ナタルが指揮するアークエンジェル級ドミニオンが、再びメンデルへ向かって来た。
むろん、あの三機も出動している。
アークエンジェルからグレイスが、エターナルからはジャスティスが出撃し、これを迎え撃つ形となった。
「アサギたちM1隊は艦の護衛を!」
≪了解!≫
≪わかりました!≫
あの三機がまた向かって来る。
≪ナナ、大丈夫か?≫
キラはまだ戻らない。
何としてでも、ジャスティスと共に三機を止めねばならなかった。
「大丈夫。足手まといにはならないようにする」
モニターに映るアスランに向かってそう言い、操縦桿を握りしめた。
「ブリッジ、ザフトは?」
≪未だ動きはありません!≫
わずかに高揚したミリアリアの声が聞こえる。
港の向こうに潜むザフト軍ナスカ級は、まだ戦闘を開始してはいない。
が、彼らが『クルーゼ隊』というのなら、間違いなくこちらに向かって来るという予感が、ナナにはあった。
「アスラン、中で何が起きているのかわからないけど、もしクルーゼ隊とキラたちが遭遇しているのなら、ナスカ級がいつ動くかわからない」
≪ああ、わかっている……≫
良ければ地球軍とザフトとの交戦状態になり、こちらには余裕が生まれる。
この戦争は地球軍とザフトの戦いなのだから、そういう構図はあり得ることだった。
だが、それが『アークエンジェル級ドミニオン』と『ナスカ級ヴェサリウス』……いや、『アズラエル』と『クルーゼ』であるのなら、そんな単純なことにはならないと思っていた。
両者とも単なる勝利が目的でなく、アークエンジェル撃沈、もしくはフリーダムとジャスティスの鹵獲が本懐であると考えられる。
だからこの場合、両者からの挟み撃ちという最悪の構図が正解だろうと判断した。
(早いとこ、こっちを片づけたいところだけど……)
しかし、そう思ってはいても、簡単に現状を打開する力が、今のグレイスにはまだなかった。
「くっ……」
相変わらずめちゃくちゃな連携と、でたらめな動きで、三機は猛攻を仕掛けてくる。
それぞれの位置と攻撃が来る方向を感知するのがやっとだった。
待機中のわずかな時間にグレイスにインプットした敵MSの戦闘パターンも、さほど役には立たなかった。
前回の戦闘でダメージを受けた体も、グレイスのコックピット部も、応急処置をしての戦闘だった。
そこへ、フリーダムとバスターが現れる。
彼らが無事に戻った安堵より、ナナは先に気づいた。
ストライクの姿がない……。
「ムウさんは?!」
≪怪我をして……治療中なんだ……≫
キラが無理に感情を押し殺した声で答えた。
(怪我……?)
いったいコロニーメンデルの中で何が起きたのか……。
今のキラの声色にしても、尋常でない出来事が起こったことは確かだった。
が、今はこの戦闘に集中しなければならなかった。
数の上で有利になったとはいえ、とても攻勢とはいえない状況である。
さらにミリアリアから、沈黙を守っていたナスカ級が、ついに戦闘宙域に接近して来たという連絡が入る。
「やっぱり……ザフトもここへ……」
ナスカ級からもジンが発進するはずだ。
数はわからないが、M1が対応に当たったとしても、おそらく技術的には劣性に回る可能性が高い。
だが、どうしても目の前の三機を振り切れない。
≪まずいぞ、このままだと押し込まれる!≫
アスランでさえも、焦りを隠せない様子だった。
その時、
≪アークエンジェル!!≫
コックピットに、いや、この宙域に悲鳴のような声が響いた。
「え……?」
≪お願い! 助けて! アークエンジェル!≫
その声を知っていた。
ナナだけではない。皆知っているはずだった。
呼びかけられたアークエンジェルのクルーたちも、当然……キラも。
「フ、フレイ……?」
それは、アラスカで別れたはずのフレイ・アルスターの声だった。
