夜が明けた。
オーブ政府からの、幾度の会談要請に答えすら無いまま、連合は攻撃を再開した。
“敵”とみなせばその言葉すら聞こうとしない、これが連合のやり方と改めて知らされる形となった。
ナナは直接、ウズミから連絡を受けた。
アラスカで“それ”を直に見ていたから、むしろ彼よりも冷静だった。
絶望も、怒りも無い。
ただ淡々と、パイロットスーツに身を包み、グレイスの元へ向かう。
途中、フリーダムの方で声が聞こえた。
足を止めてそちらを向くと、アスランとキラが話していた。
ナナはそれをコンテナの陰から二人を見守っているディアッカを見つけ、傍に寄った。
「この状況ではオーブに勝ち目はない。お前もわかっているんだろ……?」
「うん……たぶん、みんなもね……」
二人の言葉に、ナナとディアッカは自然と顔を見合わせる。
「でも、勝ち目が無いからって戦うのをやめて言いなりになるなんて、できないでしょう?」
「キラ……」
「大切なのは、“何のために戦うか”で……それを僕はナナに教えてもらった……」
ナナはキラの台詞にうつむいた。
キラは何度もそう言うが、決してそんなつもりは無い。
あるとすれば、未だに彼を戦いに誘ったという罪の意識だけだ。
その複雑な気持ちを察してか、ディアッカがナナの肩に手を乗せる。
「だから……僕も戦うんだ……」
キラは言葉を失くしかけたアスランを置いて、フリーダムのタラップに上がる。
「本当は、戦いたくなんてないけど……戦わなくちゃ護れないものもある……って、それも、ナナが初めから僕に言ってくれてたことなんだけどね」
ナナは唇をかみ締め、キラを乗せてコックピットへ上昇するタラップと、置き去りのアスランを交互に見た。
「ごめんねアスラン……ありがとう……話せて嬉しかった」
「キラ……」
やがてフリーダムのコックピットが閉まると、ナナは顔を上げた。
「で、ディアッカはパイロットスーツなんて着ちゃってどうしたの?」
深刻な顔をしている彼を茶化すように。
「は? い、いや、オレも仕方ねーからバスターで出てやろうと思ってさ」
「ふーん、何で?」
下から覗き込むようにすると、ディアッカはふてくされたように言った。
「乗りかかった船ってヤツ? お前らだけじゃ頼りないしな」
彼はそっぽを向いたが、目には強い光があるように見えた。
「乗り掛かった
「う、うるせーな! わかりやすくていいだろうが!」
ナナはその様子に笑いつつ、グレイスに向かって走り出した。
「じゃ、また“後で”ね!」
また後で……会うことが出来ると信じて。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
戦況は、前日同様、苛烈を極めた。
連合の新型MSレイダー、フォビドゥン、カラミティも姿を現し、フリーダムとグレイスに向かって突っ込んで来る。
≪ナナ……! 離れないで戦おう、あの3機は接近させた方が扱いやすい!≫
「了解!」
フリーダムとグレイスは、連携攻撃を仕掛けて来ない……というより、味方同士で邪魔をし合う3機を、狭い範囲で戦わせる策をとった。
が、敵の勢いと火力に前日を再現するかのように押し込まれる。
だが、空から援護射撃があった。
≪キラ! ナナ!≫
上空に現れたのは、アスランの機体、ジャスティスだった。
「ア、 アスラン……?」
彼はスピーカー越しに、低い声で言った。
≪オレたちだってわかっているんだ……!!≫
巧みに敵の攻撃をかわしながら、強い言葉を……。
≪戦ってでも、護らなきゃいけないものがあることくらい!!≫
「アスラン……!」
≪蹴散らすぞっ!!≫
その言葉に、背を合わせていたグレイス、フリーダム、ジャスティスは、散開してそれぞれ目の前の敵に向かった。
連携攻撃がとれるこちらの方が、徐々に優位に立ち始めた。
ナナは必死でグレイスの操縦桿を操った。
次の動作を考えている暇など与えられない、一瞬でも止まれば高エネルギー砲に機体を撃ち抜かれる、極限の状況だった。
やがて、コックピットに鳴ったアラートで、グレイスのパワー残量が無くなっていることに気付く。
≪ナナは補給に戻って!≫
≪援護する、行け!≫
気付いたキラとアスランから通信が入った。
と同時に、敵の3機も母艦へと撤退する。
彼らもまた、エネルギーの補給を必要としていた。
ひとまず、彼らとの戦闘は休戦という形になった。
気付けば、ナナは喉が痛むほど、呼吸を荒くしていた。
≪ナナ、大丈夫?≫
「う、うん」
キラからの通信を受けた直後、カガリから連絡が入る。
テキストデータで来たそれは、『離脱命令』だった。