戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

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 オーブ現政権の即時退陣。
 国軍の武装解除、並びに解体。
 これが、パナマを失った地球連合軍が突きつけてきた『最後通告』だった。
 48時間以内にこの要求に従わない場合、オーブ連合首長国を『ザフト支援国家』と見なし、武力をもって対峙する……と。

 理念と法を捨て、連合に下れば、このオーブでの戦闘は回避される。
 が、プラントが“敵”となる。
 逆にプラントと組めば、連合は“敵”。
 オーブは取るべき道の選択を迫られていた。


国の未来

 アークエンジェルのドックに、艦長の号令で全クルーが集められた。

 マリューは彼らに、オーブの置かれた状況を説明した。

 すでに連合艦隊がオーブに向かっていること。

 オーブ政府から、都市部、軍施設近郊からの避難命令が出されたこと。

 それでもオーブは、あくまで『中立』の立場を貫き、現在も外交努力を続けていること。

 だが、残念ながら戦闘を回避する可能性は極めて低いこと。

 

 クルーたちは不安げな面持ちでざわめき立つ。

 ナナは、マリューやフラガ、そしてカガリの側ではなく、キラとともに彼らの中に居た。

 正直、事態を予測していたから、ナナには何の動揺も無かった。

 ただ淡々と、マリューの話に耳を傾ける。

 

「我々もまた、道を選ばねばなりません」

 

 現在、アークエンジェルに示されている『道』は無かった。

 アークエンジェルは脱走艦であり、もはや士官たちも軍人という枠を取り払いつつある。

 

「オーブのこの事態に際し、どうするべきなのか……。命ずる者もなく、私もまた、あなたがたに対し、その権限を持ち得ません」

 

 マリューの明確な言葉に、ざわめきはいっそう増す。

 

「回避不能となれば、明後日09:00、戦闘は開始されます」

 

 オーブを守るべく、連合と戦うのか。そうではないのか。

 ひとりひとりが、自身で判断せねばならない時が来ていた。

 だから、マリューは希望者の退艦を許可する発言をした。

 残って戦うも、戦いを避けて去るも……各々が決断するのだと、そう告げた。

 ざわめきは最大になった。

 突きつけられた『選択の時』に、誰もが困惑していた。

 が、立ち止まっていることはできなかった。

 どちらにせよ、選ばねばならない。

 個人で考えた道を。

 最後にマリューは、彼らに言った。

 

「これまで私のような頼りない艦長について来てくれて……本当にありがとう」

 

 そして深く、頭を下げた。

 再び彼女が顔を上げた時、最前列の隅に立つナナと目が合った。

 二人はかすかに笑みを交わし、同じように息をついた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「連合はパナマでMS部隊を投入したっていうらしいから……」

「たぶん、オーブにも展開してくるだろうね」

「ストライクを量産化した機体……って話だけど、性能については詳しい情報が入ってないし……」

「部隊の規模もどのくらいかはわからない……」

 

 解散後、ナナとキラは連合の攻撃について話しながら歩いていた。

 そこへ。

 

「ナナ! キラ!」

 

 カガリが切迫した表情で駆けて来た。

 

「ナナ、わ、私っ……」

「ちょっと落ち着きなさいよ」

「だ、だって……!」

 

 ナナは極めて冷静に返す。

 宥めるように言ったのはキラだった。

 

「そんな服を着てる人が取り乱してたら、みんなが不安になっちゃうよ」

 

 カガリは公人が身につける制服を見下ろし、息をつこうとする。

 が。

 

「そ、そうだよな……でもっ……」

 

 すぐに頭を抱え込む。

 

「オーブが戦場になるなんてっ……こんなっ……こんなこと!!」

 

 それを見て、キラは静かに言った。

 

「でも、オーブのとった道は正しいと思うよ、僕は」

「え……?」

 

 顔を上げたカガリに、キラは優しく言う。

 

「一番大変だとも思うけど」

「キラ……」

「だから、カガリも落ち着いて。僕も戦うから」

 

 不安と懸命に戦っているのか、カガリの瞳に涙が浮かんだ。

 そして彼女は、さらなる安堵を得ようと、ナナを見る。

 

「……カガリ」

 

 ナナは一度目を伏せた後に言った。

 

「あなたがしっかりしなくてどうするの?」

 

 それは、キラとは反対の厳しい声だった。

 

「ナナ……」

「あなたは国を護るための“指揮官”でしょう? みっともなくうろたえてないで、しっかり立ち向かいなさい」

 

 キラは一瞬、ナナを止めようとして口をつぐんだ。

 ナナの拳が、カガリの見えないところで震えていたからだった。

 

「この国の“意志”が正しかったと、あなたが自信を持てなくてどうするの? 国民や軍に不安や疑念を抱かせるようなことになる」

「あ、ああ……」

「怖がっちゃダメ。ちゃんと先を見据えるの。わからなくても答えを探し続けていなさい」

 

 カガリは突きつけられたものに耐えるように、強く奥歯を噛みしめた。

 

「あなたがこの国の未来になるの」

 

 ナナは強くそう言って、カガリの決意を待たずに背を向けた。

 

「ナナ……!」

 

 追おうとして躊躇ったカガリを、キラは笑みで圧し止めた。

 ややあって、顔にまだ不安を浮かべながらも小さく頷いたカガリに彼も頷き返し、彼もナナの後を追った。

 

 

 

 

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