つい先ほどまでアークエンジェルの禁固室に収監されていたディアッカ・エルスマンは、艦の後部ゲートから外へ出た。
艦を降りることになった経緯は、詳しく聞かされていない。
ただ、アークエンジェルが地球連合軍から離れたから……とだけを聞かされた。
そんな無茶苦茶な話を信じられないまま、彼は用意された平服を着て、ミリアリアによって返されたザフトのパイロットスーツをバッグに詰めて艦を降りた。
そこはモルゲンレーテのドックだった。
そこへ。
「ディアッカ」
「ナナ……?」
すれ違う者たちの挨拶に軽く応えながら、ナナが駆け寄ってきた。
「一体どういうことなんだよ、捕虜はもう必要ないから降りろってアイツが……!」
「アイツってミリアリア?」
「あ、ああ……」
ナナは少し笑いながら謝った。
「ごめんごめん。色々バタバタしちゃって、私も説明しに行く暇がなかった」
そして、どこまで聞いたかと尋ねる。
「ジョシュアが落ちてこの艦がオーブに来てて連合がオーブに攻撃して来るって……」
「あー……話がとびとびなんだ……」
「だからワケわかんねぇって言ってんだろ? てか、なんで連合の艦が軍を離れてオーブに居て、その中立国のオーブに連合が攻めて来るわけ?」
ナナは軽い口調で答える。
「この艦はアラスカで本部から“捨て駒”にされたから、生き延びるために脱出したの」
「はぁ? んじゃ、この艦は脱走艦なのかよ……」
「まぁね。ついでに、そんな連合のやり方にはこれ以上従えないからオーブに来たの」
「は……?」
「それで、パナマがザフトに落とされたことで、オーブのマスドライバーと軍事力が何としても欲しい連合は、参戦しないなら『ザフト支援国』として見なすと言ってきた」
「だ、だから連合にオーブが攻撃されるのか?」
「そういうこと」
これまでのいきさつと、先ほどのミリアリアの言葉とが、ようやく繋がった。
「だから……アイツもお前も戦うのか?」
ナナは笑みで返した。
「国を護るために……か?」
そしてやっと答えた。
「この国だけじゃない。“人が望む未来”を護りたいから」
「人が望む……未来……?」
曖昧な表現に、ディアッカは素直に怪訝な顔をする。
が、ナナは再び曖昧な言葉を言った。
「私、ナチュラルだし、連合のMSのパイロットだったけど……コーディネーターでザフトのパイロットのあなたのこと“敵”だと思ってないから」
「…………」
「そういう未来を手に入れたいだけ」
そして、その意味を飲み込めない彼の肩を親しげに叩く。
「投降させといてポイ捨てみたいで悪いけどさ、ちゃんと生き残ってよね」
そう言った姿は、先ほどのミリアリアと重なった。
「お、おい……!」
だから、彼女と同じくさっさと行きかけたナナを、彼は呼び止めた。
「いくらオーブったって、連合の攻撃に勝てるわけ……」
ナナは振り返り、彼の言葉を遮った。
その瞳に、彼は気圧される。
「この国の意志が折れれば、戦いは案外早く終わるかもね」
「え……?」
「ナチュラルかコーディネーター……どっちかが滅びることになって」
「…………」
そう言い捨てると、ナナは再び笑みに戻って別れを告げる。
ディアッカは、すでに続く言葉を持ち得なかった。
「あ、そうだ」
少し離れたところから、ナナが振り返って言う。
「アスランが生きてたって……!」
「ア、 アスランが……?」
「もし軍に戻ったら、よろしく言っておいて!」
彼の返事を待たず、手を振って再び歩き出したナナの背が、やけに細く見えた。