セカンドインパクトの混乱期に起こったジオニズム運動はやがて国家分断を招いた。
石油利権と金融業界を牛耳っていた勢力がビアン・ゾルダークが結成したディバイン・クルセイダース、通称DCを支援して世界各地で独立運動が勃発。
これより早くに独立運動を起こしていたジオン軍の一部がDCと結託したことで、国連はこれらの勢力を抑え込むことができなくなった。
当初、米国は早くからゾルダークを世界指名手配していた。ゾルダークは米軍の軍事力の基盤のすべてを持っている。
とはいえ、ゾルダークはもともと米国に忠実な存在だった。
ゾルダークが米国に背信するようになったのは、米政府にはびこる凶悪な利権に嫌気がさしたからだと言われている。
米政府は金融業界と完全に癒着し、民から徹底的に富を搾取する構造を築いていた。
ゾルダークはそれを不満に思い、早くから議会に問題提起をしていた。
しかし、完全に腐敗していた米政府はゾルダークの暗殺を決行。
だが、この暗殺は失敗に終わり、ゾルダークはロシアに亡命し、やがてDCを結成するに至った。
DCの力が大きくなると、中東各地で内戦が勃発。
米軍はこれらの内戦を管理しきれなくなった。
そこで、米軍が目をつけたのが日本だ。
中東の内戦を鎮めるためには、日本軍の力が必要不可欠だった。
米国最大の同盟国である日本は、防衛省の管轄に「ゲヒルン」という大きな軍事団体を持っている。
しかし、平和主義を掲げる日本は原則としてよその国の紛争に介入することができない。
米国は日本を中東戦争に参加させたかった。
米国は日本に圧力をかけた。
米国の圧力に逆らうことができない日本はゲヒルンを解体し、「ネルフ」を再結成した。
中東難民を支援するという名目で作られたが、それは体裁である。ネルフは明確に中東戦争を抑え込むために利用されることになった。
ネルフは米軍と協力し、地球連邦軍を設立し、DCに宣戦布告。宣戦布告の大義名分は「中東の平和と安定のため」だった。
こうして始まったのが「一年戦争」である。
一年戦争はこれより前、ジオン軍が欧州で起こした戦争であるが、DCと地球連邦軍が介入することで大きな戦争へと発展した。
事実上の世界大戦であり、死者数1200万人、被害難民1億人とも言われる大惨事につながった。
一年戦争は、DCの敗北宣言および、ジオン軍の降伏および、ミケーネ帝国と地球連邦軍の間で結ばれた停戦合意の形で終わりを告げることになる。
一年戦争は終わった。しかし、これは戦いの終わりではなく、むしろ始まりである。
この先、人類は最も大きな戦争に巻き込まれていくことになる。
一年戦争が終わった後でも、日本では徴兵制が続いていた。
日本政府は6年後を目処に徴兵制を廃止するとうたっているものの、徴兵制の廃止をうたっていた政権がことごとく選挙で惨敗したことでその話も棚上げになった。
碇シンジは東京の中学校に通う普通の中学生だった。
このまま中学校を卒業し、なんとなく高校に進学してなんとなく生きていくことになるんだろうと思っていたのだが、シンジのもとにも「徴兵赤紙」が届いた。
内容は以下の通りである。
碇シンジ殿へ
このたび、防衛省は軍事法第77条2項の権限に基づき、あなたを徴兵する。
5月9日までに、防衛省管轄の軍事団体「ネルフ」において所定の手続きを行うこと。
なお、この決定に不服がある場合、あなたは5月29日までの間に限り、防衛省に対して審査請求を行うことができる。
赤紙の権限は強く、この命令に逆らった者には刑事責任が科せられる。
はっきり言って、シンジは軍人などには向いていない。おとなしい性格であり、見た目も小柄であり、軍人の対極のような存在だ。
しかし、赤紙が届いたからにはネルフに行くしかない。
シンジは赤紙と一緒に入っていた切符を使って、ネルフ本部のある第三新東京駅のプラットホームに降り立った。
「なんで僕が徴兵されるんだろ」
シンジはひとりごとをつぶやいた。
一年戦争が終わり、もう軍人が必要とされる状況にはない。
一年戦争で多くの軍人が失われたから、兵士の補てんをしようとしているのか、いくらか理由は考えられたが、一年戦争の途中でもシンジには赤紙が届かなかった。
いまさら徴兵される道理はどこにもなかった。
ネルフにたどり着いたシンジはひとまず事務所で書類の手続きをした。
氏名、住所、印鑑という形式的な書類をいくつか書くと、しばらく待合室で待たされた。
しばらくすると、責任者がやってきた。
やってきた女性はまだ若い女性のように見えた。
「あなたが碇シンジ君?」
「あ、はい」
「私は葛城ミサト。今日から、あなたの管理をさせていただきます。以後、よろしくね」
責任者の女性は親しみ深い笑顔と声でミサトと名乗った。
「さっそくなんだけど……」
ミサトはシンジと向かい合って座ると、分厚いファイルから忙しく書類を取り出した。
「話はどこまで聞いてる?」
「いえ、特には」
「オッケー。じゃあ、とりあえず形式的な説明をするわね。怒りシンジ君の徴兵は、軍事法第77条2項の未成年の徴兵に関する規定に基づくものです」怒りではなく碇
ミサトは書類の内容を淡々と話した。
「まあ色々言ったけど、要は形式的なもの。別に戦争に出たり、ましてやカミカゼアタックなんてしないから安心してね」
「あの」
「ん?」
「審査請求ができると聞いたのですが……」
「あー、うん、一応できることにはなってるけど、やるの?」
「はっきり言って、僕はそういうのに向いてないし、徴兵されたって何もできません。免除できるならしたいと思っているんです」
「審査請求ね……あれ、手続きが面倒なのよね。あとね、君の場合はたぶん審査請求しても決定は覆らないと思うわ」
「どうしてですか?」
「ネルフ司令官の碇司令の推薦で決まったからよ。つまり、君のお父さんね」
「父さんが?」
シンジは驚いた。
父親とは何年も会ってないし、昔から父親には煙たがられていた。
そんな父親が自分を推薦したというのが信じられなかった。
碇ゲンドウはネルフのトップに立つ総司令官である。
ゲヒルンの時代から要人ポストについていたゲンドウはネルフ結成に伴ってネルフの管理を任されるようになっていた。
ゲンドウは昔から仕事優先で生きてきた。
シンジの母親が亡くなってから、ゲンドウはシンジを親戚のもとに預けて、シンジの前にはほとんど顔を見せなかった。
顔を見せたのは親族の葬式の時ぐらいだった。
シンジが小学校を卒業したときも、中学校に入学したときもゲンドウは祝いにやってくることはなかった。
やがて、親子関係はぎくしゃくするようになり、もう何年も話をしていない。
そんなゲンドウが突然、シンジを徴兵に推薦した。一体どういうことなのだろうか。
「一年戦争のときも、碇司令が推薦書を書くなんて一度もなかったんだけど、やっぱり実の息子は特別ということかしらね」
「……」
シンジは父親のコネで徴兵されたというのが嫌だった。
「でも心配しなくて大丈夫だから。いまさら厳しい訓練とかたぶん行われないと思うし。せいぜい、武器の取り扱いと補給機の操縦訓練が行われるぐらいよ」
ミサトはそう言ってシンジを安心させた。
しかし、シンジは暗い顔でうつむくばかりだった。
はっきり言って、ガンダムの操縦なんかには興味なかった。