戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

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第6章 歌姫出撃編
導き


 キラとアスランがクサナギのドックでひと息つくと、アークエンジェルから、ナナ、マリュー、フラガが小型シャトルでやってきた。

 あまり言葉を交わさぬまま、ナナと三人でカガリの部屋を訪れる。

 

「カガリ……入るよ」

 

 カガリは声をあげて泣いていた。

 

「ナナ……」

 

 ナナを見るなりしがみ付く。

 

「ナナ……!!」

「カガリ……」

 

 ほんの少し優しく頭を撫でた後、ナナはカガリの身体を引き離した。

 

「ナナ……?」

 

 カガリの涙が、いくつもの宝石のように宙に浮かぶ。

 

「しっかりしなさい、カガリ」

 

 ナナはそれを無視して言った。

 

「今は、悲しんでいる暇はないでしょう?」

「で、でも……」

「もう泣かないの!」

 

 カガリはビクンと肩を震わせた。

 その両肩を掴んで、ナナは強く言う。

 

「この艦のみんなはあなたに命を委ねてるの。いつまでもそんな顔をしてちゃダメ」

「わ、私は……」

 

 カガリは逃れるように顔をそむけた。

 が、ナナはそれを許さなかった。

 

「オーブの最高責任者はあなたなんだから」

 

 カガリは懸命に涙を止め、言い返す。

 

「でも、ナナが……!」

 

 しかし、ナナはそれをも遮った。

 

「ウズミ・ナラ・アスハの娘はあなたでしょう? 私じゃない」

「ナナ……」

「ウズミ様の意志を継ぐのは()()()でも、ウズミ様の代わりにオーブを導くのはあなたしかいないんだから……!」

 

 突き放され、言葉を失ったカガリから、ナナは手を離した。

 

「涙を拭いたら、あなたもすぐにブリッジに来なさい。これからのことを話し合わなくちゃ」

「ナナ……」

 

 

 追いすがるカガリの手を放し、ナナは振り返りもせずに部屋を出る。

 キラとアスランは、黙ってそれを見ていた。

 あまりに冷たい光景だった。

 が、ナナがすれ違いざまキラに囁いた。

 

「キラ、ごめん……あと、お願い……」

 

 ナナの顔はよく見えなかった。

 が、遠ざかる背は細く弱く、カガリに対して厳しい言葉をぶつけたのとは別人のようだった。

 キラは、同じくそれを黙って見送っていたアスランと目を合わす。

 その瞬間だけで、二人は意思を交わす。

 そしてキラはカガリのもとへ、アスランはナナを追って行った。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 アスランがクサナギのブリッジに入ると、ナナはすでにキサカ、マリュー、フラガと今後についての話をしていた。

 彼は壁に身を寄せ、それを見守る。

 

「では、そちらの指揮はキサカ一佐が?」

「クサナギの艦長として陣頭指揮は私が取る。が、最高指揮官は私ではない」

 

 キサカの言葉に、マリューとフラガは、エリカ・シモンズと話していたナナを見た。

 

「んじゃ、やっぱナナってことになるのか?」

 

 フラガが言うと、ブリッジに居たオーブ軍の人間が口々に賛同する。

 

「ナナ様が指揮してくだされば心強い!」

「我らオーブ軍もそう簡単に潰されんだろう……!」

 

 が、ナナは場違いに明るく言う。

 

「ちょっと待ってよみんな。そんなワケないじゃない!」

 

 彼らの期待を、ナナは笑い飛ばした。

 

「私はもうウズミ様の“娘”じゃない。だから、アスハ家の人間でもなければ、軍の指揮権も無い」

「しかし……」

「だがナナ様は……」

 

 ナナはマリューを見上げる。

 

「今の私は、あくまで『アークエンジェル所属のMSパイロット』なんだから」

 

 そして、今度はオーブの者たちを見回して、あっさりとした口調で言った。

 

「オーブの最高指揮官はちゃんと居るでしょ? ウズミ・ナラ・アスハの正真正銘の愛娘が」

 

 あっさりとはしていたが、有無を言わさぬような威圧的な響があった。

 

「ウズミ様はカガリに意志を継がせたんだから……みんなも信じて」

 

 ナナは強く念を押すように言い、オーブの者たちは素直に頷いた。

 そしてナナは、空気を変えるように話題を移す。

 

「とにかく、これからどこへ向かうか決めないと」

「そうだな」

 

 キサカがナナの意図を汲み取ったかのように、それを受けた。

 

「我々はまず、L4を目指そうと思う」

「L4のコロニー群へ?」

「クサナギもアークエンジェルも現状は物資に不安はないが、無限というわけではない」

「特に水は、すぐに問題になるでしょうね」

 

