スーパーロボット大戦Y   作:やまもとやま

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11話 戦いの前夜

 エヴァの起動実験成功の夜、シンジはベランダに出て星空を眺めていた。

 夜空に自分の右手をかざしてみた。

 

「こんな僕がエヴァを動かしていたなんて信じられない」

 

 少し前まで冴えない中学生だった。それが今ではエヴァンゲリオンを操縦している。

 自分を自分として認識することができなかった。

 

 本当に自分は自分なのか?

 

 そんなことを思いながらも、誇らしい気持ちもあった。

 シンジも男の子だったから、エヴァの操縦席に座ったという経験はとても刺激的だった。

 

 不安もあったが、この世界でやっていけるような気もした。シンジは珍しく口元を緩めた。

 

「あっ」

 

 シンジはそのとき、視界にある者の存在を捉えた。

 シンジが見下ろした先には、寮の中庭がある。そこに誰かの姿があった。

 

 月明かりがその者の姿を映し出した。

 

「綾波さん……」

 

 シンジは中庭にいるのが綾波レイであることを確信した。

 

 レイはシンジにとって最も印象に残っている人物だった。

 ろくに話したことはない。けれど、シンジの心に強く焼き付いている人物だった。

 

 シンジは積極的に人と関わる性格ではない。しかし、シンジは気が付くと、部屋を出て中庭に降りてきていた。

 自分から人に話しかけるなんて、ここ何年も経験したことがなかった。

 それでも、シンジは声をかける勇気を持つことができた。

 

「あの」

 

 シンジは少し距離をあけたところから声をかけた。

 レイはすぐに反応して、赤い眼光を放つ瞳をシンジのほうに向けた。

 

 

「えっと、その……」

 

 いざ、声をかけたはいいがその先の言葉が思いつかない。シンジは声を詰まらせた。

 

「あの、綾波さんもエヴァの操縦をしているんだよね?」

 

 レイはエヴァ零号機のパイロットをしている。そのことはシンジも知っていた。

 

「綾波さんはどうしてエヴァの操縦を?」

「……」

 

 レイはシンジの質問に一言も反応しなかった。

 無口な性格で、人とあまり関わらないということはわかっていたが、このように徹底した無言だとシンジも困ってしまった。

 

「エヴァってなんか不思議だよね? なんていうか、あんまりロボットっていう感じがしないというか、操縦席に座っていても、なんだか人の中に包まれているような感じがして……」

 

 シンジは頑張って言葉を紡いだが、それ以上の言葉が見つからなくなった。

 これ以上の会話の継続は難しいということで、この場から立ち去りたかったが、いきなり立ち去るのも気が引けた。

 二人は無言のフィールドの中にしばらく閉じ込められていた。

 

「エヴァは人だもの」

「え?」

 

 突然、レイは言葉を紡いだ。感情のまったくこもっていない声だった。

 

「人? それはどういうこと?」

「……」

 

 レイはそれ以上はしゃべらなかった。シンジに背中を向けると、そのままお供立てずに闇の中に消えていった。

 シンジは幻でも見ていたかのように、しばらくその場に立ち止まっていた。

 

 

 そのころ、ミサトは残業に勤しんでいた。

 エヴァ初号機を指揮していかなければならないということで、新しく覚えなければならないことが膨大だった。

 

 エヴァ特有の特性が多くあり、これまでに学んできた方法が適用できないことも多く、ミサトはマニュアルをめくるたびに頭を抱えた。

 武器の射程や特性が独特であり、下手すると、マジンガーZの武装より扱いが難しいと言えた。

 しかし、自分の指示1つでパイロットの生き死にがかかる。

 適当に扱うことはできなかった。

 

 ミサトが一人で頭を抱えていると、リツコがやってきた。

 リツコはようやく仕事を終えたようで私服姿になっていた。

 

「まだ根を詰めているの? パンクするわよ」

「あいにく、暗記物は学生時代から滅法強いんで」

 

 ミサトはそう言いながらマニュアルのページをめくった。

 ミサトは大学時代にドイツ語、英語、フランス語、ロシア語と4か国語を完ぺきにマスターしていた。

 

「しっかし、ややっこいわよ。特にアンビリカルケーブルの扱いがやばいわ。切断時の対応、再充填の作業が長すぎ」

「まあ、お上の人たちは現場のことは考えずにシステムを作るから。でも、可能な限り、簡素化したつもりなんだけどね」

 

 リツコは差し入れをミサトに渡した。

 

「そっちは明日休みなの?」

 

 ミサトはさっそく差し入れのハンバーガーを齧った。

 

「いいえ、明日は早朝からマジンガーの起動実験が入ったわ」

「マジンガーの? なんで?」

「さあ、それは私もよくわからないわ」

 

 マジンガーの起動実験は、防衛相からの強い命令だった。

 

「エヴァに続いてマジンガーって、ずいぶんと過密日程じゃないの。まるで戦争でも始まるみたいな急ピッチだわ」

「そうね。戦争でも始めるつもりなのかしら」

 

 リツコは冗談でそう言ったが、あながち間違っていなかった。明日は知る人ぞ知る重要な日である。

 しかし、そのことは下の者には知らされていなかった。

 

「で、マジンガーはいいとして、ボロットはどうするの? 廃棄処分が検討されてるって聞いてたけど、ボス君が残してほしいと懇願してるのよね」

「しばらく補給機として活用するみたいね」

「でも、日本は専守防衛に徹するんでじょ。補給機なんて役に立たないと思うんだけど」

「そうねえ。でも、防衛省から強い要請があったのよ」

「ふーん。まったく日本政府は何を考えてんだかわからないわね」

 

 ミサトは他人事のように言ってハンバーガーをたいらげた。

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