戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

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未来の種

 ナナがバギーで軍港に出ると、キラとディアッカ、そしてアスランが、彼らの機体の前に集まっていた。

 グレイスもそこに立っている。

 ナナはバギーから降り、彼らの元に駆け寄った。

 

「で、どうするの?」

 

 そして、唐突にそう言った。

 そんなナナには慣れてきたのか、ディアッカがすぐに答える。

 

「そりゃあ、このままカーペンタリアに戻っても良いんだろうけどさ。今オーブと敵対してんのは地球軍なんだし」

 

 彼と、キラ、ナナの視線はアスランを向いた。

 

「『ザフトのアスラン・ザラ』……か……」

 

 答えを待つ中、アスランは呟いた。

 

「“彼女”にも……そしてお前にもわかってたんだな……」

 

 自嘲気味に言って、ナナを向く。

 “彼女”が誰なのか、誰にもわからないままに。

 

「国や軍の命令に従って敵を撃つ……オレはそれでいいんだと思っていた……」

 

 仕方ないと思った……と。それでこんな戦争が一日でも早く終わるなら……と思って戦ったのだと、アスランは言った。

 ひどく、悲しげに。

 そして。

 

「でも、オレたちは本当は……」

 

 キラを向いて強く問う。

 

「何とどう戦わなくちゃいけなかったんだ……?!」

 

 少しの沈黙の後、キラは笑った。

 

「一緒に行こう、アスラン」

 

 彼に道を指し示して。

 

「え……」

 

 アスランとディアッカが彼を向く。

 当然、少しの驚きがあった。

 キラは二人を交互に見て言った。

 

「みんなで一緒に探せばいいよ……それもさ」

「キラ……」

 

 そして彼は、ナナをまっすぐに見つめた。

 

「ナナ、手を出して」

「え……?」

 

 言われるがまま、ナナはそろりと右手を出す。

 自分の手を見て改めて、そこに負った怪我のことを思い出した。

 地球に降りる時の酷い火傷。

 未だに痕も、痛みも残っている。

 そして、アスランに手当てされたという記憶も。

 

「…………」

 

 その記憶を包み込むように、キラが優しく手を握った。

 

「キラ……?」

 

 キラは大人びた笑みを浮かべていた。

 

「今まで一人ぼっちで探させていたけど……これからはみんなで探そう、ナナ」

「キラ……」

 

 また、心に安らぎの風が吹いた。

 と、

 

「ディアッカ……?」

 

 その手の上に、ディアッカの手も乗る。

 

「オレも付き合うぜ」

 

 彼は飄々とした顔で、片目を瞑ってみせる。

 そして、

 

「オレも……だ」

 

 アスランもまた、手を乗せた。

 

「これから探せばいいことすら、今わかった」

 

 彼の瞳に、強い光が浮かんでいた。

 

「アスラン……」

 

 ナナは最後に、左手を一番上に乗せ、力強く言った。

 

「行こう……みんなで一緒に……!」

 

 潮風が、手を取り合った彼らの間を緩く吹き抜けていった。

 だが、心地よさに浸っている間はなかった。

 いよいよカグヤの軍港に敵襲を知らせるアラートが鳴り響いたのである。

 

「恐らく空中戦になる。バスターはアークエンジェルへ……!」

「ちっ……わかったよ」

 

 アスランが言うと、ディアッカはしぶしぶうなずいた。

 

「グレイスも行って。大丈夫。アークエンジェルとクサナギの発進を援護するだけだから、僕とアスランでやるよ」

「でも……」

 

 ナナも渋った。

 が、キラとアスランの視線を交互に受け止め、うなずいた。

 

「わかった……。じゃあ、宇宙(うえ)でね……!」

 

 四人は目を合わせ、意志を確かめ合うと、それぞれの機体に乗り込んだ。

 

 ナナはグレイスのコックピットに座り、ヘルメットのシールドを降ろす。

 そしてモニターを眺めた。

 そこに映る、美しいオーブの海。

 もうすぐにでも、ここは戦渦に飲まれることとなる。

 が、感傷に浸っている暇などなかった。

 グレイスのセンサーも、敵MSの接近を感知している。

 数は3。あの新型だった。

 

≪アークエンジェル、発進します。キラくん! ナナ!≫

≪フリーダムとジャスティスで発進を援護します。アークエンジェルは行ってください!≫

「グレイスとバスターの収容準備お願いします」

≪わかったわ!≫

 

 アークエンジェルは発進シークエンスに入った。

 港のドックからゆっくりと浮かぶ艦。

 その向こう側に構えるマスドライバーからは、カガリらオーブの脱出部隊を乗せた『クサナギ』が発進する予定だった。

 

「クサナギは!?」

 

 ナナはオーブ国防本部に問う。

 

≪すぐに発進させる!≫

 

 答えたのはウズミだった。

 

≪頼んだぞ、ナナ!≫

 

「はい……!」

 

 これが、ナナが聞いた“父”の最後の声となった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 バスターとグレイスの収容と同時に、アークエンジェルは前方の空に向けてローエングリンを発射した。

