連合の艦隊がいっせいにミサイルを発射し、オーブ艦隊がそれを迎撃する。
アークエンジェルもまた、オーブを守るために発進した。
無論、マリューを初めとする“元”士官は戦う道を選んだ。
ブリッジから抜けたのはカズイただひとり。
ミリアリアとサイは残る決意をした。
ナナは彼らと特に話をしたわけではなかった。
ただ、残った者の顔ぶれを見ると、この戦争で何かを学びながら進んできた者たちばかりで、納得がいった。
ただ、キラが第八艦隊を護るために戻って来てしまった時のような、少しの痛みがあった。
「フラガ少佐、デビュー戦ですけど大丈夫ですか?」
ナナはそれを指先で潰すかのように、茶化すような口調でストライクへと通信を入れる。
≪生意気言ってくれるねぇ、そりゃぁMS戦はルーキーだけどさ≫
フラガも気負い無く答えた。
そのやりとりを聞いていたキラも通信を入れる。
≪でも、無理しないでくださいね≫
彼も、この戦闘に対して特に殺気だった様子はなかった。
ただ、こうなってしまったことを受け入れ、オーブの選択に賛同する形でフリーダムのコックピットに座った。
≪ボウズも嬢ちゃんも、俺の腕前をなめるんじゃないぜ!≫
ナナはヘルメットごしにニコリと笑った。
気負いは無い。
この戦闘がどういう結末になるのか、考えても無駄だった。
ただ護るために戦うだけ。
心配なのは、カガリが指揮官としてちゃんと役割を果たせるか……ということだけだった。
だから。
≪でも、ナナ……ほんとにいいの? オーブ軍の方へ行かなくて≫
キラが心配そうにそう言っても
「オーブ軍はウズミ様とカガリが居るから、私はアークエンジェルの一員として戦うの」
迷い無く答えられた。
この艦とともに進んでこられたから、オーブに再び帰ることが出来たし、後悔することなく居られる。
「キラも自分で決めたでしょ?」
力を手に、選ぶことを許されたはずのキラも、アークエンジェルと供にオーブを護るときめたから。
「私も……」
自分もまた、力を手に、自分の道を選ぶのだと……そう決意した。
≪敵モビルスーツ部隊、イザナギ海岸に上陸。モビルスーツ隊は発進後、迎撃願います……!≫
自分とは比べ物にならぬほどの覚悟で艦に残ったはずのミリアリアから、通信が入る。
ナナはストライク、フリーダムと共に、戦渦の中に飛び立った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ストライク、フリーダム、そしてグレイスが、M1アストレイと連合のモビルスーツ隊が交戦する空に躍り出た。
「M1と向こうのMSの性能はほぼ互角……」
上空からそう見抜くと、ナナは一気に降下し、M1の援護に入る。
M1アストレイのパイロットたちは、全員が初陣だった。
経験不足はいなめない。
中には、アサギらナナと歳の変わらない少女たちもいる。
が、相手のMS部隊もつい先日、パナマで実戦投入されたばかり。
こちらも訓練どおりの動きが出来れば、ある程度は対抗できるはずだった。
「あとは数さえ何とかなれば……!」
数で勝る連合に対し、グレイス、フリーダム、ストライクが懸命に援護する。
「ジュリ! 無駄撃ちしないでちゃんと狙って! シミュレーションどおりならちゃんと当たるから……!」
≪りょ、りょうかい……!≫
何とかサポートしつつ戦っていたグレイスだったが、突然現れた熱源を感知し、動きが止まる。
方向はオーブ艦隊とアークエンジェルが交戦している沖合いだった。
一時上昇し、メインモニターに光学映像を出す。
と、見たこともないMSが一機、ストライクのアグニ級のビームを放っていた。
さらに、海岸に向かって高速移動するMS、そしてMA。
≪地球軍の新型か……?!≫
陸に上がったMSに、ストライクが向かって行く。
「キラ!」
≪うん、空中戦は僕らで……! 艦隊を援護しよう!≫
「了解!」
グレイスとフリーダムは、艦隊を攻撃するMSとMAに向かう。
が、MAはイージスと同じようにMSへと変形し、手にした大鎌状の武器で駆逐艦を破壊していった。
さらに、フリーダムが放ったビームがそれの前で湾曲する。
≪ビームがっ……!!≫
「曲がるっ……?!」
敵MSの性能はグレイスを凌ぐほどだった。
ナナは手に滲んだ汗を感じないよう、操縦桿を強く握り返した。
沖合いではアークエンジェルがMA隊の集中攻撃を受けている。
バリアントで応戦しているが、数とスピードで押されているのは明らかだ。
「キラっ……! アークエンジェルが!」
≪う、うん、わかってるけど……!≫
しかし、キラすら状況を打開できぬほど、新型MSの攻撃は凄まじかった。
その時、気にかけていたアークエンジェル上空に、陸から高エネルギー砲が放たれた。
それにより、アークエンジェルに撃たれたミサイルが全て打ち落とされる。
「あ……あれは……」
グレイスのサブモニターには、高エネルギーライフルを構えたバスターが映し出された。
「ディ、ディアッカ……?!」
釈放されたはずの“ザフト兵”ディアッカ・エルスマンだった。
(ディアッカ……)
「ザフト」である彼にとって、何のメリットもない戦いのはずだった。
だが、彼は自分の意志であの火を放った。
湧き上がる激情をかみ締め、ナナは改めて目前の新型MSに向かう。
「キラ……!」
≪うん、わかってる!≫
グレイスとフリーダムは連携攻撃に入る。
キラの機体は以前と違うが、何度も共に戦った二人の間には関係なかった。
そして前よりずっと、心をひとつに戦えていた。
比べて敵は不可思議なことに、同時期に実戦投入されたMS隊にしては何の連携攻撃も仕掛けて来ない。
それどころか、味方の攻撃を邪魔し合う始末。
「なんとかこのまま押し込めればっ……!」
が、あと少しで形勢逆転というときに、もう一機も加わった。
敵側の火力と特殊武器で、グレイスとフリーダムは引き離され始める。
「あれってほんとに……?」
ナナに嫌な予感が走った。
機体の性能だけでなく、パイロットの腕も“ナナ”を凌ぐほどだった。
だとすれば、相当の訓練を受けた者か……、いや、まるで“ザフト軍”を相手にしているような感覚……。
そう感じてしまうほどの異常な戦闘スキルだった。
やがて、3機によってグレイスとフリーダムは囲い込まれる形となる。
三方向から放たれるビームや実弾が、容赦なく襲い掛かった。
グレイスもフリーダムも、直撃は避けている。
が、キラですらナナをかばう余裕はなく、反撃も効果を得られない。
そして遂に、2機は同時にロックされた。
ナナは歯を食いしばった。
目の前の緑色のMSが銃口を向けている。
この至近距離であの高エネルギーライフルを放たれれば、一撃でグレイスは大破するだろう。
すでに盾は失っていた。
かろうじて避けられても、背後のフリーダムに当たってしまう。
一瞬でそんなことを考えながら、ナナは熱を溜めた銃口を眺めていた。
その時……。
「え……?」
上空からビーム砲が放たれ、キラを撃とうとした敵に直撃した。
同時に、グレイスの目の前に赤い機体が現れ、
「…………?!」
指先ひとつ動かす間も無いうちに、緑の機体が放ったビームをその盾で受け止めた。
「あ……赤……い……」
突然現れたその機体に、ナナだけでなくキラも息を飲む。
連合のMSもまた、同様に動きを止めた。