クサナギとエターナルと、何度目かの往復をして戻ったナナの耳に、その情報が入った。
「地球軍の月艦隊がボアズに侵攻?」
「それが……」
アークエンジェルのブリッジが、いつにも増して重苦しい空気に包まれている。
「今、バルトフェルド艦長から連絡が入って、すでにボアズは落とされたらしいの」
「え……?」
ナナはマリューの横顔から、正面モニターに視線を移す。
そこには、クサナギのキサカと、エターナルのラクスが映し出されていた。
≪こちらの情報によりますと……≫
ラクスがナナの姿を確認して口を開いた。
その顔は深刻で……いや、見たこともないほど曇り切っていた。
「ラクス……?」
少し躊躇った後、ラクスは言った。
「地球軍は……核攻撃を行ったようです……」
一瞬の静寂……。
「な、なんで……核が……」
呟いてすぐに頭に浮かんだのは、フレイの声だった。
『わ、私、“鍵”を持ってるの! 戦争を終わらせるための“鍵”を……!!』
彼女をこれ以上悪く思いたくなかった。
だが、皮肉にも気づいてしまった。
「まさか……フレイが言ってた“鍵”って……」
ミリアリアとサイが、怯えたように息を呑む。
「フレイがクルーゼ隊の捕虜だったとして……解放されて地球軍に保護された。そこには、アズラエルがいる……。だとしたら、このタイミングは……」
「クルーゼだ。ヤツがニュートロンジャマーキャンセラーの情報を持たせたんだ!」
ナナが言い切る前に、マリューの傍らにいたムウが吐き出すように言った。
「『まもなく最後の扉が開かれる』なんてほざいていやがったからな、あいつは!」
彼の憤りが、ブリッジの空気を震わせた。
モニターの向こうのラクスさえ、うつむく。
「クルーゼがわざとフレイに核の“鍵”を持たせて解放したってこと……?」
あまりに信じがたい思考だ。
が、ムウは何の迷いもなく同意した。
「味方のザフトが核攻撃されるのに?」
そして誰も否定はしなかった。
「こうなったら……」
もう、言葉を選んでいる場合ではなくなった。
「プラントも地球軍も、撃って撃たれての最悪の展開になる……」
絞り出すように、残酷な現状を突きつける。
≪そうですわね……≫
いち早く同意したのはラクスだった。
≪ナナ……我々は……≫
モニター越しに目が合った。
同じことを考えている。
何故だかそれがわかった。
「行こう」
ナナはそれを口にした。
「もう、私たちにできることなんて、ないのかも知れない」
迷いはなかった。
「だけど、私たちは“それ”をするためにここまで来た」
少しだけ胸が詰まった。
「この手に力を持ったのは、護るため……終わらせるため……」
後悔は……、懺悔は、後で……。
「だから、最後まで、信じて……やり通す……」
周囲はシンと静まりかえった。
その張りつめた空気が、なんだか今となっては心地よかった。
≪まいりましょう≫
ラクスがやっと、いつもの笑みを浮かべた。
≪私たちのやるべきことを、最後までやり通すために≫
ブリッジで同意の声が上がった。
キサカも深くうなずいた。
みな、吹っ切れたように笑っていた。