「ミリアリアとは、何か話した?」
ムウには聞く必要はなかった。
だからナナは、すでにバスターに乗り込んでいるディアッカに話しかける。
≪はぁ? 何でだよ≫
モニターに映る顔は、ヘルメット越しにも仏頂面をしているのがわかった。
彼のそんな表情も、なんだか見慣れた……。
そう思うと、嬉しかった。
「ねぇ、ディアッカ」
グレイスのシステムの最終調整を行いながら、ナナは言葉を濁す彼に言った。
「さっきのジェネシスの攻撃の時、私、あなたの仲間に助けられたんだ」
≪はぁ?≫
先ほどよりすっとんきょうな声が聞こえ、思わずスイッチをいじる手を止めて笑った。
「デュエルがいきなりグレイスを掴んで、ジェネシスの射線上から避けてくれた」
≪イザークが……?≫
「うん」
ディアッカはしばし考え込んだ様子だった。
「イザークって、どんな人?」
キーボードを叩きながら、彼の答えを待つ。
≪アイツは……≫
言葉を選んで、彼は言った。
≪くそ真面目でプライドがやたら高くてめちゃくちゃ怒りっぽくて、いっつもアスランに突っかかっててさ……キレたら手がつけられない面倒なヤツだけど……≫
ナナは顔を上げ、モニターを見る。
≪けど、いいやつだぜ≫
友を語る彼の目は、穏やかだった。
「そっか」
たった一言、『いいやつ』だけで想いを表せる絆が、少しうらやましい。
「この戦いが終わったらさ、また、話せたらいいね」
≪ああ、そうだな……。ま、どうせオレもアスランもアイツにしこたま怒鳴られるんだろうけどよ≫
ため息交じりで未来を語るディアッカには、安心させられた。
「私も会ってみたいな。イザークに」
ディアッカは大げさなため息をつきながらこう答えた。
≪お前とイザークなら、会って5分で喧嘩になりそうだぜ……≫
二人のやり取りを遮るように、ドック内にアラートが鳴った。
地球軍が進撃を開始。さらにアークエンジェルはドミニオンを補足した。
MS全機に発進命令が下る。
「ナナ・ イズミ。 グレイス、発進します!」
デッキを飛び出してすぐ、ヤキン・ドゥーエ宙域で交戦する両軍を目視した。
「あそこへ……」
……行っても無駄なのかもしれなかった。
地球軍の核攻撃を止めて、ザフトのジェネシスも破壊するなど、無理なのかもしれなかった。
だが、それでも迷いはない。
やり遂げる意志……それが強さだと、未来への希望だと信じている。
だから、ジェネシスから“2射目”が発射されても、ひるむことはなかった。
あの光が再び、数多の命を破壊しても、恐れも、怒りもしなかった。
「ミリアリア、アレの攻撃対象は?」
冷静に、ジェネシスが放たれた場所を確認する。
≪地球軍月基地の、プトレマイオス・クレーターです≫
月基地が……。
だとすれば、そこからこちらへ向かって来る地球軍の支援部隊も大きな被害を受けている可能性が高い。
これが普通の戦場であれば、地球軍は一時撤退し、態勢を立て直すのが定石である。
しかし、これは普通の戦場ではなく最終決戦の場所……。
とすれば、地球軍が引くことはあり得ない。
そして、ジェネシスの次の標的は……地球。
「エリカさん、1射目と2射目のタイムラグはどのくらいだった?」
≪お、およそ86分です……!≫
次の発射までの猶予は、約80分……。
ならば……。
「アークエンジェルはドミニオンを追ってください」
≪ナナ?!≫
「たぶん、アズラエルはプラントに核を打ち込んで来る……!」
我ながら恐ろしい予測だと思う。
だが、何故だかアズラエルの思惑が、手に取るように分かるのだ。
彼はコーディネーターの存在そのものを忌み嫌う者。
だとすれば、あの攻撃を受けて思うのは、プラントへの復讐。