 ブースターを全開にし、一気に上昇する。

 艦内は強烈なGがかかった。

 やれやれ慌ただしい船出だ……と独りボヤきながら、ディアッカはバスターのコックピットを出た。

 と、ナナがグレイスから降りるなりどこかへ行こうとしているのが目に入った。

 

「お、おい……!!」

 

 ディアッカは思わず後を追う。

 整備班らが待機室でシートについているなか、ナナは走っていた。

 さながら、艦の後方へと落ちて行くような感覚だ。

 時折、整備班がしまい忘れた器具が二人を追い越して行く。

 

「ナナ! 危ねぇって……!!」

 

 ナナはコンテナやらタラップにぶつかりながら、後部デッキまで一息に駆け抜けた。

 そして、艦後方を見渡す。

 ディアッカはナナに並んで下を見た。

 どんどん遠のく地上。

 薄い雲に、視界も遮られていく。

 かろうじてマスドライバーからクサナギが飛び立ったのがわかった。

 フリーダムとジャスティスの動きは、とても小さくて見えなかった。

 

「アイツらなら大丈夫さ……ちゃんとクサナギに……」

 

 ディアッカがナナを安心させようと、そう言った時だった。

 クサナギのさらに向こう、彼らが先ほどまで居たカグヤの地が、突然閃光を放ち、爆発した。

 

「なっ…………」

 

 此処からでも、それと分かる炎と煙。

 敵の攻撃による破壊などではない。

 もっと一瞬で、もっと簡潔な……。

 

「カグヤが……自爆……?!」

 

 呟いた瞬間にハッとしてナナを見た。

 その横顔に、驚愕や絶望は浮かんでいなかった。

 

「お前……知ってたのか……?」

 

 悲愴感すらない、が、蒼白の頬を見つめて問う。

 と、ナナはゆっくりと彼を見た。

 

「私たちは……託された……」

 

 そして、傷ついた笑みを浮かべた。

 

「え……?」

「オーブの理念……ウズミ様の想いは、()()()が継ぐ……」

 

 ガラスについたナナの手が、少しだけ震えていた。

 

「ディアッカ……あなたも……」

「オレ……も……?」

 

 ディアッカは、彼女の言葉に捕らわれる。

 

「ザフトに戻る道もあったのに、私たちと一緒に来てくれたあなただから……」

「ナナ……」

「だからこそ……本当は気付いているんでしょう……?」

 

 脆く、儚く、それでも強い何かを突きつけられて、立ち尽くす。

 

「何が大切なのか……って」

 

 その笑みを護る術も、壊す術も知らないもどかしさ。

 

「それを見つけたあなたの存在は、私たちが託された未来にとって大きいと思うの」

 

 そして、その言葉の意味も染み込みきらない緩やかさ。

 

「あなただからこそ……」

 

 目の前のナナが、突然揺らいだ。

 

「ナナ……」

 

 とっさに彼は、手を伸ばす。

 捕まえなければ、消えてしまいそうだった。

 

「お、おい……!」

 

 ひどく不安定な陽炎のよう……そう感じて強く引く。

 と、艦にミリアリアの声が響いた。

 

≪アークエンジェル、大気圏を突破して安定軌道に入りました≫

 

 気づけば、自分の体も重力を失った空間の中で浮いていた。

 

≪フリーダム、ジャスティスのクサナギへの着艦を確認! クサナギとのランデブーに入ります≫

 

 同じアナウンスが2度流された。

 

「ア、 アイツらも無事だったみたいだな……」

 

 ようやく、ディアッカは胸をなで下ろす。

 

「ドックに戻ろう、ディアッカ」

「あ、ああ……」

 

 そして、まだナナの腕をつかんでいたことに気付いて、慌てて手を放した。

 

「私、クサナギに行かなくちゃ。あのコ、きっとまた泣いてるから」

 

 ナナは少し笑って、慣れた動作で身体の向きを変えた。

 そして壁に手をつきながら、もう一度振り返ってガラスの向こうを見やった。

 地球が青く美しく彼らを見送っていた。

 

「ナナ……」

 

 隣に並ぶと、ナナはディアッカの腕を掴んでうつむいた。

 

「ナナ……?」

「ごめん……」

 

 掠れた弱い声だった。

 

「これで……最後だから……」

 

 それはほんのわずかな時間……。

 次に顔を上げれば、彼女は笑顔だった。

 

「私がしっかりしなくちゃね……!」

 

 いつもどおりの口調だった。

 

「……お前……」

 

 涙などは滲んでいなかった。

 ただ、少しだけ眉の間に辛そうな皺が浮かんでいただけ。

 

「お前がどんだけ孤独だったかなんて知らないけど……」

 

 だから、ディアッカは急に落ち着いた気分で言った。

 

「キラが言ってたろ。もう独りじゃないんだぜ?」

 

 ナナは少しだけ驚いたような顔をした。

 今更照れくさくなって、ディアッカは目を逸らす。

 

「うん……わかってる」

 

 明るい声にもう一度振り向くと、ナナは無邪気な笑顔で言った。

 

「ありがと……」

 

 

 

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