マリュー・ラミアスという軍人の言葉を受け入れたわけではない。
確かにこの戦争に目を背けてきた自分たちの無責任さは否めない。争いが嫌だからと、それに関心を持たなかったことへの罪は認める。
だからといってすすんで関わる気にはなれるはずもなく……それを流動的に受け入れて戦おうとするナナの態度も納得がいかなかった。
が、実際のところ今は戦うことでしか生きる道は開けなかった。それはわかっている。
いくらストライクを扱えるといっても、戦闘に順応した操縦訓練など受けたことが無い自分が役に立つ確信はなかったが、やらないよりはマシなのかもしれない。みんなを護れるかもしれないから……。
そう思って、キラはナナと供に戦うことを仕方なく決意した。
ストライクとグレイスは再びアークエンジェルから飛び立った。迫り来るザフトの機体はジンと、そして……。
「イージス……?!」
グレイスのモニターには、確かに先ほど奪取されたはずの『X303-イージス』が映し出されていた。もっともナナ自身、実際にアレを目にするのは初めてだった。
(空中戦に強い機体……モビルアーマーに形態変化するヤツだっけ……!)
フェイズシフトの展開で機体は朱色に光っている。6機の“G”の中でフレーム構造が異なるただ一機だったはずだ。ナナは頭に入っていたデータを引っ張り出す。
(もうあれを実戦に投入してくるなんて……!!)
あれほど複雑難解なOSをわずかな時間で理解し、書き換えることができるとは……。
キラもそうだ。やはりコーディネイターは自分とは“違う”……。
『やっぱコーディネイターはすごいよな。キラはオレたちとは全然違うんだよ……』
先のカズイの言葉が耳の奥で聞こえた。
(……っ……!!)
ナナはモニターを拳で叩いた。操縦方法を「知っていた」とはいえ、ナナはグレイスを自在に乗りこなせるわけではない。実機に触れることも、目にすることすら初めてだ。
シミュレーターや試作機には乗っていた。が、実はそれもこの“G”の一世代前のモデルで……である。実際の“G”に関してはただの資料でしか知らなかった。
もっとも、その事実をアークエンジェルの軍人やキラたちに知られるわけにはいかなかった。
だから平然と戦うことを宣言しても、その実、ナナにとっては懸命の操縦だった。
二度目に触れる操縦桿のミサイル発射ボタン。向かってくるジンに放つ。シミュレーターとは違う。当たれば相手は死ぬし、当たらなければこちらが殺される……。
命のやり取りは初めてだった。が、ここで死ぬわけにはいかなかった。そして護らなければならなかった。
「キラっ……!!」
交戦中のジンを遠ざけた隙に見えたストライクの危機。
が、ストライクは相手のジンの攻撃をかわし、その胴を真っ二つに切り裂いた。
その爆風がグレイスにも浴びせられる。バランスを失ったところへ先ほどのジンが襲い来る。
ナナは懸命に機体を立て直して応戦した。
息もつかせぬ混戦。グレイスは再びビーム砲を放ち、ジンを威嚇する。ヘリオポリスにできるだけ損害を与えないこと。アークエンジェルにMS(モビルスーツ)を近づけさせないこと。キラを死なせないこと。そして、自身も死なないこと。これらを全て背負って戦うことは、実戦経験が皆無の彼女にとって難解だった。
アークエンジェルからの援護もあり、ジンは再び遠ざかった。その間に、ストライクはイージスと対峙していた。
グレイスは援護に向かう。
(ストライクじゃ、イージスのスピードに敵わない……!)
それに、アレがMA(モビルアーマー)に扁形できることをキラは知らない。
「キラ!!」
が、ジンが纏わりついてそちらへなかなか近づけない。ストライクを捉えたモニターを気にしながら応戦するのが精一杯だった。
その時……、モニター上でストライクとイージスが動きを止めた。“戦場”にあるまじき光景……。
「……キラ……?!」
嫌な予感がした。
そしてスピーカーから聞こえてきたのは……
≪キラ……。本当にキラなのか……?≫
≪アスラン……君なのか……?≫
互いの名前を確認する少年の声。
(……え……?)
ナナが戸惑った隙をついてジンが迫る。キラを気にする余裕など一瞬も与えられない。
ヘリオポリスのシャフトに、アークエンジェルの弾丸が当たった。その損壊でコロニー内は不気味に揺らぎ始めた。
降って来る瓦礫を避けながらジンの攻撃を交わす。
が、ナナの耳に再び二人の声が聞こえる。
≪キラ……! なんでお前がそんなものに乗っている……?!≫
≪アスランこそ……なんでザフトに……?!≫
繰り返される会話は、確かに“知ったもの同士が交わす風……。
「キラっ……!!」
ナナは渾身の一撃でジンの腕を破壊し、ストライクに向かった。
その時、突然大気がひしゃげた。
慌てて操縦桿を握り直してモニターを見ると、近くの地表に大きな穴が開いていた。その向こうには、暗い宇宙が広がっている。
それがどういうことか理解した瞬間だった。
グレイスとストライクはあっという間にその宇宙空間へと吸い込まれて行った。
2023/7/12 改訂