 エリカ・シモンズが、モニターに宙域図を出した。

 L4のコロニー群は次々と廃棄されて、今では無人だった。

が、水場としては現在でも十分に使える……というのがキサカの見解だった。

 

 ちょうどその時、キラがカガリを連れてブリッジに入った。

 カガリは表情を硬くしたままだったが、モニターの方へと進み出る。

 ナナがほんの一瞬、辛そうな視線でカガリを見やった。

 それを見て、

 

「L4にはいくつかまだ稼働しているコロニーがある」

 

 アスランは口を開いた。

 みな、彼を振り返る。

 

「不審な一団がそこを根城にしているという情報が入ったので、ザフトが以前に調査したことがある」

 

 彼は淡々とそう明かした。

 

「じゃあ、人は住んでないけど、設備が動いてるコロニーがあるってこと?」

 

 ナナの問いに、彼はうなずく。

 ナナはすでに、いつもの飄々とした様子に戻っていた。

 

「じゃあ、決まりですね」

 

 肯定したアスランを見て、キラが安堵したように言った。

 カガリも少し、表情を崩して頷いた。

 ナナがまた、それを横目でうかがっていた。

 

「しかし……」

 

 アスランもまた、内心で安堵した時、フラガが彼を向いた。

 

「君らは本当にいいのか?」

 

 フラガはアスランとディアッカ……二人の“ザフト兵”の意思を確かめた。

 彼は、オ-ブでの戦闘は目の当たりにしている。着ている軍服にこだわる気はない……としつつもこう問う。

 

「状況次第では、オレたちはザフトと戦闘になることがあるかもしれないんだぜ?」

 

 そう、オーブの時とは違うのだ。

 つい最近まで所属していたモノと戦わなければならない状況がきっとやって来る。

 

「そこまでの覚悟はあるのか?」

 

 アスランはうつむいた。

 

「君はパトリック・ザラの息子なんだろう?」

 

 最初にフラガの言葉に反論したのはカガリだった。

 

「誰の子だって関係ないだろ? アスランは……」

「軍人が自軍を抜けるってことは、君が思ってるより簡単なことじゃないんだ。ましてやの軍のトップが自分の父親っていう事情じゃ……」

 

 が、言葉を遮られ、カガリは押し黙る。

 

「自分の大義を信じてなきゃ、戦争なんてできないんだ……!」

 

 フラガはそれでも強く言った。

 

「それがひっくり返るんだぞ。そう簡単なことじゃない……!」

 

 アスランはキラとは違う。

 ザフトの正規の軍人だった。

 だからこそ、“簡単”にはいかないことを、地球軍の正規の軍人だった者たちは知っている。

 

「一緒に戦うんなら当てにしたい」

 

 アスランは突き刺すようなフラガの視線を受け止める。

 彼の声には必死さすら滲んでいた。

 

「君の意思はどうなんだ……?!」

 

 見守る者たちもまた、アスランの答えに吐息を詰めていた。

 そんな中、キラとナナだけは静かにたたずんでいた。

 二人の、いつもと変わらない視線を、何故だか強く感じながら、アスランは口を開いた。

 

「オーブでも……」

 

 彼は自分の心を確かめるよう、それを余すところなく伝えられるよう、ゆっくりと話しだす。

 

「プラントでも地球でも、色々なことを見て、聞いて……。それで、たくさん感じて、思って、考えました……」

 

 伝えきれるとは思わないが、せめて少しでも……と祈りをこめて。

 

「何が間違っているのか何が正しいのか……何がわかったのかわからないのか……今のオレはまだよくわかってはいません……」

 

 もどかしさからも、逃げてはいけないと学んだから。

 

「ただ、自分が願っている世界は、あなたがたと同じだと……それだけははっきりと感じています」

 

 せめてきっぱりと言い切れることをまっすぐに告げる。

 何度も失敗してきたそのことに挑戦すると、

 

(……ナナ……)

 

 ナナが泣きそうな顔で笑っていた。

 

「しっかりしてるねぇ……君は。キラとは大違いだな!」

 

 フラガも笑って、軽口を叩く。

 

「昔からね……」

 

 キラはアスランを振り返り、そう答えた。

 アスランも少し笑えた。

 その時ようやくナナが口を開いた。

 

「私たちがオーブから託されたものは大きい……」

 

 ゆっくりと移動して、カガリの肩に手を置く。

 

「こんな、たったの2隻で成し遂げることは、はっきり言って不可能に近いことだけど……」

 

 カガリはナナを見つめ、ナナもしっかりと見つめ返した。

 

「それでも、いいんだよね?」

 

 ナナの問いに、自然と皆がうなずいた。

 そしてキラは言った。

 

「信じよう……小さくても、強い火は消えないんでしょう?」

 

 この火は、決して簡単には消されない。

 アスランも強くうなずいた。

 

 

 

 

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