戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

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 夕暮れの海岸で、戦闘を終えたオーブ軍たちが休息をとっていた。

 とはいえ、これは安息ではなかった。

 彼らは皆、凄まじい戦闘に疲弊しきっていたし、連合側が一時的な撤退をとったことは誰もが承知であった。

 そして、その犠牲の大きさも彼らの身体と心に大きくのしかかっていた。

 

 

「みんな、よくやってくれた!!」

 

 司令部から駆けつけたカガリは、この惨状に内心は愕然としつつも、平静を装って兵士たちに声をかける。

 

「撤退して行った理由はまだわからないが……」

 

 そして、赤い日に照り返すものを見上げ、走り出す。

 

「キラ……!! ナナ……!!」

 

 キラの乗るフリーダムと、謎の赤い機体がゆっくりと降り立った。

 そして向かい合う2機を見守るようにして、ナナのグレイスも降りる。

 アークエンジェルのクルーや、フラガ、そしてディアッカらが彼らの元に集まった。

 皆が息を止めて見守る中、赤い機体のコックピットからザフト兵が。

 フリーダムのコックピットからキラが。

 最後に、グレイスのコックピットからナナが姿を現した。

 

「あ、あいつ……!!」

 

 見覚えの無い赤いMSから降りたのは、オーブが救出・保護したザフト兵……アスラン・ザラだった。

 キラと戦い、キラを殺そうとしたアスラン。

 キラの幼い頃からの親友で、キラを殺したと泣いていた。

 そして彼の首には、ナナが大切にしていた護り石が……。

 

 その時のことをナナは自分とキラに話してくれた。

 ナナのあんな顔は初めて見た。

 きっと、一生忘れないと思う。

 

『ごめんね、キラ。何度か……言おうと思ったんだけど……』

 

 あれほど歯切れが悪い口調も初めてだった。

 

『私……あの時、無人島に不時着して……。……ちょっと調子が悪くて……』

 

 記憶を呼び覚ますようでいて、まだ躊躇っているようでもあった。

 

『アスランが、助けてくれた……』

 

 ナナはぎゅうと手を握りしめていた。

 

『“敵”だと言いながら、アスランは優しかった……。だから私は、キラと戦って欲しくないと思ったし、アスランが撃たれないで欲しいと思った』

 

 ナナがどんな思いでその時を過ごしたのか、カガリにはわからなかった。

 だが、同時に枯れ果てたようなアスランの顔も思い出した。

 キラを撃ったと言って泣いていた。激しく悔いて、憤って、絶望していた。

 それはきっと、彼も優しいからだと思った。

 キラと同じように、優しいヤツだから……。

 だから、ナナが言ったことはよくわかった。

 

『よかったね……』

 

 ナナはキラに言った。

 

『アスランが生きてて……本当によかったね』

 

 その時のナナの笑みは、頼りなくて、幼くて、なんだか胸が締め付けられた。

 

 

「キラ……ナナ……アスラン……」

 

 あふれ出しそうになる様々な感情を、カガリは懸命に押しとどめた。

 やがて、それぞれの機体から降りると、キラとアスランはしばし見詰め合った。

 そして、夕陽が照らす中、どちらからともなく歩き出す。

 駆けつけたオーブ兵がアスランに向けて銃を構えるが、キラがそれを制止した。

 

「彼は敵じゃない……!!」

 

 彼の言葉に、カガリの心は大きく打ち震えた。

 『敵』だから戦った二人だったはず。

 『敵』として殺し合った二人だったはずなのに……。

 アスランは、フリーダムとグレイスを援護した。

 そしてキラは今、アスランを()()()()()()と言い切った。

 

「ナナ……」

 

 カガリは二人の向こう側に立ち尽くすナナを見た。

 遠くて表情はよくわからなかった。

 が、夕日が照りつけるその顔は、青ざめているのがわかった。

 ちょうど、そのナナの正面で二人は立ち止まった

 再び、沈黙のままに見つめ合う。

 カガリの周囲の者たちも、微動だにせず二人を見守っていた。

 そしてナナも……。

 その時、どこからかトリィが飛んできて、キラの肩に止まって鳴いた。

 キラは少し笑って、アスランを向いた。

 そして、言った。

 

「やぁ……、アスラン」

 

 アスランは強く拳を握った。

 が、迷いを打ち消すように低く呟いた。

 

「キ……ラ……」

 

 やっと、出会えた二人……。

 そんな気がして、カガリはたまらず走り出す。

 

「お、お前ら……!!」

 

 そして、二人の首に腕を巻きつけた。

 

「カ、カガリ……?!」

 

 二人とトリィは驚いたが、カガリは叫んだ。

 

「この……バッカヤロウ……!!」

 

 涙が溢れた。

 キラとアスランが、ようやく笑みを交わしたのがわかったから。

 やっと二人が『敵』じゃなく、『友』としてここに居る……。

 かつての『友』にやっと会えた。

 カガリは彼らの首をがっしりと掴んだまま、無理矢理歩き出す。

 

「ナナ……!!」

 

 きっと、誰よりそれを望んでいたナナの元へ。

 

「ナナ……!!」

 

 呼んでも、ナナは答えなかった。

 

「ナナ……?」

 

 キラですら戸惑うほどに、ナナはその場に立ち尽くしたまま、

 

「……っ……!!」

 

 肩を震わし、泣いていた。

 

「ナナっ!!」

 

 ナナの涙を見たのは初めてだった。

 普通なら泣き出すような苦しいときも、生意気な笑みを浮かべて憎まれ口をたたいてきたナナが、両手で顔を覆って泣いていた。

 

「ほんと、バカだよなっ、こいつら!」

 

 カガリ自身も泣きながら、そう言って笑う。

 戸惑っていたキラは、優しい顔でナナの頭に手を乗せた。

 そして、アスランも……。

 ぎこちなく、震える肩に手を置いた。

 

 ナナはいつまでも、いつまでも、泣いていた。

 

 

 

 

 

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