戦慄の宇宙(そら)の果て   作:亜空@UZUHA

67 / 80
知らない敵

 ジャスティスはそのままグレイスを抱えてアークエンジェルに着艦した。

 ドックに着くなり、アスランは自機を飛び出してグレイスに向かう。

 無理やりグレイスのコックピットを開けると、中でナナはぐったりとしていた。

 

「ナナ……!」

 

 アスランはナナのシートベルトをはずし、ヘルメットを脱がせた。

 

「ごめ……まだ……息が……」

 

 機体が受けた圧のせいで、ナナは苦しそうだった。

 アスランはそのままナナを引っ張り出し、パイロットスーツのチャックを下げて楽に息が出来るように抱える。

 

「ほら、水!」

 

 マードックもタラップを引いて駆けつけた。

 

「あ……ありがと……」

 

 ナナは顔を歪めながらも笑ってみせ、水を一口飲んだ。

 

「どこか怪我は!?」

 

 あれだけの力で機体を飛ばされれば、身体に受ける衝撃は普通ではないはずだった。

 

「大丈夫大丈夫、最後はちょっとバテちゃった」

 

 が、ナナは笑ってまた水を飲んだ。

 その額には汗がじわりと浮いている。

 

「一度、医務室で休んだ方がいい」

 

 触れた肩は細く揺れ、肌に血の気はない。

 だが、

 

「大丈夫だってば。宇宙級のフリーホールに乗っちゃったみたいなもんだから」

 

 ナナは軽く受け流し、

 

「それより、ディアッカとムウさんがコロニーに入ったって聞こえたけど……」

 

 すぐに話題を変える。

 

「あ、ああ……。『ザフトがいる』と言い残して行ったらしい」

「ザフトが……?」

 

 ナナは眉をよせた。

 自分の体調のことなど、もう頭にないのがわかった。

 仕方なくアスランは説明する。

 おそらく、ナナの意識が朦朧としていたであろう時間にあったことを。

 

「ラミアス艦長はそれが『クルーゼ隊』だと予測している」

「クルーゼ隊って……」

「キラが単機で援護に向かった」

 

 アスランとディアッカがその『クルーゼ隊』の一員であったことを、当然、ナナは知っているはずだった。

 が、ナナは何も言わなかった。

 アスランに対しても、そこへ向かったディアッカに対しても。

 

「アスランは予定通り、今のうちにジャスティスをエターナルに移して」

 

 そしてそう言いながら立ち上がる。

 無重力空間でも、フラついていることが見て取れた。

 

「オレも内部に行く。本当にクルーゼ隊長なら危険だ……!」

 

 その腕をとって、アスランは言った。

 が、

 

「だめだよ」

 

 ナナは小さく笑いながら、その手を抑える。

 

「地球軍がまたいつ攻めて来るかもわからないし……今のうちに陣営を整えておかなきゃ」

「しかし……」

 

 逆に、ナナがアスランの腕を掴んだ。

 

「私たちは、ここで撃たれるわけにはいかないでしょう?」

 

 厳しい声で、

 

「たとえキラたちが戻らなくても、私たちはここで戦わなくちゃ」

 

 泣きそうな顔で、そう言った。

 その目に、今までのナナの生き方が、ふとわかった気がした。

 

「……わかった」

 

 だから、せめてその痛みを広げないために、アスランはそれ以上何も言わずに頷いた。

 

「お前、本当に身体は大丈夫なんだな?」

 

 最後にそれだけを念押しして。

 

「うん」

 

 陰りを押し殺した笑みを確認し、アスランはジャスティスへ戻った。

 

 

 

 

「こちらジャスティス、エターナルへ移動する」

 

 ブリッジに連絡を入れ、モニターにグレイスを移すと、ナナはすでにマードックらと整備に取り掛かっていた。

 その青白い横顔を少しだけ拡大してから、アスランはアークエンジェルを出た。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 それから30分以上が経過した。

 キラたちはまだ戻らない。

 そればかりが、港の反対側へ偵察に出ていたアサギが悪いニュースを持って来る。

 向こう側には、ザストのナスカ級が三隻、停泊している……と。

 

