二人は来た通を戻った。
先ほどと違い兵の姿はなく、手にした銃はすでに使い道を失っていた。
だが、同時に残された時間も少なくなっていた。
ジャスティスとグレイス、2機のMSが見えた時、後方から爆発音がした。
「くっ……」
アスランが、ナナの腕を強くひいた。
爆発で発した熱風が、二人の身体を押し出す。
半ば身体を撃ちつける形で、二人はグレイスに辿り着いた。
「ナナ、大丈夫か?」
「うん、アスランも?」
「ああ……」
それ以上、言葉は必要無かった。
2度、3度と、爆音が響いている。
二人は一度だけ目を合わせて、それぞれの機体に乗り込んだ。
ジャスティスとグレイス、そして援護のM1が2機、無事にヤキン・ドゥーエから脱出した。
後方モニターに映る巨大要塞は、あちこちから崩壊を始めていた。
≪ナナ≫
名を呼ぶ声は、低く落ち着いていた。
「うん、わかってる」
ナナも静かにそれに応える。
「ジェネシスを内部から破壊する」
援護のM1を帰らせ、グレイスをジェネシスへと向けた。
周囲の戦闘がどうなっているか、はっきりと確認する余裕はなかった。
先ほどのメッセージが、どれだけの人に届いたのか……。
よくわからなかった。
何故、迷いなくあんな行動をとったのか、自分でも不思議だった。
パトリック・ザラの死を見て、ジェネシスの発射を知って、戦いの果てを見た気がした。
行きつくところまで来てしまったのだと。
世界の終わりを目の当たりにしたのだと。
ただ、悲しくて……無力で……、涙が溢れた。
この世界に、まだ未来があるのだとしたら、ここで戦いを止めたかった。
やめて欲しかった。
生きて欲しかった。
願いはつたない言葉になって、涙とともに溢れ出た。
ただひとつ、意志だけが残っていた。
ずいぶんと擦り減って頼りない意志だが、まだ心にそれは残っていた。
それだけを抱いて、今、アスランの背を追う。
最後まで、手にした力を使うべく……。
ジェネシスのゲートが射程内に入ると同時に、ジャスティスが砲を発射する。
ゲートは大きく口を開けた。
いよいよそこへ侵入しようとしたその時、アスランから通信が入った。
が、声が無い。
「アスラン?」
呼びかけても返事は無い。
モニターを見上げた。彼はうつむいている。
≪……かない……≫
聞き取れないほどのつぶやきが耳を掠める。
「アスラン?」
もう一度呼びかけると、彼は顔を上げて言った。
≪お前は戻れ、ナナ≫
「え……?」
思わず身を乗り出した。
「な、なに言って……」
≪ジャスティスとグレイスの火力を合わせても、破壊力が足りない≫
アスランは怒ったように言って、また眼を逸らす。
「そんなこと言ったって、やるしか……」
≪ジャスティスが……≫
ナナが口を開こうとすると、
≪ジャスティスを核爆発させる≫
アスランは決意を口にした。
「え?」
≪それなら確実だ≫
ああ……確かに……。
頭の片隅で、やけに悠長に同意する。
だが、
「で、でもそれじゃあアスランが……!」
彼の言わんとすることがわかるから、首を横に振った。
≪いいから、お前は戻れ≫
「いいからって何?!」
彼には、“そこ”から脱出する気が無いのだ……。
それはつまり……。
「あ、あなただけ行かせられるわけないでしょう?!」
怒りがこみ上げる……というより、頭の中は激しく混乱した。
何故、彼がそんなことを言うのか、理解ができない。
だが、アスランの声は冷静だった。
≪いままで……ありがとう、ナナ≫
彼は笑った。
同時にジャスティスはグレイスを置き去りにして、ジェネシスのゲートに吸い込まれていった。
「アスラン!」
まだ理解ができなかった。
完結などしていなかった。
「待って! アスラン!」
アスランの想いなど少しもくみ取らず、ナナは彼を追った。
誘導灯が無機質に並ぶ細い通路の先に、ジャスティスがいる。
「アスラン!」
喉が千切れそうなほどに叫んだ。
≪ナナ、ついて来るな!≫
ジェネシス内のシステムが、発射の最終ステータスに移行したのだろうか。
モニターにもスピーカーにも、ノイズが混じり始める。
「嫌だ!」
≪駄目だ!≫
「あなただけ死なせるなんてできない!」
≪だからといってお前まで死ぬことはない!≫
「そんなの意味わかんない!」
言い争いが途切れ途切れになる。
≪わかってくれ、ナナ!≫
「わかるわけないでしょう?!」
≪お前を死なせるわけにはいかないんだ!≫
「それは私も同じだって……!」
だが急に、モニターもスピーカーもクリアになった。
≪ナナ≫
目が合った。
≪お前には、この戦争が終わってからもやるべきことがある≫
その言葉が、ナナの心に突き刺さった。
≪お前は生きろ、ナナ≫
彼が優しくそう言った時、モニターが真っ暗になった。
「アスラン?!」
耳を澄ましてもノイズさえ聞こえない。
彼が通信を切ったのだとわかった瞬間、
ジャスティスが背のフライヤーを外した。
それは当然、後方のグレイスに直撃する。
「ぐっ……!」
コックピットが大きく揺れ、モニターが割れた。
機体の制御が不能のまま、グレイスは後ろへと激しく押し戻されて行く。
「アスラン!」
叫びも願いも届かない。
何も伝えていないのに。何の覚悟もできていないのに……。
彼はもう、遠くへ行ってしまった……。