戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

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 「大きな作戦」……だった。

 ここがザフトの攻撃を受けることも、守備隊が囮、いや“捨て駒”だということも。

 予感が的中しても、ちっとも嬉しくはなかった。

 ナナは苛立ち、グレイスのモニターを叩く。

 フラガと話したとおりの現実。

 『使える人材』をアラスカから離し、アークエンジェルという餌を撒いてザフトの攻撃を受ける。

 誘いこんでどうしようというのか……。

 何の策があるというのか……。

 

「アークエンジェルはやらせない……!!」

 

 とにかく、ナナはアークエンジェルを探した。

 ある程度の予測を立てていたから、グレイスはフル装備のまま搬送させていた。

 だから、ライフルと盾とで、向かって来るザフトには対抗できた。

 が……。

 

「数が多すぎる……!!」

 

 アークエンジェルの位置を捕捉する間もなく、次から次へと浴びせられる爆撃。

 ザフトは間違いなく、総力戦でアラスカに集結していた。

 パナマを攻めるつもりでアラスカへ総力を向けてきたザフト。

 そしてそれを察知し、アラスカから主戦力を離脱させていた地球軍。

 いったい何がどこでどうなっているのか……。

 ただならぬ大きな黒いチカラを振り払うように、ナナは懸命に操縦桿を握った。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 補給も人員編成もままならぬ状態で、アークエンジェルは守備戦に加わっていた。

 すでに右舷デッキは破壊され、艦の姿勢維持も困難な状態だった。

 懸命に応戦するが、この戦力でザフトの総攻撃に対抗しろというほうが、初めから無理な話だった。

 その上、単機で戻って来たフラガから、本部の地下に「サイクロプス」が仕掛けられていると告げられる。

 それはつまり、ザフトを誘い込むだけ誘い込んだらサイクロプスを発動し、この基地ごと消滅させるということ。

 もちろん、守備隊も巻き込むことになる。

 彼らは囮……捨て駒として完全に本部から切り捨てられていた事実を改めて知る。

 

「敵の大半をこちらへ誘い込むことが戦闘目的だったなら、本艦はすでにその任を果たしたものと判断します」

 

 艦長、マリュー・ラミアスは決断した。

 

「これ以上の戦闘は困難とし、この空域を離脱します。なお、これは艦長マリュー・ラミアスの独断であり、クルーは一切の責任を負わないものとします」

 

 だが、離脱も不可能に近かった。

 次から次へと向かって来るザフトの波に、隙間は無い。

 フラガもスカイグラスパーで再出動したが、応戦に手一杯だった。

 そこへ……青い光が舞い降りた。

 羽を広げた青い機体はまぎれもなく……。

 

「グレイス……!?」

 

 ブリッジの誰もが確信した瞬間、

 

≪10時の方向に向かってください!≫

 

 グレイスから通信が入った。

 声はもちろん、ナナ・イズミだ。

 

≪ディン隊を突破します!≫

 

 フラガに続く、二人目の帰艦者。

 ブリッジの面々がわずかに明るくなる。

 

≪意外と早い再会だったな、ナナ!≫

≪フラガ少佐もけっこう落ちつき無いんですね≫

 

 二人もコンタクトを取って連携に入る。

 

≪ところで、“作戦”の最終段階が何か知ってるんですか?≫

 

 フラガはこの事態を予測していたナナの問いに、つかの間を置いて答えた。

 

≪本部の地下にサイクロプスが仕掛けられている≫

≪サイクロプス……?≫

 

 事態を予測していたナナでさえ、息を呑む代物。

 

≪まさか、本部はすでに……≫

≪ああ、もぬけのからだ≫

 

 ナナは何も言わなかった。

 が、スピーカー越しでもフラガにはナナの怒りがわかっていた。

 

≪とにかく、ここから一刻も早く離脱しなくちゃならないってことですね≫

≪なんとしてもな≫

 

 グレイスとスカイグラスパーは懸命に突破口を開きにかかった。

 が、二機の援護をも上回るザフトの攻撃量に、事態はなかなか好転しなかった。

 さらに、あのデュエルまでもが向かって来た。

 

≪くそっ、こんな時に!!≫

 

 フラガがそちらへ向かった。

 

≪オレが行く! ナナは艦前方を切り開け!≫

≪了解!≫

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 グレイスが辛うじてディン隊を退けると、今度はジンが隊列を組んできた。

 アークエンジェルの迎撃が追いつかないまま、懐深く入られる。

 グレイスの高速移動と的確な射撃で隊列を乱すが、その数の前には敵わなかった。

 

≪アークエンジェル!!≫

 

