翌日、予定通り、早朝からマジンガーZの起動実験が行われた。
マジンガー自体は何度も起動しているので、特に難しいことではない。
甲児も久しぶりのマジンガー実機のコックピットということで気合が入っていた。
シンジはボスと一緒にマジンガーが飛び立つのを見るために、ネルフの展望台に来ていた。
マジンガーはスクランダージェット発進するために、うつぶせの状態で待機していた。
「あそこにでっかいトンネルがあるだろ。あそこから出てくるのさ」
ボスがシンジにマジンガーの発射台の様子を教えた。
「すごいですね」
シンジは大きなトンネルを見下ろして感嘆の声を上げた。これまで、そういうこととは無縁の生活をしてきたから、マジンガーなんてテレビ画面でしか見たことがなかった。
「だがな、マジンガーなんてしょせんハリボテ。おれのボロットに比べればミジンコみたいなものだわさ」
「はあ」
「いつか、シンジにも俺様の雄姿を見せてやるわさ。一年戦争んときは、俺様のおかげで勝ったみてえなものだからな」
ボスはそう言って胸を張った。
「今のうちにボロットのエヴァの合体攻撃を考えておこうぜ。お前もいずれ実戦で戦うことになるんだ。俺様のボロットパンチに合わせて、おりゃーってな」
ボスはボロットパンチを再現するように拳を振るってみせた。
しかし、シンジはこのまま戦争もなく平和な日が続くことを望んでいた。
戦争なんて戦える気がしなかったから。
「ところでシンジ。俺様がパイロットの心得というものを教えてやるわさ」
「パイロットの心得ですか?」
「そうだわさ。パイロットってのはハートが肝心よ。熱いハートがロボットを動かすんだわさ」
ボスはそのように力説した。根性論だったが、エヴァの場合はそういう側面があると言えた。
「どんなピンチの時でも熱いハートを燃やしていけ。どんな時にも弱気になっちゃダメダメだ」
「熱いハートか。なんだか、僕の正反対な感じ」
「そんなことはねえ。男なら誰だって熱いハートを持ってるもんだ。呼び覚ませ、熱いハート」
ボスは大きなリアクションで力説した。
シンジは苦笑して答えた。
しかし、甲児にせよ、ボスにせよとても明るい性格で、そのおかげもあって、シンジはネルフの中で孤立することもなく過ごせていた。
「よし、いっちょやってみろ。いいか、こうだ。ボロットパーンチ!」
「えっと」
「俺様の真似をしてみろ。こうだ。ボロットパーンチ!」
ボスは拳を振るった。
「え、えっと、ぼ、ぼろっとぱ、ぱんち」
シンジはぎこちなくやってみせた。
「ダメだダメだ。ハートが足りねえ。こうだ、こう。ボロットパーンチ」
「ぼ、ボロットパーンチ!」
「もっと気合を込めて、ボロットパーンチ!」
「ボロットパーンチ!」
バカみたいなことをしているうちに、マジンガーZのジェットスクランダーが起動して、マジンガーZがトンネルから飛び出してきた。
甲児は力強く操縦桿を引っ張った。
「やっぱいいね、実機の操縦桿は。独特の重みがシミュレーションとは違う」
甲児は操縦桿に良い手ごたえを感じていた。
実戦がなければ、日ごろの訓練はシミュレーションを使うことが多い。
実機とシミュレーションではやはり大きな違いがあった。
マジンガーは上空で何度も宙返りした。
そのテクニックは超一流だった。
シンジはその光景を見て強く感心した。
「すごい。あんなふうに動けるなんて」
シンジはシミュレーションでガンダムMK-Ⅱの操縦経験があったから、マジンガーの動きの1つ1つがいかにすごいかよく理解できた。
「どれだけ訓練したらあんなに動けるようになるんだろう」
「まあ、あいつも最初は何度も墜落するへぼったれだったぜ」
「そうなんですね」
甲児のような、一年戦争の立役者でも苦戦する。そう思うと、シンジも少し安心できた。
「まあ、俺様のボロットは最初から完ぺきに動けたけどな。えっへん」
ボスは誇らしく胸を張った。
マジンガーの起動実験は、ゲンドウと冬月も現地で視察していた。
冬月は問題なくマジンガーが動けているのを見てうなずいた。
「ひとまず、お前の息子がダメでも使徒殲滅の目途は立ちそうだな」
冬月がそう言うと、ゲンドウもうなずいた。
「あとは使徒の出現を待つだけか。死海文書にはどこにどのようにして現れるのかは記されていない。一応、日本の領海、領空、領土すべてにセンサーを張り巡らせているが、検知できるかどうか」
