アークエンジェルに戻って来たナナは、すぐにキラとアスランとともにブリッジに上がってしまった。
報告やこれからの相談があるのはわかっている。
が、ディアッカとしては早く文句を言ってやりたかった。
自分の機体を他人に預けるなんてどういうつもりなのか……と。
グレイスの整備が面倒なわけじゃない。
どちらかというと、そこまで信用されているのがうれしい。
いろいろと背負い込んでいるナナを手伝えることもうれしい……。
が、そのうれしさは気恥ずかしさも伴っていて……、そこには気づかないふりをしていたかったのだ。
だから。
「お前なー……!」
ドックに現れたナナを、ディアッカはふくれっ面で出迎えた。
「ごめんごめん。で、調整はやっといてくれた?」
「何でもかんでもオレにやらせんじゃねーよ!」
「しょうがないでしょ? 私だってあっちでサボってたわけじゃないんだからー」
「だからって、自分の機体を他人に調整させるってどういうつもりだよ……」
「いいじゃない。バスターとグレイスは姉弟機なんだから」
「だからって……」
「ていうか、バスター盗んだんだからそのくらいやってよ」
「ぬ、盗んだって……」
ナナがいつもの調子で軽口を叩くのに
その時。
≪左舷デッキへ、シャトルB-27機の発進をスタンバイしてください。30分後に出発します≫
ドックにブリッジからの連絡が入った。
「シャトル? また向こうに行くのか?」
何気なくたずねたつもりだった。
だが、ナナは答えずに呟いた。
「あ、そういえば言うの忘れてた……」
「は? 何を?」
答えは得られなかった。
ナナは笑みでこちらを制し、グレイスのコックピットに入って通信ボタンを押す。
「ミリアリア、カガリには知らせた?」
≪いいえ、まだよ。これからクサナギに連絡を入れるところ≫
「よかった。じゃあ悪いんだけど、あと10分してから知らせてくれる?」
≪え、ええ。わかったわ≫
通信を着ると、ナナはディアッカに向き合う。
そして、
「ディアッカ、ちょっと付き合って」
そう言うなり腕を引っ張った。
「はぁ? ……っておい、な、なんだよ……!」
されるがまま、ついて行く。
「ナナ、いったい何なんだ?」
やがて左舷デッキへの扉を開くと、ナナは言った。
「アスランが、プラントに戻って、お父さんと話をするんだって」
「はぁっ!?」
声が裏返った。
「ど、どういうことだよ?!」
ナナは淡々と、用意された一人乗りシャトルのチェックを始める。
「意外、こんな小型シャトルも積んでたんだ……。パワーはフルにしてあるの? マードックさん」
「おいって!」
ナナはマードックと会話しながら、さらりと言う。
「アスラン自身、このままじゃダメだっ……て、そう思ったんじゃない?」
「でも!」
が、今度は逆にディアッカがナナの腕を引っ張った。
「今更プラントに……ていうか、ザラ議長の前になんか戻ったら、アイツ……!」
「それもちゃんとわかってるよ……アスランは」
全て言いきる前に、ナナは口元に笑みを浮かべつつ、目もとを細めた。
その表情を見て、ディアッカは思わず黙った。
「アスランの“覚悟”に、何か言えるわけないでしょう?」
ナナがアスランを案じる気持ちが、まるで痛みのように伝わった。
「……そうか……」
だから、そう言うしかなかった。
せめて、頼まれもしないシャトルのチェックを半分受け持つくらいしかできなかった。
少しして、アスランとキラが現れた。
シャトルに乗り込もうとして、アスランはディアッカに言った。
「オレが戻らなかったら、君がジャスティスを使ってくれ」
そう言いながら、ディアッカのすぐ隣りに居るナナを見ようとしていない。
そのことに気づいたから、ディアッカは撥ねつけるように答えた。
「嫌だね。あんなもん乗れるか。お前が乗れよ……!」
ナナもまた、アスランの方を見ていなかった。
強烈な違和感が湧き上がり、おせっかいを承知で口を出しかけた。
その時。
「ちょっと待て、アスラン! お前……!!」
知らせを聞いてクサナギから駆け付けたのだろう。
カガリが血相を変えてやって来た。
「プラントに戻るなんて、何考えてんだよ……!」
カガリがアスランの肩をつかむ。
勢いで、二人の身体は宙を流れた。
「あの機体は? 置いて行くつもりなのか?」
カガリはそのままの体勢で、奥に佇むジャスティスを見やった。
「ジャスティスはここに在った方がいい」
「そ、そんなことしたらお前……!」
「大丈夫だ。どうにもならない時は、キラとナナがちゃんとしてくれる」
「そういうことじゃない!」
ディアッカは、ナナの横顔を見やった。
すぐに取り乱したカガリを窘めるかと思っていたナナは、黙って二人のやり取りを見守っていた。
「でも……オレは行かなくちゃならない……」
だから、アスランの言葉にナナがそっと拳を握りしめたのも見逃さなかった。
「このままじゃ……駄目なんだ……」
そんなナナを、向こうからキラも見ていた。
一瞬、キラと目が合った。
彼は二人の元へ向かった。
「カガリ……わかってあげて?」
そしてナナの代わりに、キラがカガリを宥めた。
カガリがうつむいて大人しくなるまで、ついにナナは一言も発さなかった。
ようやくアスランとナナが言葉を交わしたのは、アスランがシャトルのシートに座り、ベルトを締めた時だった。
「じゃあ……」
アスランはディアッカとカガリ、最後にナナを見た。
そして言った。
「ちゃんと、話して来る……」
『必ず戻る』とは言わなかった。
「うん」
ナナも、『必ず戻れ』どころか、『気をつけろ』とすら言わなかった。
ただそれだけの言葉を交わし、アスランを見送った。