アークエンジェルは、残りの物資の搬入が急ピッチで進められていた。
コロニー外にザフトがいるのは明らかで、彼らがアークエンジェルのヘリオポリス脱出をただ黙って待ち構えているとも思えない。
一刻も早い物資搬入と脱出準備が必要だった。
だが……。
「あのモビルアーマーは出られそうもないし……、クルーも正規の人員じゃない……か……」
たった今、こっそりとドックを覗いて来たナナは、ため息をつきながら廊下を歩いていた。
「……シェルターにも……今さら入れるわけないし……」
彼女の予測は正しく、コロニー内の警戒レベルは9まで上がり、全てのシェルターにロックがかけられていた。
今さら、彼女やキラたちが入れる余地はない。
それに……。
先程マリューが言ったとおり、彼女らは地球軍の最高機密を知ってしまった。
まして、それを操縦した一人がコーディネーターで、もう一方が開発機のテストパイロットという事態だ。
たとえ避難の選択肢があったとして、軍が二人を解放するはずはなかった。
とすれば……。
しばらくの間、このアークエンジェルに搭乗するしかなさそうだ。
ナナは別段覚悟を決めたというような顔もせず、小さく一つ、こう呟いた。
「……あのコ……大丈夫かな……」
その時、避難民居住区の一部屋からこんな声が聞こえてきた。
「キラにとってはあんなことも、『大変だった』ですまされちゃうんだぜ……?」
ナナの足が止まった。
声の主は知っている。
とはいっても、さっき知ったばかりだが……確か、キラの友人のカズイという少年だ。
「やっぱコーディネーター……、キラは、オレたちとは違うんだよな……」
ナナは拳を握った。
彼の言うことはもっともな事実だ。
ナチュラルとコーディネーターの間に決定的な違いがあるのは否めない。
もともと、その「違い」のために彼らは対立しているのだ。
この戦争も、それ以前のいがみ合いも……。
今……その争いを嫌って共存してきた彼らの目の前に、その「違い」が明確な形で突きつけられた……。
それだけのこと。
ナナは深く息を吐いた。
「あんなヤツらと戦って……勝てるのかよ……地球軍は……」
再び聞こえたカズイの言葉に、ナナは思わず言った。
「勝つことがそんなに大事なの……?」
突然のナナの登場とその言葉に、カズイらは困惑する。
が、ナナは彼らの視線を受け流し、二段ベッドの上で寝息をたてるキラを見た。
「ど、どういう意味……?」
尋ねるカズイと戸惑うサイらに、ナナは自嘲気味に笑う。
「べつに……」
『勝つことがそんなに大事なのか……』と彼らに対して言ったところで、その意味を説明することはできなかった。
ただ漠然と、カズイの言葉に……そして今まで目にしてきた大人たちの態度に思っていただけだった。
やがて、気まずい空気の中キラが目覚めたころ、マリュー・ラミアスが彼らの元を訪れた。
ナナの予測は当たった。
彼女の目的は、アークエンジェルのヘリオポリス脱出の際、モビルスーツでの支援を要請することだった。
ナナと……そしてキラに。
「お断りします!!」
当然、キラは断った。
「確かにっ、僕たちの周りでは戦争が起こってて、それに目を背けてはいられないっていう、あなたとナナの言葉は正しいのかもしれない……でも……」
ナナは彼の隣りで、黙って聞いていた。
「僕たちは戦争が嫌で、中立の場所を選んだんだ……!! それなのにっ……!!」
「キラくん……」
マリューにも、苦悩の表情が見て取れた。
双方の立場や気持ちがわからないわけではなかった。
が、ナナは場違いに平然と言った。
「私はやります」
キラが勢いよく彼女の横顔を見た。
だが、ナナはマリューをまっすぐ見上げたままに言った。
「こんなところで死ぬのは嫌だし。生き伸びるために私ができることがあればやります」
友好的とも、善意ともとりがたい、冷たい声が響く。
「ナナ?!」
止めようとするキラに、ナナは初めて視線を合わせて言い捨てた。
「何のためにチカラを使うか……自分で決めればいいだけだもの」
キラの瞳の中に、彼を軽蔑するような醜い顔が映っていた。
2023/7/12 改訂