戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

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査問会

 査問会は、ナナが予測したとおりの議事進行だった。

 本部のサザーランド大佐は、初めから『コーディネーター』を最重要機密機体に乗せたマリューの判断ミスを指摘した。

 そしてこれまでのアークエンジェルの航海を、『大した戦果』と皮肉った。

 表向きには「少尉」の階級を与えられたことになっているナナは、ノイマン曹長の隣で、淡々と査問の運びをうかがっていた。

 理不尽かつ執拗な尋問に、時折椅子から腰を浮かせるフラガとマリューの背を冷静に見つめた。

 

 やがて詰問の内容は、ナナ自身へと移行する。

 サザーランドの眼の奥にあるものは、決して尊敬に値する上官の持つ光ではなく、探るような、責めるような、品定めするような……不快な光だった。

 が、全て予測立てしていたナナは、冷静に振舞った。

 いちいちサザーランドの挑発に乗るのも無駄な話と、馬鹿にした気持ちもあった。

 もちろん、覚悟もしていた。

 それに、キラとトールを失った悲しみはナナの心に広く水を張り、怒りの火など灯る場所はなかった。

 

 ただ、

 

「コーディネーターがいるから、世界は混乱するのだよ」

 

 そうサザーランドが言ったときだけ、ナナの心は細波だった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 やがて。

 

「長時間の質疑応答ご苦労であった」

 

 サザーランドはようやく査問会の解散を告げた。

同時に、起立したアークエンジェルの仕官たちにこう言った。

 

「フラガ少佐、バジルール中尉、イズミ少尉、アルスター二等兵以外の乗員は、このまま艦で待機するように」

 

 名を呼ばれたフラガは怪訝な顔を隠さず問う。

 

「では、我々は?」

「この4名には転属命令が出ている。明08:00、人事局へ出頭するように」

「て、転属……でありますか?」

 

 転属命令……ナナはその言葉にも表情を変えなかった。

 本部のお偉方の腹の底は見えている。

 

「イズミ少尉はX-101グレイスと供に退艦してもらう。機体移送の準備もしておけ」

 

 だからサザーランドがナナを見てそう言ったとき、ナナは静かに口を開いた。

 

「最後に、サザーランド大佐にお聞きしたいことがあるんですが」

 

 サザーランドは興味深げに口の端を上げた。

 ノイマンが隣で不安げにナナを見下ろす中、ナナはサザーランドの目をまっすぐ見て言った。

 

「この戦争は、どうすれば終わるとお考えですか?」

 

 マリューとフラガが振り返った。

 サザーランドの部下たちも、吐息を詰めた。

 

「簡単なことだろう」

 

 サザーランドはなだめすかすように答えた。

 

「“敵”を全て倒せばよいのだ」

 

 今度はナナが、口の端を上げた。

 

「“敵”……ですか……?」

「そうだ。前線で戦果をあげてきた君ならば、よくわかっているはずだろう?」

 

 ナナは答えずに、いかにも彼の答えに賛同したかのように笑んだ。

 サザーランドも満足そうにうなずき、会議室を去った。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「大変だったな、お前も」

 

 アークエンジェルのドックに戻ってから、フラガは大きなため息をついた。

 

「平気ですよ。聞かれることはわかってたし」

 

 ナナはなんでもないことのように答える。

 

「逆に、尋問の内容が予想通りで面白かったです」

 

 肩をすくめると、フラガは「参った」といったように苦笑した。

 

「最後に……何であんなことを聞いたんだ?」

 

 そしてナナの真意を問う。

 ナナはグレイスを見上げながら、淡々とした口調で応えた。

 

「地球軍の……真意を知りたかったからです」

 

 その横顔が大人びていて、フラガは一拍置いてから問いを続ける。

 

「で、わかったのか?」

 

 ナナはじれったいほどにゆっくり、彼を向いた。

 

 

「コーディネーター(イコール)“敵”である……と」

 

 サザーランドの声が甦る。

 

「“敵”を全て滅ぼすことで戦争を終わらせる……と」

 

 ナナは憎悪すら篭もった瞳を見せた。

 

「…………」

 

 それで、フラガはナナの想いを理解した。

 もともと彼は、ナナが地球軍のために艦に乗ったわけではないことを知っていた。

 彼女の意志も聞かされた。

 ここでは、ナナの意志は叶わないと理解した。

 

「で、オレたちは転属命令が出されたが……どうする?」

「転属になった顔ぶれを見ると……本部の目的が気になります」

「目的……?」

 

 転属になったのは、フラガとナナ、そしてバジルールとフレイである。

 

「戦果を上げてきた少佐と、“貴重な”MSパイロットの私。それに、上官命令に忠実なバジルール中尉、そしてアルスター前事務次官の娘であるフレイ……」

「どれも『使えそうな人材』ってわけか」

 

 ナナは整備員らに聞こえぬよう、小さな声で言った。

 

「あとのクルーは“お払い箱”ってことですかね」

「お払い箱……」

 

 ナナはわずかに眉をひそめた。

 

「おかしくないですか?」

 

 フラガは組んでいた腕をほどいた。

 

「何がだ?」

 

 次に言うナナの言葉に、嫌な予感がしていた。

 

「アークエンジェルは仮にも、わざわざ中立国オーブで秘密裏に開発した新造艦ですよ……? ザフトが執拗に追撃するほどの……」

 

 ナナが何を言いたいのか、フラガも少しずつわかりかけてきた。

 その分、嫌な予感が強くなる。

 

「いわば“大きな餌”……でもその中身には、軍にとって取って足りぬと判断した人員……」

「ナナ……何を……」

 

 ナナの言葉には、包み隠すところが何もなかった。

 

「大きな餌で釣りたい獲物があって、それをまるごと切り捨てるほど大きな“作戦”があるってことですよね?」

 

 ナナは顔大人びた顔で、移送準備に追われるグレイスを見上げた。

 

「……大きな……作戦……?」

 

 ナナの言葉は、彼女の予測でしかなかった。

 だが、フラガは寒気さえ覚えた。

 言われてみれば、当てはまる。

 まだ子供の域を脱しきらず、軍教育すら受けていない彼女の言葉には、いちいち納得できる部分があった。

 

「だがオレたちは……」

 

 が、彼らは今、軍人でという立場である。

 いくら不信をつのらせたとて、異議を申し立てることは不可能だった。

 本部の命令には従わねばならないのだ。

 

「ま、だからといって()()()一軍人である私なんかに、できることはないですけどね」

 

 ナナはそれすら先回りして、皮肉めいた笑いを見せた。

 

「ナナ……従うのか? 転属命令」

「あたりまえじゃないですか。従わなきゃ反逆罪でしょ?」

 

 今までの表情とは一転、ナナは乾いた笑い声をあげる。

 

「それは……お前の意志とは反するんじゃないのか?」

 

 フラガがそう、強い口調で言ってみても。

 

「ここで軍法会議にかけられたら、それこそもともこもないですから」

 

 ナナは肩をすくめた。

 

「地球軍の命令には従いますよ、とりあえず」

「ナナ……」

 

 やけにあっさりとしたナナの答えに、今度はフラガが眉をひそめる。

 が、ナナは遠くで呼ぶマードックの方へ向きを変えながら、また大人びた笑みで言った。

 

「とりあえずは……ね」

 

 

 

 

 

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