニターには、アークエンジェルの正面に落ちたバスターが映し出されていた。
ナナはまっすぐにそこへ向かった。
アークエンジェルとバスター。
どちらも推力を失い身動き取れない状態だった。
が、アークエンジェルは正面のバスターに主砲の照準を合わせる。
そしてバスターも未だ手にしていた高エネルギーライフルを、アークエンジェルのブリッジに向けた。
ナナの中で、何かが弾けた。
「もうやめてっ……!!」
双方が引き金を引く寸前、ナナは間に躍り出てバスターを組み敷いた。
バスターは背中から倒れたが、まだライフルを手放さなかった。
が。
「聞こえる……?」
ナナは背後のアークエンジェルから熱量を感じながら、眼下のバスターに問う。
≪ど、どけよ……!!≫
バスターのパイロットが言った。
そしてライフルをグレイスに向ける。
「降伏を……!!!」
だがナナは、バスターのコックピットを見つめたまま低い声で言った。
≪な、なんだとっ……?!≫
「降伏しなさい!!」
祈りすら滲ませたその声に、バスターのパイロットが息をのむ。
「私を撃っても、アークエンジェルの主砲があなたを撃つ……!!」
アークエンジェルの主砲はまだ、グレイス越しにバスターをロックしている。
「……お願いだから降伏して」
アークエンジェルのナタルからは、通信が入っていた。
が、ナナの耳には入らなかった。
ただ願った。
オーブで見かけたアスランの仲間たちの一人……それがこのパイロットだと確信し、これ以上命を落としてほしくないから願った。
少しの沈黙の後、アークエンジェルからの通信をナナが完全に切った瞬間、バスターのコックピットが開いた。
アスランと同じ赤いパイロットスーツが現れる。
ヘルメットをとった“彼”は、浅黒の肌をした金髪の少年だった。
≪……ザフト軍“ザラ隊”所属、ディアッカ・エルスマン……≫
彼は両手を上げ、グレイスのコックピットに向かって名乗った。
≪……投降する……≫
願いは通じた。
ナナはアークエンジェルに通信を入れる。
「こちらグレイス、バスターのパイロットが投降しました。バスターに対する戦闘を解除してください」
もの言いたげなナタルが了解すると、ナナは安堵し、息をついた。
その時、近隣の島から爆音が鳴り響き、地を揺るがした。
背に嫌なモノを感じ、ナナはその方向を見る。
と、尋常ではない規模の黒煙が、不気味に空へ立ち上っていた。