 戦艦は取り付かれれば終わり……。

 向きを変えた瞬間、グレイスの手にあったライフルが打ち抜かれて砕け散る。

 構わずナナは、ブリッジに向かう一機のジンへ向かって行った。

 辛うじて、イーゲルシュテルンでジンを遠ざける。

 その間に回りこみ、アークエンジェルのブリッジを背に、ジンに対してビームサーベルを構える。

 撃たれても……、ブリッジは護る覚悟だった。

 背には、護りたいものがある。

 そうでなければ意味がない。

 

 だが、その手にあったサーベルは、突如として光を無くした。

 そして、青い機体は見る間に輝きを失った。

 

「グレイスのパワーが……!!」

 

 すでに限界を迎えていた。

 フェイズシフト装甲が消え、ビームサーベルはただの筒と化した。

 

≪ナナ!! ナナ!!≫

 

 ミリアリアの、言葉にならない声が届く。

 グレイスはビームサーベルを捨て、盾を構えた。

 そこから一歩も避ける気は無かった。

 が、ジンはわざとゆっくり撃ってきた。

 2度、3度の攻撃で、グレイスの盾は破られた。

 さらにジンは、無防備なナナをあざ笑うかのようにグレイスを足蹴りにした。

 

「ぐっ…………!!!」

 

 破片を散らしながら、なすすべもなく墜ちていくグレイス。

 機体を立て直す推力すらままならない。

 

(アークエンジェルがっ……!!)

 

 ジンは改めて、ブリッジに銃口を向ける。

 冷たいアラスカの海へと墜ちていきながら、ナナは歯を食いしばった。

 恐怖ではなく、悔しさに……。

 

 その時、まさに最期の火が発射されるその瞬間、一条の閃光が空から走った。

 それはまっすぐに、すでに銃口が光りかけていたジンのライフルを打ち抜いていた。

 

「……え……」

 

 それが“何”が認識する間もなく、ジンは両足を落とされる。

 

「モビル……スーツ……?」

 

 白い機体に、青い翼。

 見たこともないその機体は、ジンを遠ざけたかと思うと、グレイスに向かって来た。

 尋常ではないそのスピードに、構える間もなく、グレイスは腕を掴まれ引き上げられる。

 機体はあっけなく安定を取り戻した。

 そして……。

 

≪ナナ! 大丈夫?!≫

 

 スピーカーから声がした。

 

「え……?」

 

≪ごめんね、遅くなって≫

 

 続いてモニターに映し出される顔は、まぎれもなく……。

 

「キ……ラ……?」

≪良かった、間に合って≫

 

 やさしく笑んだ彼は、確かにキラだった。

 

「キラ……!!」

 

 言葉は無かった。

 ただ彼が……ここに居ることが信じられなくて……。

 嬉しいのか、悲しいのか、感情がごちゃまぜになって感覚を失った。

 

≪ここを無事に切り抜けたら……≫

 

 そんなナナに、キラは大人びた口調で言った。

 

≪君にたくさん話したいことがあるんだ≫

 

 ぎこちなく、ナナは頷いた。

 するとキラは安堵したように笑って、機体の向きを変えた。

 2度、3度、ストライクとは比べ物にならない火力で、周囲のザフト軍MSを蹴散らす。

 そしてその間に、グレイスをアークエンジェルのデッキに着艦させた。

 

「キラ……!」

 

 ナナは気持ちを奮い起こし、彼に告げる。

 

「基地にサイクロプスが仕掛けられていて……もうすぐ作動するの!」

≪サイクロプスが……?!≫

 

 できるだけ落ち着いて……そう言い聞かせて、ナナは言った。

 

「だからっ……早くここを離脱しないと、地球軍もザフトも……みんなっ……!!」

 

 が、言葉は途中で詰まった。

 悔しさと、怒りとが入り混じり、さらにキラがこんな場所へ戻ってきたことへの言い知れぬ悲しさに。

 

≪わかったよ。僕にまかせて≫

 

 かつての彼とは違う、冷静さ。

 キラは力強くそう言って、再び空へと飛び去った。

 

「キラ……?」

 

 直後、キラの声は全周波回線で聞こえてきた。

 

≪ザフト、連合、両軍に伝えます。アラスカ基地はまもなくサイクロプスを作動させ、自爆します≫

 

 両軍へ……敵味方無く伝えるもの。

 

≪両軍とも直ちに戦闘を停止し、すみやかに撤退してください。繰り返します……≫

 

「キラ……」

 

 心が震えた。

 折れそうになっても、ギリギリのところで踏ん張ってきたナナの意志が、彼の言葉で震えていた。

 

 

 

 

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