ザフト軍のパナマ攻撃の知らせを、ナナはモルゲンレーテの整備ドックで聞いた。
「ザフトは『ジョシュアの敵討ち』……と、猛攻撃を仕掛けてきました」
「狙いはマスドライバー?」
宇宙へ上がるための施設、「マスドライバー」。
いまや貴重なそれが、パナマにはあった。
それさえ制圧すれば、地球軍の足は地上に止まる。
ザフトのパナマ攻略の目的は明らかだった。
「パナマ陥落は……おそらく時間の問題かと……」
キサカの言葉に、ナナは少しの間考えこんだ。
そして、グレイスの整備を周囲の者に任せ、ウズミの元へと向かった。
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「パナマが落ちれば、情勢はどうなる……?」
窓辺に立ち、ウズミはナナにそう問う。
ガラスの向こうには、夕日を浴びる紅い海が広がっていた。
「地球軍は地球に残るマスドライバーを求め、躍起になると思います」
「で……あろうな……」
地球に残されたマスドライバー……それは、このオーブにもあった。
日に日に強まる、地球軍からの参戦要請。
それに、マスドライバーの保持。
そして、強大な軍事力……。
どの条件から見ても、オーブが立たされた場所は狭く際どい所だった。
「地球軍は……オーブに対する圧力をいっそう強めるでしょう」
「うむ……」
外交でどうにかなる問題ではなくなる……と、ナナは懸念した。
もちろん、ウズミがそのことを前提に考えていることも知っていた。
「オーブは“敵対国”と見なされるでしょうね」
冷静な声に、ウズミはナナを向いた。
そして、再び問う。
「そなたは、オーブの取るべき道をどう考える?」
ナナが答えるのに、間は無かった。
逆に、簡単な問題を出されたかのようで、少し笑う。
「私に聞かずとも、もうお答えは決まってらっしゃるのでしょう?」
だから、ナナはこう言った。
「私は、ウズミ様がオーブの理念を崩すことは、決して無いと思っています」
ウズミはかすかに目を細めた。
「地球軍に組みすれば、軍やマスドライバーを利用されるかもしれませんが、孤立は免れるでしょう……」
ナナの言葉に淀みは無い。
「逆にザフトと組んでも、同じこと……」
自分の足で、ようやくここまで辿り着いた者の、強い信念があった。
「国民の多くは、地球軍に参戦することを望むかもしれません。この国が戦場にならない道を選ぶのなら……」
ウズミはそれに聞き入った。
「でも、それでは何も終わりません」
微動だにせず。
「互いを認め合わず、ただ“違うから”と憎み、全てを敵、味方に分けては、争いは絶対に終わりません」
「ナナ……」
「そうさせる“力”こそが“敵”だと……私は思いました」
“答え”はいつのまにか出ていた。
「そして昨日、ウズミ様の言葉で確信に変わりました」
ウズミはナナに歩み寄り、ナナもソファから立ち上がった。
「そなたは“光”を見つけたのだな」
「遠い……光です」
妨げるものは数多ある。
そのための犠牲も、覚悟せねばならないだろう。
だが、
「オーブが取る道は、世界に指し示す道となるでしょう」
ナナは噛みしめるように言った。
ウズミもまた、腹の底にある決意を見据えるように頷いた。
そして、
「そなたはどうする。どうやってその光へと進むのだ……?」
三度問う。
やはり、ナナに迷いはなかった。
「戦います」
気負いすら取り払った。
「オーブの理念を掲げて、望む未来のために、戦います」
望まぬ未来が迫っていても、希望は捨てない。
そのために戦う。
その力も持っている。
「やはりな……」
ウズミは急に老けたような顔で笑った。
「ウズミ様……?」
そしてナナの肩に手を置いて、呟いた。
「やはりそなたは、我らの光だ……」
ナナは首を振る。
最近も誰かに言われたその台詞は、やはり他人事のようだった。
「私はずっと……ウズミ様の信念に導かれて生きてきましたから……」
「よいのだ」
「ウズミ様……」
ウズミはカガリにするように、ナナの頭に手を乗せた。
「人類の未来は、そなたの目指す先にある。……私もそれを目指して共に戦おう……」