瓦礫が漂う宇宙空間の中、ナナは再びモニターに拳を打ちつけた。機体が受けた衝撃でまだ身体が不安定だったが、それでも力いっぱいその光景を殴った。
(護れなかったっ……)
ヘリオポリスは目の前でゆっくりと壊れていった。
住民が避難した救命ボートは安全な場所へ向けて発射されたはずだった。この騒動に巻き込まれる前に別れた“人物”の安否が気になった。
(無事だよね……? ちゃんとシェルターに避難したよね……?)
“彼女”は人の多いところにいたはずだ。だったらヘリオポリスに異変が生じた瞬間に、警戒アラートを聞いて周囲の者たちと避難しているはずである。警戒レベルは最大になっていたから、避難しているのはシェルターだ。ヘリオポリスのシェルターは全てが救命ボートとしてコロニーから脱出できるようになっている。文字通り崩壊したのだから、救命ボートは自動的に発射されているに違いない……。
己に言い聞かせるようにして、ナナはゴクリと唾を飲み込む。
すぐに探しに行きたかった。だが、今は……。
≪グレイス……グレイス……聞こえていたら応答しろ!!≫
無線から聞こえるナタルの声。
「……こちらグレイス……無事です」
まだ息が苦しかったが、それを隠してできるだけ冷静に答える。
≪アークエンジェルの位置はわかるか?≫
サブモニターを確認し、ナナは頷いた。アークエンジェルとストライクの信号を目にして安堵する。彼らは無事だった。コロニーの崩壊に巻き込まれることも、ザフトに撃たれることもなかった。
「はい、すぐに帰投します」
ヘリオポリスの残骸を避けながら、ナナはアークエンジェルに向かった。アークエンジェルとの回線が切れてすぐ、無事を確認するキラの必死の声が聞こえた。
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「ナナ……ほんと……大丈夫……?!」
アークエンジェルのドックにグレイスを収めてコックピットから出ると、キラが心配そうに近づいてきた。出撃前には、あんなに突き放すような態度をとったのに……。
「大丈夫だよ。キラは?」
ナナは初めて笑って見せた。
「僕も……大丈夫……」
キラも笑った。が、それが無理矢理の笑みであることはすぐにわかった。
ストライクは……おそらく無線の設定を近域周波設定にしていたのだろう。
ストライクからグレイスに漏れ聞こえたキラの声。イージスのパイロットを、『アスラン』と……そう呼んでいた。そしてイージスのパイロットも彼の名を……。
ナナは何も言わなかった。会話を聞いてしまったことも黙っていた。キラが話してくれるまでそうしようと思った。
正直、彼の心中を図りきれなかったから、言うべき言葉がみつからなかった。不本意に巻き込まれた戦争。しかも同じコーディネータを“敵”にしなければならないという状況の中。その“敵”の姿で現れたのが知り合い……友人だとしたら……。
それでもキラは自分を案じてくれた。なんだか悔しかった。何に対して「悔しい」のかはわからない。それもまたもどかしく、ナナは思わずうつむいた。
「ナナ……?」
「トリィ!」
その時、キラの肩から何かが飛び立ち、旋回してナナの肩に止まった。
「え? 鳥?」
「トリィ? ……珍しいな。トリィが誰かの肩に止まるなんて……」
それは鳥の形をしたロボットだった。
「これ、キラがつくったの?」
そっと指を出すと、本物の小鳥のようにそこに止まる。鼻先に持ってくると、トリィは首をかしげてまた鳴いた。
「と、友達が……くれたんだ……」
苦しげに、キラは答えた。今度は彼がうつむいていた。ナナの直観力が、それが『アスラン』だと囁いた。
「そっか……カワイイね」
気づかぬフリをしてそう言った。そしてさりげなく話題を逸らす。
「あの救命ボート、キラが見つけたんだって?」
「あ……う、うん。推進部が壊れてて、漂流してたんだ……」
眼下では、キラが帰艦途中に救出したというヘリオポリスの救命ボートから、避難民が次々と降り始めていた。
「よく艦に運ぶ許可が下りたね」
「初めはバジルール少尉に反対されたんだけど……艦長が……」
「そっか……」
まさかアレに“別れた人物”が乗っていやしないかという期待が膨らんだが、気取られぬように目を逸らす。
「ザフト艦はこっちをロストしたのかな……」
「この艦は警戒態勢を解いてるみたいだから……たぶん」
「でもきっと……」
「でもきっと、こちらの動きを探っているはず」ナナがそう言おうとしたとき、指先からトリィが何かを見つけたように突然飛び立った。
救命ポッドから引っ張り出されたひとりの美しい少女が、それに気づいた。
「あ! あなた! サイの友達だったわよね……?!」
「フレイ?!」
驚くキラに、フレイと呼ばれた少女は涙を浮かべて抱きついた。
2023/7/12 改訂