「ナナ、少しいいか?」

 

 グレイスの修理を整備班に任せ、港で艦の動力システム修復を手伝っていたナナに、アスランは声をかけた。

 

「少し、話がある」

 

 ナナは手を止めて振り向いた。

 ヘルメット越しでも、その顔色がまだすぐれないことがわかった。

 

「やっぱり、少し休んでいたほうがいいんじゃないのか?」

「もう大丈夫だってば」

「だが顔色が……」

「色白なのは生まれつきなの」

「しかし……」

「それより、キラたちを探しに行くのは却下だからね。ラクスにもそう言われたでしょう?」

 

 アスランはため息をついた。

 ナナという人間は、無理やり引っ張って行ってベッドに縛り付けておかない限り、休むということができないらしい。

 というより、自分の身体への心配は受け付けない性質のようだ。

 

「その話じゃない」

 

 そのことを指摘しても、今はただ時間を無題にするだけだ。

 それほど、ナナの砦は固い。

 アスランは当面のところは観念して、次の話題を持ちかけることにした。

 

「今、アークエンジェルが送ってくれた、さっきの戦闘データを分析していたんだが……」

「あの三機のパイロットのこと?」

 

 ナナはそれを先回りしていた。

 アスランがうなずくと、ナナは作業を他の者に任せ、アスランを港の隅まで引っ張った。

 コンテナの影で、アスランは話の内容を明かす。

 

「あの三機の戦い方は、とても正規軍とは思えない。新型機の性能を考慮しても、あの動きは……」

「ナチュラルとは思えないんでしょう?」

 

 ナナは再び彼の言葉を遮った。

 視線が鋭くなったのがわかった。

 

「ああ……キラもそう言っていた」

 

 ナナは辺りを見回した、そして誰も居ないことを確認すると、フッと笑った。

 

「私もそう思う」

 

 それは明らかに“自嘲”だった。

 

「あの三機のパイロットは、普通のナチュラルじゃない……」

 

 ナナはそのままわずかに目を伏せた。

 

「私は……長くMSに乗ってきたし、開発も目の当たりにしてきた。それに、何万パターンもの“敵MS”との戦闘もシミュレートしてきた」

 

 そして、あっさりと己の本質を晒した。

 

「だから、わかる」

 

 戸惑いと、覚悟を混ぜたようなナナの瞳を、アスランは受け止める。

 

「あの動きは()()()()

 

 その戸惑いを打ち砕く術は見出せなかった。

 が、とにかくこの話をしたことで、ナナ独りにそれを抱え込ませるようなことにはならなかった。

 それに安堵し、再びアスランはため息をついた。

 

「“何”にせよ、また向かってくれば撃たなければならない」

 

 だから、先に『覚悟』を口にできた。

 

「うん」

 

 ナナは少し笑った。

 そのままナナの肩の荷が軽くなるよう、もう一つの懸念事項を口にする。

 

「それに、あの艦……ドミニオンの狙いは、フリーダムとジャスティスの鹵獲かもしれない……」

 

 はっきりとした分析はできていなかったが、たった一隻で攻めてきたことや、フリーダムへの攻撃の仕方を考えると自身の予感が正しい気がした。

 

「うん、そうだね……」

 

 ナナも深くうなずく。

 そして。

 

「私は“まだ”あの三機に敵わない……」

 

 少しうつむいて、

 

「でも、アスランとキラを失うわけにはいかないから、彼らを倒すために最大限の努力をする」

 

 ナナはそう決意を示した。

 

「あの人たちが“何”であっても……」

 

 アスランはナナの瞳の奥にある強い光を見た。

 未だ戻らない、キラたちを案じているはずだった。

 誰よりも、真っ先にそこへ向かいたいはずだった。

 それでも、今、“ここ”でこうして、自分のやるべきことを口にするナナは強い光だった。

 オーブで、ウズミが言ったことの本当の意味が、その瞳に浮かんでいる気がした。

 アスランは不意に、ナナの肩に手をかけた。

 言うべき言葉は思いつかなかった。

 が、それでも勝手に何かがこぼれ出ようとしたとき、再び港にアラートが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。