オーブ軍のドックでは、軍艦やMSの他、アークエンジェルも整備や補給を受けていた。
グレイスもまた、他のMSとともにそこにあった。
それらの足元で、キラとアスランは言葉を交わした。
コンテナに腰掛け、並んで話す二人を見守るように、ナナは少し離れて立っていた。
キラは、己の意志をアスランに告げた。
ウズミ・ナラ・アスハの言葉を正しいと思うから、戦うのだと。
アスランは困惑した。
それは当然の反応だった。
いくらオーブが強大な軍事力を持っているとはいえ、相手は捨て身でオーブを獲りに来た連合軍である。
まして、新型MSの存在もある。
勝機があるのか微妙なところだった。
だが、オーブが地球軍につけば、地球軍はその力も利用してプラントを攻める。
ザフトの側についても同じこと。
ただ、オーブにとっての“敵”が代わるだけ。
「そんなのはもう嫌なんだ……。だから僕も戦うんだ……」
「しかし……!」
食い下がるアスランに、キラは静かに、呟くように言った。
「僕は君の仲間……友達を殺した……」
アスランの背筋がビクンとなって、彼は静止した。
ナナの脳裏にはブリッツの爆炎が甦る。
「でも……僕は彼を知らないし、殺したかったわけじゃない……」
そう……撃たなければキラが撃たれていた。
「君も……トールを殺した……」
そしてそれも同じこと。
撃たなければアスランが撃たれていたから……。
「でも……君も、トールのことを知らない……。殺したかったわけでもないよね……?」
キラに見つめられ、アスランはうつむいた。
「オレは……」
そして呻くように言う。
「……お前を殺そうとした……」
ナナも秘かに拳を握った。
隣でカガリも、息を潜めていた。
「僕もだよ……アスラン……」
キラは穏やかに彼に言う。
そして、MSを見上げた。
「戦わないで済む世界……。そんな世界だったら良かったけど……」
ナナは目を伏せた。
そう願っても、戦争はどんどん広がるばかり。
排除、撲滅、惨殺……。
憎しみが大きくなるだけ。
「このままじゃ本当に、地球とプラントは、お互いを滅ぼし合うしかなくなる……」
世界は二分され、敵だ味方だと区別して、それがまるで善のように叫ばれて……やがてそれぞれの“敵”を滅ぼすまで終わらない争いになる。
「だから……僕も戦うんだ……」
「キラ……」
「たとえ“護るため”でも、銃を撃ってしまった僕だから……」
キラはそう言いながら、ナナを見た。
反射的に、目を逸らしそうになった。
彼に銃を持たせたのは自分だから……。
だがナナは、キラを見つめ返して小さく頷いた。
もう独りじゃない……彼が言ってくれたから、孤独感は消えていた。
代わりに、あたたかく強い光が胸の奥で光った。
「僕たちも……また戦うのかな……」
「……キラ……?!」
だから、キラのそんな言葉にも、もう独りで拳は握らなかった。
キラと同じように小さく笑み、アスランを見つめる。
「もう、作業に戻るね……」
キラは立ち上がった。
「攻撃がいつ再開されるかわからないから……」
そしてナナに並ぶ。
ナナも一緒に歩き出した。
「ひ、ひとつだけ聞かせてくれ……!」
戸惑いながら、アスランが呼び止める。
「フリーダムにはNジャマーキャンセラーが搭載されている……。お前はそのデータを……」
キラは表情を変えぬまま答えた。
「ここで、あれを奪おうとする人がいるなら……僕が撃つ……」
そして困惑したままのアスランを残してフリーダムに向かう。
ナナはアスランと目を合わせた。
驚愕、迷い、葛藤、不安……それらが入り混じった瞳に、ナナは笑いかける。
「ナナ……」
アスランはまるで答えを求めるかのようだったが、ナナは再びキラに並んで歩き出した。
答えは、すぐになど出まい。
だから今すぐにキラと自分の意志を理解してくれるとも思っていない。
ただアスランが、『自身の意志』でキラと自分を助けてくれたことが嬉しかった。
『話がしたい』と……そう言ってくれたことが嬉しかった。
だから自然と、ナナはキラの横顔を見上げる。
キラも同じ気持ちだったのか、同じようにこちらを見ていた。