それに気づくと同時に、一瞬フリーズ状態になった戦闘宙域が、再び動き始める。
三機のうちの一機、青い機体がその場を離れて行った。
その先にあったのは、ザフトの救命ポット。
「……あ、あれにフレイが……?!」
ナナの頭も混乱した。
フレイはアラスカで転属を命じられた。
その先がザフトであるはずもなく、ましてや捕虜になるような危険な場所に配属されたという記憶も無い。
「なんで、フレイが……!」
とっさに青いMSを追った。
フレイはアークエンジェルを呼んでいる。叫ぶように、悲鳴のように呼んでいる。
そして、
≪わ、私、“鍵”を持ってるの! 戦争を終わらせるための“鍵”を……!!≫
そう叫んでいた。
その意味はわからずとも、救わねば……そう思った。
彼女との再会が叶うのなら、言わなければならないことがある。
アラスカではきっと伝えきれなかったから、もう一度……。
が、後ろから黒いMSが放った鉄球が襲いかかる。
間一髪で回転して避けた時、その横をすり抜けるようにして、フリーダムが飛び去った。
「キラ……!」
フリーダムは早かった。
グレイスも、黒いMSも、そしてジャスティスも追い付けぬほどに。
が、その様子はどこか虚ろなのが、後ろから追っていてもわかった。
「キラ!」
呼びかけに応答はない。
嫌な予感がした。
≪ナナ、あのポットは一体何なんだ?! さっきの声は……!≫
同じく動揺したアスランが通信を入れて来る。
応えようとして言葉に詰まった。
『何』と問われても、未だキラにとってフレイがどういう存在だったのか、ナナにはわからなかった。
「アラスカで別れる前まで、アークエンジェルに乗っていた……キラたちの仲間なの……」
答えつつ、グレイスを加速させる。
幸いエネルギー残量はまだ30パーセント。
片手でシステムをいじりつつ、加速力を上げる。
だがそれでも、フリーダムには追いつけない。
「キラ、待って!」
フレイを乗せたポッドは、ゆらゆらとドミニオンの方へ漂っている。
それに迫るのは、青いMS。
フリーダムは必死でそれに追い縋ろうとしていた。
「待って、キラ!」
グレイスの加速とともに、嫌な予感も膨張する。
そして、フリーダムが答えぬまま、青のMSが反転して攻撃を仕掛けて来た。
「キラ!!」
あのキラが……。
回避行動もとれずにビームを浴びる。
メインカメラがある頭部が吹っ飛んだ。
「キラ!」
≪キラ!≫
ジャスティスとともに援護するが、二機の背後にもぴったりと地球軍のMSがついている。
グレイスも、左足にわずかにビームをくらった。
動きを止められた隙に、フレイを乗せたと思われるポットが青いMSに回収される。
同時に、アークエンジェルから帰還信号が上がった。
が、頭部を失ったフリーダムはなおも追い縋ろうとする。
黒と緑のMSが、ここぞとばかりにフリーダムに襲いかかるのは必至だった。
「キラ!」
寸でのところで、ジャスティスがフリーダムへの直撃をガードする。
だが、キラはそれすら気付かないかのように、ポッドを追う。
ドミニオンからの援護射撃も始まった。
≪下がれ、キラ! その状態で敵艦に突っ込むつもりか?!≫
アスランの言葉も耳に入らないようで、キラはフレイの名を叫び続けていた。
「キラ……」
だがこのままでは本当に、キラは……。
≪ナナ、キラを連れて離脱しろ! できるか?!≫
アスランと考えることは同時だった。
「うん」
短く答え、スラスターを全開にする。
フリーダムの肩を掴むと、全速力でその場を離れた。
ジャスティスの援護のお陰で、攻撃は避けられた。
だが、安堵の息はつけなかった。
キラは泣いていた。
≪僕が傷つけた……! 僕が護ってあげなくちゃならないんだ……!!≫
それはこちらの胸を刺すほど、悲痛な心の叫びだった。