「ここに来る以上は我々の目の前に必ず現れるだろう」
ゲンドウは空を舞うマジンガーを見つめたままそう言った。
ゲンドウのその言葉は当たっていた。
第一の使徒は人々の目の前に現れることになった。
◇◇◇
東京北部に設置されていたレーダーが識別コードレッドの謎のエネルギーを検知した。
「高エネルギー反応を確認。エリア19です」
ずっとエリアをモニターしていた管制センターのスタッフがそう告げた。
「中央モニターに映し出します」
高エネルギー反応があったあたりの映像が中央モニターに映し出された。
スタッフの目が一斉にモニターのほうに移った。
「あれは?」
「なんだあのロボットは? 見たこともないぞ」
「ロシアの兵器か? しかし、突然東京に現れるなんて、まるでネルガル重工のボソンエンジンのようではないか」
多くの者が突然現れた謎の巨大兵器に驚きをあらわにした。
「ともかく防衛省に連絡」
「はっ」
謎の巨大兵器が出現したことはすぐに防衛省および、ネルフ本部に伝えられた。
ゲンドウの耳にもすぐにそのことが知らされた。
「そうか、わかった」
ゲンドウは報告を受けると、口元を緩めた。
「碇、ついに使徒が現れたのか?」
「ああ、ようやく時計の針が進み始めたようだ」
ゲンドウは冬月の質問にそう答えると、どこか嬉しそうな表情を漂わせた。
東京に現れた謎の兵器は出現すると同時にゆっくりと進み始めた。
障害物に目もくれず、ビルにぶつかっても、そのビルを破壊し、前に進んだ。
その兵器は瞳から熱エネルギーを放射した。すると、前方で大爆発が起き、3度の爆撃で40階の巨大ビルが消し飛んだ。とてつもない破壊力だった。
爆風に巻き込まれ、数百人の民間人が犠牲になった。
すぐさま緊急事態宣言が出され、都民は悲鳴を上げるように、謎の兵器から遠ざかった。
不幸中の幸い、現れた兵器は人を狙わなかった。その兵器は何かに引き寄せられるようにある方向に歩みを進めるだけだった。
進行方向が一定だったので、防衛省も避難命令が出しやすかった。というよりも、防衛相の要人はその兵器がどこに向かっているのかすでにわかっていた。
防衛省事務次官はゲンドウに連絡を入れた。
「碇君、予定の通り、使徒は出現した。ならばこちらから命じることはただ1つだ。君の仕事は使徒を殲滅すること」
「ええ、わかっています」
「確実に使徒を殲滅する必要がある。君なら間違いなく使徒を倒すことができるのだね?」
「もちろん。そのためのネルフです」
ゲンドウはそう言うと、早歩きにネルフ本部にやってきた。
そのころ、ネルフにも使徒出現の報が届いていた。
マジンガーZの起動実験に立ち会っていたミサトのもとにも使徒出現の報が届いた。
「え、使徒?」
「はい。東京に謎の侵略者が現れました。防衛省は対象を第一使徒と命名したそうです」
「どこからの侵略? ロシア? 中国?」
ミサトは駆け足で展望台を下り始めた。
「不明です」
「不明ってどういうこと? いきなり瞬間移動してきたわけじゃあるまいし」
「実はその通りなのです。突然、東京都エリア19に現れたようなのです」
「まるでSFみたいな話ね。わかったわ、こっちは何をすればいい?」
「本部にて、碇司令の指令に従ってください」
「了解」
ミサトが本部にやってくると、すでに科学者たちが使徒の追跡調査に乗り出していた。
無人探査機が20機スクランブル発進して、使徒を捉えた。
その映像が中央モニターに映し出されていたので、ミサトはすぐに使徒の姿を視界に収めた。
「あれが使徒? ずいぶん物好きなデザインじゃないの」
ミサトはそう言いながら、リツコのところに駆け寄った。
「あのキツツキみたいなのは何?」
「いま調べているところよ。装甲はどうもエヴァに酷似してみるみたいね」
リツコは高速でキーボードをタイピングしながらそう言った。
「エヴァ計画に関わってたのは日本、アメリカ、EU。身内が送りつけてきたってこと?」
「どうかしら。狙いはわからないけど、まっすぐこっちに向かっているのは間違いないみたいね」
そのとき、ゲンドウと冬月も現場にやってきた。
ゲンドウは司令席に着席すると、マイクをオンにした。
「葛城三佐」
「はい」
ミサトは敬礼して答えた。
「モニターに映る「第一使徒」殲滅を君に任せる。できるかね?」
「わかりました」
一年戦争の実績が買われて、ミサトはマジンガーやエヴァを指揮する立場にある。今回の使徒殲滅という重大任務はミサトに任されることになった。