ジェネシスの破壊でも、ザフト軍の撃破でも、撤退でも、ましてや降伏でもなく、プラントを……コーディネーターを滅ぼすことしか考えていないはずだ。
だから……。
≪ドミニオン、他、数隻が転進!≫
予測通り、彼らは目的を変えた。
≪本艦が追います! エターナルとクサナギはジェネシスを!≫
マリューがすぐさま対応した。
「キラ、アスラン、ディアッカも! 核攻撃部隊が来る、プラントへ!」
≪わかった!≫
≪了解!≫
≪オーケー!≫
迫って来た地球軍MSをなぎ払いながら、ナナもプラントへ向かう。
「ムウさんとアストレイは艦の防衛をお願いします」
≪了解した!≫
今度はザフトのMSが数機、取り囲みに来る。
だが、 グレイスの火力を下げ、代わりに推力を理論上の極限まで上げていたため、それらをなんなく置き去りにして飛び去った。
「あの三機は グレイスとバスターで引きつける。フリーダムとジャスティスは、とにかく核を阻止して!」
言った瞬間、ナナの中で何かが弾けた……。
地球軍、ザフトが入り乱れる戦場を、グレイスは縫うようにして飛翔する。
すぐに、例の三機のMSが向かって来た。
それらのけん制に成功し、フリーダムとジャスティスは放たれた核を撃ち落とした。
あの光が、また宙にいくつもいくつも放たれる。
追いついたバスターと、ザフトの部隊もまた、プラントを護るべく、次々と向かい来る核を撃った。
ナナは、ひたすらにフリーダムとジャスティスを追い立てる三機のMSを攻めた。
火力を下げているから、ビームライフルが直撃しても致命的なダメージを与えることはできなかった。
だが、代わりにスラスターの威力を上げた分、スピードは彼らを上回る。
まったく連携攻撃を仕掛けて来ない三機を翻弄するようにグレイスを操った。
通常より増した空気圧のせいで胃が酷く軋んだが、歯をくいしばって耐えた。
まず一機……レイダーにビームサーベルを向ける。
後ろからカラミティが不意打ちを狙って来たのをわざとギリギリで避け、油断したレイダーに斬りかかった。
至近距離であれば、威力が弱くても破壊はできる……。
グレイスの目の前で、レイダーは爆破した。
彼を憐れんでいる暇はなかった。
仲間意識があったとは思えなかったが、それでもカラミティとフォビドゥンは、逆上したように突っ込んで来る。
それを左右のモニターに捕らえつつ、
「ディアッカ! 核攻撃部隊の旗艦を叩いて!」
冷静な言葉を吐く。
≪あ、ああ、だけどお前……!≫
「私は大丈夫」
あとの二機は、 グレイスの力でなんとかするつもりだった。
が、
≪オレが行く!≫
思いがけず、サポートが入る。
≪ディアッカ! 貴様はとっとと旗艦を落として来い!≫
ディアッカを怒鳴りつけ、さらにグレイスに向かって来たフォビドゥンからのビームを防いだのは、あのデュエルだった。
≪イザーク!≫
「イ、イザーク?」
彼の楯はナナを護った。
≪おい、 グレイスのパイロット! まずはあの緑のヤツからだ! 右から回り込め!≫
続けざまに出される指示に、ナナは言葉を飲み込んで従った。
咄嗟の連携は、その成果を上げた。
フォビドゥンはグレイスのビームサーベルで半分に割れ、カラミティはデュエルの砲撃で大破した。
ようやく……あの三機を撃退した。
後悔は飲み込んだ。
息が切れていた。
胃がキリキリと痛んだ。
おまけに、前に怪我をした掌が、熱を持っている。
「ありがとう、イザーク」
デュエルは グレイスの正面にいた。
ただ、静止していた。
ナナは息を整え、その場を後にした。
ジェネシスを、破壊するために。
ザフトのジェネシスを……。
背後から、ついに攻撃は無かった。