エターナルのブリッジに、アラートが鳴り響いた。
それは、地球軍が進撃を開始した合図だった。
「行こう」
これが最後の戦いになるのかもしれない……。
そう思った。
そして皆も、その予感がしているようだった。
「キラ」
だからラクスは、ブリッジから出ようとするキラを呼び止める。
「先、行くね」
キラにそう言い、ラクスを見る。
彼女とは、言葉を交わす必要がなかった。
「じゃあ、ナナ。気をつけてな! 絶対……、絶対に死ぬなよ!」
「ナナ様。どうかご無事で!」
クサナギへのシャトルに向かうカガリとキサカが、そう言った。
「あ、マリューさん」
「え?」
「すみませんけど、先にアークエンジェルに戻ってください。ちょっとカガリに話が……」
「え、ええ。わかったわ」
マリューが去ろうとすると、その背にもう一度声をかけた。
「急いでくださいね。ストライクが発進準備に入っちゃうから」
「え?」
振り返ったマリューが聞き返し、そしてすぐに意味を悟ると、かすかに頬を染めて踵を返した。
その様子にクスリと笑うと、
「カガリ……」
ナナは思い切りカガリを抱きしめた。
「ちょっ、おい、ナナ!」
カガリは慌ててバランスを崩す。
宙に浮いた二人の身体は、キサカが受け止めた。
「カガリ。オーブを護ってね」
「ナナ……」
「あなたはウズミ様の意志を継いでいる。オーブを護るのはあなた。それを忘れないで」
オーブという国への想い。オーブの仲間への想い。そして、ウズミへの想い。
それを全部、カガリに託した。
「大丈夫、カガリなら戦えるよ。ウズミ様の娘なんだから」
カガリはうつむいた。
今まで我慢していたのだろう。
その箍が外れそうになっているのが、うるんだ目で分かった。
「カガリ」
「だ、大丈夫だ! それより、ナナは自分の心配をしろ!」
「うん、そうだよね」
「いいか、絶対に生きて戻って来いよ! 約束しろ!」
眼尻から零れた雫に、ナナは笑った。
「うん、約束する」
「わ、私ひとりじゃ、この先のオーブの再興は難しいんだ。ちゃんと生き残って、一緒に……一緒に……」
「うん、わかってるよ、カガリ」
ナナはとうとう言葉を詰まらせたカガリを、もう一度抱きしめた。
「キサカ、カガリとオーブのことはお願いね」
「全て承知しております、ナナ様」
彼はそれ以上何も言わなかった。
その彼に、そっとカガリを押しやる。
手が完全に離れて、ナナは笑った。
大丈夫。
あの衝動的で愛情深いかわいい妹のところが、自分の帰る場所なのだ……。
そう自分に言い聞かせ、彼らに背を向けた。
そうして振り返ると、アスランが黙って立っていた。
「アスラン……」
その眼はじっとこちらを見ていて、何だか居心地が悪かった。
視線を横に逸らすと、窓から地球が見えていた。
青い、美しい星。
眩しくて、今度は目を伏せた。
「ナナ……」
「アスランも、気をつけて」
「ナナ」
「絶対、死なないでね」
「ナナ!」
アスランは、前と同じように、去ろうとするナナの腕を引いた。
「アスラン……」
「オレも話がある……」
目を見る。
大人びた眼差しが向けられていた。
「も、戻ってからじゃだめ?」
「今、話しておきたいんだ」
アスランの手によって、正面を向かされる。
ふと、あの孤島に二人して遭難した時のことを思い出した。
熱に浮かされて、正直、鮮明に覚えている部分は少ない。
が、アスランの戸惑ったような目と、それでも優しかった温もりは覚えている。
泣いたのは、あの時が初めてだった……。
「アスラン……」
彼も同じものを見たのだろうか。
耳の奥で、あの時の波音が聞こえた時、アスランはまた強くナナを抱きしめた。
「ナナ……オレは……」
青い星が、二人をじっと見ているようだった。
「お前に会えてよかった」
二人の、わずかに重ねた時を。
「これからも、お前とともに……」
「アスラン……」
「そんな未来を今、願っている……」
そして、これから続く時を。
「私……あなたを、護りたい……」
それらを護りたかった。
願う未来を、アスランを……みんなを、全部護りたかった。
アスランは小さく笑って、
「アスラッ……」
そっとナナに口づけた。
そして。
「オレがお前を護る」
そう言ってまた、強く、抱きしめる。
ナナの腕は、その温もりに、しっかりとしがみついた。