突如現れた赤い機体。
ナナとキラは、互いに言葉を交わす余裕すらないほどに驚愕していた。
一体どこから、一体誰が……?
が、そんな間は与えられなかった。
一瞬早く我に返った敵MSの3機が、グレイスとフリーダム、そして赤い機体目掛けて一斉にビーム砲を放ってきた。
散開するも、ナナの瞳は赤い機体を捕らえたままだった。
すると、“それ”からグレイスとフリーダムに対して、通信が入った。
≪こちらはザフト軍特務隊……アスラン・ザラだ……!≫
「え……」
操縦桿の上で、ナナの手が冷たくなった。
忘れていたはずの火傷の痕が、今さらピリリと痛み出す。
≪聞こえるか? フリーダム……。キラ・ヤマトだな……?≫
なおも聞こえるその声は、間違いなく、アスランだった。
「アス……ラン……?」
喉の奥で、乾いた声が出た。
≪グレイスに乗ってるのは……ナナ……だな……?≫
キラもナナも、答えることはできなかった。
惚けた2機の代わりに、アスランが敵MSを迎撃する。
先に動いたのはフリーダムだった。
≪ど、どういうつもりだっ……?!≫
フリーダムはアスランの機体の前に割り込み、敵MSに攻撃する。
「キ、キラ……」
ナナは彼の苛立ったような声にゴクリと唾を飲み込み、襲い掛かる敵の攻撃をビームサーベルで撃ち返す。
≪この戦闘にザフトが介入するのか?!≫
そして、“この場”はキラに任せた。
実際、アスランが現れた事実を飲み込みきれていなかったし、敵の攻撃を避けるので精一杯だった。
ただ、言葉にならない祈りを胸の奥に抱きつつ、懸命にグレイスを動かす。
モニターに映る“アスラン”は、巧みに敵の攻撃を受け流しながらキラの問いに答えた。
≪この戦闘に対して、軍からはなんの命令も受けていない……!≫
そして、
≪この介入は……≫
グレイスに向けて放たれたビームを再び受け止めて護りながら、“アスラン”は言った。
≪オレの意思だ……!!≫
一瞬、スピーカーからキラの息を呑む様子が伝わった。
ナナは目の前の赤い機体に視線を奪われていた。
「アスラン……」
そしてさらに激しくなる敵MSの攻撃とともに、信じられないことが起こる。
まるで同じ隊で戦渦を潜り抜けてきた者同士のように、キラとアスランが連携をとり始めたのだ。
「アスラン……キラ……」
戦場では一度も無かった震えが、ナナの身体を襲っていた。
それは恐怖でなく、かといって喜びでもなく、説明しようの無い心の揺れだった。
やがて、敵MS3機は突然攻撃を停止し、母艦へと帰投して行った。
フェイズシフト装甲が剥がれたわけでもなく、エネルギー残量の問題でもなさそうだったのに、不可解な撤退だった。
さらに、連合艦隊からも撤退信号が放たれる。
一気に帰投する連合のMSたち……。
だが当然、ナナにその理由を考える余裕はなかった。
ただ、向かい合うキラとアスランを見つめていた。
≪援護には感謝する……≫
先に口を開いたのは、キラだった。
≪だが……その真意を確認したい……!≫
警戒を込めた声に、ナナはごくりと唾を飲む。
アスランの『答え』に対する予測など、立ててはいられなかった。
彼の『真意』とは……。
それを祈ることさえ、できずにいた。
≪オレは……≫
ややあって、赤い機体のコックピットが開かれ、“アスラン”が姿を露にした。
そして彼は、ゆっくりと言葉を選びながら答えた。
≪その機体……フリーダムの奪還、あるいは破壊という命令を本国から受けている……≫
ナナは奥歯をかみ締めた。
今さらながら、それは予測できる範囲だったことを思い知る。
だが、アスランは言った。
≪だが今……オレは
「え……?」
何故か……それ考える暇は与えられなかった。
≪話が……したい……≫
アスランがそう言った。
≪お前と……≫
彼はまっすぐに、フリーダムのコックピットを見据えていた。