『生きろ』という短い言葉に、ありったけの想いを込めた。
ナナという少女に出逢えたことへの感謝。
過去の過ちへの懺悔。
この戦いを終わらせる決意。
護りたいという意志。
未来への希望。
そして、ナナの幸福を願い……。
彼女が納得するはずはない。
正義感が人一倍強い彼女が、最後の最後であんなふうに突き放されて、怒らないわけがない。
きっと後悔するだろう。自分を恨むだろう。
たくさん、泣いてくれるだろうか……。
だがそれでも、ナナは前に進むと信じていた。
決して手折られることのない強い意志。
陰ることのない、眩しい光。
それはこの先の未来で、みんなの希望となるだろう。
世界には、未来には、ナナが必要だ。
だから、恨まれても、ナナが泣いたとしても、彼女の心に傷を作ったとしても……、どうしても護りたかった。
生きて欲しかった。
たとえ、それが残酷なことだとしても……。
通路を抜け、開けた場所に辿り着いた。
中心に柱があり、不気味に光っている。
ここが、ジェネシスの中枢だった。
アスランはジャスティスの自爆装置を作動させた。
その手は少しも淀まぬ動きをしてくれた。
それもそのはず、今、恐怖は少しもなかった。
ただもう少しだけ、ナナと話がしたかったとは思う。
もう一度、ナナに触れたかったとも思う。
それだけ……。
それだけだ。
そっと胸を抑えた。
あれからずっと、肌身離さず身につけている護り石……。
それを取り出し、両手で握りしめ、目を閉じた。
その時、
≪アスラン!!≫
もう一度、聞きたいと思っていた声が聞こえた。
(え……?)
振り返ると、全ての装備を失ったグレイスがいた。
≪アスラン!!≫
ナナが叫ぶ。
一瞬、己の目を疑ったアスランも、我に返って叫び返す。
「お前は戻れと言っただろう、ナナ!」
だが、片翼が折れたグレイスは、反転するどころかそのコックピットを開いた。
「ナナ?!」
ナナが出て来て言った。
≪そんなのっ……ずるいよ!≫
肩を震わせ、拳を握って、泣きながら……ナナは言った。
≪今さら、こんなのっ……!≫
言葉にならない声が、ヘルメットのスピーカーににじむ。
「ナナ、お前には、この先、やらねばならないことがある」
アスランは心を落ち着けながら、自機のコックピットを開いた。
モニター越しでなく、じかに見るナナは、震えていて頼りない。
細い体は、今にも掻き消えそうだった。
「頼むから、早く脱出してくれ……!」
だから懇願した。
今さら恐怖が湧いたのだ。
ナナを失うという勝手な恐怖が。
だがナナは、
≪言ったじゃない……≫
「え……?」
喉の奥から絞り出すように、叫んだ。
≪私を護るって、言ってくれたじゃない!!≫
ヘルメット越し、その瞳はまっすぐにアスランを向いている。
いくつもの光の粒が、それすら覆い隠そうとしていた。
「ナナ、だから……」
≪護るって言ったくせに、いなくならないでよ!!≫
怒り……いや、ナナがぶつけてくるのは恐怖だった。
咎めるような叫びに滲むのは、確かに怖れだ……。
「ナナ、オレはお前を護りたい。だから……」
その姿に、アスランは戸惑った。
ナナと恐怖が結びつかなかった。
「だ、だから、生きてくれと……」
その隙間に縋り付くように、ナナは言った。
≪私はもうっ……≫
しゃっくりあげながら、
≪もう、あなたがっ……≫
最後は一息に、
≪あなたがいないと戦えないっ……!!≫
そう言った。
全ての感情をさらけ出し、ナナは両腕で顔を覆った。
思考が停止した。ナナの言葉の意味を理解できなかった。
茫然と立ち尽くすアスランの耳元に、激しい嗚咽が聞こえた。
それに混ざって……。
≪そばにっ……いてっ……≫
そう聞こえた瞬間。
「ナナ……」
アスランは反射的に、足を蹴りだしていた。
まっすぐ、もう泣くことしかしようとしないナナのもとへ……。
「ナナ」
縮こまるようにして泣きじゃくるナナの肩を抱く。
そのまま、グレイスのコックピットへ引っ張り込んだ。
シートに座り、扉を閉める。
片腕でナナを抱え、グレイスの操縦桿を握った。
ナナは、泣きながらしがみついた。
怯えた子供のように、ただただ泣いていた。
その身体をしっかりと支え、グレイスを反転させる。
あとは全速力で通路を引き返すだけだった。
何も考えなかった。
ジェネシスの発射まであとどのくらいかわからなかった。
ジャスティスの爆発があと何秒で起きるのかも、もうわからなかった。
脱出は間に合うのか……ナナを無事に連れて帰れるのか……。
そんなことすら考えなかった。
アスランはただ、次にナナとかわす言葉だけを考えていた。