紅の光
「ザフトの対抗策については正直言って予測がつかないけど、地球軍は補給を済ませて再攻撃を仕掛けると思う」
グレイスのコックピットで、機器の操作をしながら言った。
≪ええ、そうね≫
この通信は、全艦のブリッジと、全てのMSのコックピットと繋がっている。
マリューがこれに同意した。
「次の狙いは、おそらくプラント……」
≪そうだろうな≫
今度はバルトフェルトが。
「正確な時間はわからないけど、月から補給部隊が出ているとすると、私たちが今から向かって間に合うかどうか、ギリギリのラインだと思う」
≪そのつもりでいるのが妥当でしょうな≫
そしてキサカも。
「とりあえずは、『地球軍の核攻撃阻止』を目的に全速力でプラントへ向かいましょう」
最後に、三艦の艦長たちがナナの言葉にうなずいた。
やがて三艦はプラント周辺宙域にたどり着いた。
すぐにMS全機に発進命令が下される。
「ナナ・イズミ、グレイス、発進します」
冷静に。とにかく、できることを……。
言い聞かせ、ナナはグレイスを発進させた。
すぐにザフトと地球軍が交戦している宙域を黙視する。
そして、プラントに向かう地球軍の……。
「核攻撃部隊を補足……」
一度だけ、奥歯を強く噛みしめた。
憎しみ、怒り、悲しみ……それら全てを呑み込んででも、冷静に動かねばならなかった。
「キラ、アスラン。サポートするから、とにかく核を撃ち落として」
≪了解!≫
≪わかった!≫
エターナルから発進したフリーダムとジャスティスが、ミーティアを装備した。
そのまま加速し、核攻撃部隊へ向かう。
数は定かでない。
が、ミーティアの砲数でなければ間に合わないことだけはわかっている。
フリーダムとジャスティスは、最初の攻撃を開始した。
一気に撃ち落とされる核。
呪わしい光の華がいくつも、宙に咲いた。
突然の介入行動に、宙域は一瞬戸惑いを見せた。
だがすぐに、あの三機のMSが行動に移る。
「こっちは任せて!」
グレイスを再加速させ、ジャスティスに向かって来た青いMS(=カラミティ)をけん制する。
さらに、脇をすり抜けてフリーダムに襲いかかる黒いMS(=レイダー)に、後ろからビームを打ち込む。
(もう、あなたたちの動きにはいい加減対応しとかないとね……!)
額に汗が滲んだ。
が、口の端を無理やり吊り上げた。
続いて、緑のMS(=フォビドゥン)の足を止める。
その時だった。
突然、宙域に異変が起こる。
「な、なんで……?」
コックピットのレーダーは、異常な動きを示している。
ザフト側が一斉に撤退を始めたのだ。
≪ヤキン・ドゥーエ後方に、巨大な物体が出現……!!≫
ミリアリアから通信が入った。
「え……?」
グレイスをザフト軍宇宙要塞『ヤキン・ドゥーエ』の方へ向けようとした。
が、突然一機のMSが急接近して来てそれを遮った。
「なっ……」
よける間も、抗う間も与えられず、グレイスはそのMSに腕を取られ、そのまま引っ張られる。
急加速で身体が前のめりになった。
体制が悪く、反撃もできない。
「ちょっ……」
振り切ろうとした、その時……。
突然、巨大物体から紅の光が放たれた。
「……っ……?!」
息を呑んだ。
まがまがしいその光は、射線上の全ての物を破壊した。
『撃った』のではない。『破壊』したのだ。
まさに、今まで自分が居たその場所も……。
それは一瞬の出来事だった。
戦闘宙域を駆け抜けた閃光は、艦もMSもMAも飲み込んで、粉々に破壊した。
「あ、あれは……」
声が喉に張り付いた。
にもかかわらず、言葉がこぼれ出る。
「なに……? 今の……」
動揺を口に出さなければ、意識が飛んでしまいそうだった。
「なんなの……?」
恐怖、疑問、怒り……。
操縦桿を握る手が震えていた。
モニターには、瓦礫と化したモノたちを茫然と見つめるフリーダムとジャスティス、それに、ストライクとバスターが映っている。
「みんな……」
とにかく、皆は無事だった。
とにかく……それだけは……。
それに、
「デュエル……?」
自分が間一髪で、アレを避けられたことも。
「イザー……ク……?」
それは紛れもなく、傍らにたたずむMS、デュエルのおかげだった。
あれに乗っているのは、確か『イザーク』という名の……、アスランとディアッカの仲間だったはず。
(どうして……)
またひとつ、疑問が沸いた。
だが、
「ありがとう、イザーク」
回線をデュエルに合わせ、そう礼を言う。
声はもう、震えてはいなかった。
≪……くそっ……≫
彼は一瞬、名を呼ばれたことに驚いたようだった。
が、それをすぐに憤りに変え、その場を離れて行った。
憤り……。
ザフトの攻撃に、ザフトである彼が、それを感じていた……?
「イザーク……」
ディアッカから聞かされたその名を呟き、一度、強く目を閉じる。
そして、改めてモニターを見る。
その全てが未だ、混乱を映し出していた。
「ひとまず撤退を……!」
各艦のブリッジへ通信を入れながら、ナナは操縦桿を握りなおした。
その手ももう、震えてなどいなかった。