責任重大だが、任されたからにはやるしかない。
使徒という謎の敵と戦うためには準備が必要だ。
「軍事法第4条2項の適応をお願いします」
ミサトはゲンドウにそう申し出た。
「許可しよう。存分にやりたまえ」
「ありがとうございます」
ミサトが適応を訴えた軍事法第4条2項は次のように書かれている。
「防衛省によって任命された指揮官が軍事任務を行うに際し、それに必要な資金や装備ならびに人員を確保する場合、その権限は現場の指揮官の判断が優先される。また、緊急事態であるならば、それらの判断は国会の承認を得る必要がないものとする」
軍事行動は、すべて国会の承認を必要とするが、2項が適応されると、国会の承認を待たずに、あらゆる兵器を使用することができるようになる。
ゲンドウが2項の適応を許可したので、ミサトは配下にあるすべての兵器や資金、人員を使用することが可能になった。
ミサトの配下には主に以下のものがある。
資金約4兆5000億円。
マジンガーZ
エヴァンゲリオン初号機
エヴァンゲリオン零号機
ボスボロット
ゲルググ 6機
ガンダム
ガンダムMK-Ⅱ 2機
アッシマー 2機
コアブースター 3機
無人探査機 18機
偵察型アッシマー 4機
ヒュッケバインMK-Ⅱ 2機
パイロット シンジ、甲児、ボスらほか84名。
これらをミサトの判断で使用することができ、これらを用いて使徒を殲滅することになる。
ミサトはひとまず、使徒の詳細を確認するために、使徒の調査に乗り出した。
「無人探査機の状況は?」
ミサトは探査機を管理する者に尋ねた。
「現在5機が対象を捉えています」
「わかってることを教えて」
「対象の移動速度は約3m/s。全長7,6m、体重は108トンと推測できます」
「ずいぶん遅いわね。助かるわ」
秒速3メートルならば、モビルアーマーによる攻撃で比較的簡単に対処できる。
しかし、問題が1つあった。
「対象の周囲にかなり強力なATフィールド反応が見られます」
その一言が状況を難しくさせた。
ミサトはそれを聞いて、モビルアーマーによる迎撃案は頭から捨て去った。
ATフィールド。
日本、アメリカ、EUの共同開発で作られたものであり、エヴァンゲリオンに搭載された世界で最も強力なバリアフィールドのことである。
例えば、エヴァ初号機に搭載されているATフィールドは最大出力時に以下の防御力があることが確認されている。
百式のメガバズーカランチャーを18秒間反射できる。
地上機を一網打尽にするために開発されたメガバズーカランチャーを18秒間無力化するというのは恐るべき防御力と言えた。
アッシマーによるビーム砲による攻撃は数分以上耐えられることになるだろう。
しかも、ATフィールドは適宜再生可能となっている。
だから、強力な攻撃で短時間でATフィールドを打ち抜かなければならない。
「ATフィールドの値は?」
「約3800.エヴァ零号機の約2倍です」
「零号機の2倍……とすれば、マジンガーZを出すしかないわね」
ミサトはいま起動実験中の甲児に連絡を入れた。
「甲児君、聞こえる?」
「やあ、ミサトさん。こっちは順調だぜ。このままハワイまで飛んでってもいいっすか?」
状況を知らない甲児はのん気なことを言っていた。
「悪いけど、今から命がけの任務に出てもらうわ」
「命がけ? 一体何があったんですか?」
「東京に謎の侵略者が現れたの」
「侵略者?」
「第一使徒と命名されてるわ。今からそっちに情報を転送するから確認して」
「おう」
マジンガーZの液晶画面に使徒の姿が転送された。甲児はそれを見て眉をひそめた。
「こりゃあおかしな侵略者だな。ミケーネの機械獣ですか?」
「詳細はわからないけど、たぶん違うと思うわ。ただ、とてつもなく強力なのは間違いないわ」
「ほー、それでおれに、このへんてこを倒せってわけですね?」
「そうなるわ。お願いできる?」
「おれは正義の味方だぜ。当たり前よ」
甲児は即座に引き受けた。頼もしい正義の味方だった。
「相手は本当に強力なの。超合金Zを6秒で粉々にする熱力兵器も確認されているわ」
「そいつはとんでもねえな」
甲児はそう言いながらも、手ごたえのある相手との戦いに闘争心が湧き上がっていた。
「もうしばらく敵を探るから、甲児君は上空で待機。オッケー?」
「了解」
使徒との戦いが幕を開けた。