バスターが地球軍の核攻撃部隊旗艦を撃墜したという連絡が入り、フリーダム、ジャスティス、そしてグレイスは、すぐさまジェネシスへと進路を向ける。
ナナだけが知っていた。
この時点で、ストライクが失われていることを。
「ムウさんっ……」
エターナル、クサナギ、そしてアークエンジェル。この三艦のブリッジとは常に連絡がとれるように、グレイスの通信系統を設定していた。
さらに、他のMSとも連携が取れるように、全てのMSの位置をコックピットのモニターで補足させていた。
だから、わかってしまっていた。
ストライクの機影が、アークエンジェル前方でLOSTしたことを知ってしまった。
「ムウさんっ……!!」
涙を抑えることなどできなかった。
彼の優しさはすでに、ナナの心の奥底にまで浸透している。
マリューの痛みが容易に想像できてしまう。
嗚咽が漏れた。
秘かにマイクを切る。
歯を食いしばって、操縦桿を握った。
ここで力を緩めれば、何もかもが無駄になる。
成し遂げなければ、最後まで。
この先、撃たれようとも……最後まで戦わねば。
懸命に、繰り返し、自身にそう言い聞かせた。
追撃に来た敵を振り切り、あとはまっすぐにジェネシスへ向かうだけ……というところで、キラは突然、フリーダムを転進させる。
≪アスラン、ナナを頼む! 何かが……!≫
そう言い残して。
≪キラ……?≫
アスランが戸惑っているのがわかった。
ナナとて、キラが何を目的に向かって行ったのかはわからない。
だが、不思議と心は落ち着いていた。
「キラは……」
もう、涙は止まっている。
「キラの戦いをしに行ったんだと思う」
≪キラの戦い……?≫
「うん、よくはわかんないけど」
彼が理由もなしに行動するような人間でないことは良く知っている。
そして、ナナ以上にそれを知っているのはアスランであるはずだった。
「それにしても、キラってば相変わらずボケてるんだから!」
≪な、なにがだ?≫
だから……という安心もあった。
「どうせ言い残すんなら、“私”に“アスランを頼む”って言って行けばいいのに!」
まっすぐ、ジェネシス近辺の戦闘宙域を見つめながら大げさに憤慨すると、アスランは少し笑った。
ほっとした。
それでまた、涙がこぼれそうになる。
強く、唇を噛みしめた。
≪ナナ、大丈夫か?≫
気づかれないつもりだった。
が、アスランはサブモニターをONの状態で通信をよこす。
「うん、大丈夫」
とっさにうつむいた。
が、
≪ナナ……!≫
アスランはヘルメット越しの表情を察知する。
その敏感さが、今は余計だった。
「ほんとに大丈夫。ていうか、これだけ戦闘して、疲れない方がおかしいでしょう?」
涙は見られていないはず。
だから、そう誤魔化した。
≪一度、アークエンジェルに帰投したほうがいいんじゃないか?≫
が、最近の彼は恐ろしく心配性だった。
「平気。もう一息だから、戻っている時間がもったいない」
≪だったら、エターナルかクサナギで補給を……≫
アスランはとうとう、ジャスティスをグレイスの前方に回り込ませた。
「アスラン、私は大丈夫」
モニターを見上げる。
「まだ、戦える」
そう噛みしめるように呟くと、逆にアスランがうつむいた。
葛藤は彼の優しさだ。
今は、それを知っていることが嬉しかった。
だから、笑うことができた。
「護ってくれるんでしょ?」
耳元でため息が聞こえた。
そして、
≪ああ……必ず……≫
低い声がした。
目が合う。
もう一度、二人は意志を確認し合った。
それを見計らったかのように、エターナルから通信が入る。
≪これよりジェネシスへの攻撃を開始する!≫
バルトフェルドの合図で、エターナルとクサナギから、ジェネシス側部へ一斉攻撃が行われた。
が……それらはジェネシスに、少しの傷をつけることも叶わなかった。
「そ、そんな……」
≪フェイズシフトか……!≫
強力なフェイズシフトに護られた外装が、主砲のローエングリンでさえ跳ね返したのだ。
「アスラン……!」
とっさに思いついた“次の手”は、アスランも同様だった。
≪ああ……≫
ジャスティスとグレイスは、同時に進路を変えた。
≪ヤキンに突入して、コントロールを潰す!!≫