スーパーロボット大戦Y   作:やまもとやま

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16話 決意

「こらぁ、甲児。何をしくじってやがるのさ。そんなんで日本が守れるかってのよ」

 

 ボスは甲児に通信を入れた。

 

「うるせえ。あんなバケモンはこっちも初めてなんだよ」

「アホ、どんなバケモンも打ち貫くのが正義のヒーローってもんだろ」

「ああ、そうだ。その通りだがよ」

 

 甲児も強気なパイロットだったが、さすがに攻撃態勢に入れる状態ではなかった。

 ボロットはやってくるなり、破損して右足が十分に動かなくなっていたマジンガーZを持ち上げた。

 

「おりゃああああ、これがボロットのパワーよ」

 

 ボロットは自分よりはるかに大きなマジンガーZを持ち上げると使徒のほうに目を向けた。

 

「あれが使徒ってやつか。なるほど、いかめしい面をしてるじゃないのさ」

 

 ボスは使徒をにらみつけた。

 次の瞬間、使徒の攻撃。

 破壊光線はボロットに向けられた。

 

 しかし、奇跡的にも、ボロットはその攻撃をかわした。

 

「おーっとっとのオットセイ」

 

 ボロットはそのままの足取りで収納リフトに急いだ。

 

「ひとまず逃げるが勝ちよ」

 

 ボロット単機で使徒を殲滅するのは難しい。

 ボロットは収納リフトにたどり着くと、リフトで地下へと消えていった。

 

 進行を妨げる者がいなくなったので、使徒は再び進み始めた。

 使徒には驚くべき力があった。

 時間が経つにつれ、その装甲は徐々に修復されていった。

 

「対象の装甲がみるみるうちに再生しているようです。毎分約10%と思われます」

「再生? DG細胞装甲だというの?」

 

 ミサトは深刻な表情になった。

 

「いえ、類似点はいくつかありますが、DG細胞とは格子構造が異なっています。未知の金属の可能性があります」

 

 装甲を修復する技術は20年前にテスラ研究所が特許を所得している。それはDG細胞という奇妙な素材がもとになっている。

 DG細胞は日本を代表する工学博士であるミカムラによって発見された。

 論文掲載時には、その存在が否定されていた。それでも、ミカムラ博士は「DG細胞はあります!」と断言していた。

 

 後に米国がDG細胞を特許申請して、現在ではテスラ研究所だけが保有する技術になっている。

 DG細胞は人間の細胞と同様に、分裂能力を持つことに加えて、あらゆる金属と容易に同化する性質を持っている。

 もともとは、肝細胞として医療や環境保全に応用される形で研究が進められていたが、結局軍事力増強のために応用されてしまった。

 現時点では、その技術や素材が外部に流出している情報は確認されていない。

 

 仮に使徒がDG細胞に派生する技術によって作られたのだとすると、使徒は身内が送り込んできた兵器の可能性もある。

 日本は米国と同盟関係にあり、ネルフはテスラ研究所と軍事開発分野で連携している。

 もしかしたら、内輪揉めが原因でテスラ研究所が送り込んできたのかもしれない。

 

 とはいえ、いまはあれこれ画策している場合ではない。

 使徒はまっすぐとネルフ本部に向かっている。ミサトに託された使命は、使徒を殲滅することだった。

 

「マジンガーZの破損状況はわかる?」

「いまチェック中です。まだ5分以上かかるそうです」

「まいったわね、マジンガーが使えないとまずいわ」

 

 ミサトは苦しい表情で進行する使徒を見つめた。

 マジンガーZによる作戦がうまくいかなかったとすると、もはや数を送り込んでごり押しするしかない。

 しかし、そうするなら莫大な犠牲が出るうえ、使徒が保有するATフィールドを突破できなければ殲滅にはいたらない。

 

 ミサトが打開策を発見できずにいると、ゲンドウが動いた。

 

「葛城三佐、エヴァ初号機を使いたまえ」

 

 ゲンドウはマイク越しに静かに言った。

 

「しかし、パイロットが……」

「構わん。座らせていればいい。最悪、レイを使うこともできる」

 

 ゲンドウは淡々と述べた。

 ミサトは一瞬戸惑ったが、最も戸惑いを見せたのはシンジだった。シンジは愕然とした様子でゲンドウのほうに目を向けた。

 

「使徒殲滅が最優先だ。使える力はすべて使いたまえ」

「わ、わかりました」

 

 ミサトはうなずくと、シンジのほうに横目を向けた。

 案の定、シンジは戸惑いの表情を浮かべていた。

 

 ミサトはシンジの肩に手を置いて、ささやくように言った。

 

「大丈夫よ。こちらでバックアップするわ。私を信頼して」

「僕が……僕が戦うというんですか?」

 

 シンジはモニターに映る使徒に恐る恐る目を向けた。

 使徒は毅然として歩み続けていた。

 

「僕は戦わなくていいって言ったじゃないですか、嘘だったんですか?」

 

 シンジはミサトを非難した。

 

「ごめんなさい、シンジ君。でも、もう時間がないわ。あと28分で使徒はネルフにたどり着いてしまう。初号機でしか迎え撃てない」

「は、話が違います。マジンガーZに倒せなくて、どうして僕にできるっていうんですか。無理です。僕には無理です」

 

 シンジは思わず大きな声を上げてしまった。

 ネルフにやってきてまだ数日。まともに訓練を受けたわけでもない。何より、シンジの精神は「戦う」という概念をまだ知らなかった。

 シンジが駄々をこねていると、再び、ゲンドウが静かに言った。

 

「駄々をこねるな、シンジ。お前の仕事はエヴァの操縦だ」

「……」

 

 シンジはゲンドウのほうを振り返った。その目にはシンジには珍しく怒りの感情がこもっていた。

 しかし、ゲンドウは表情を変えることなく冷たい視線でシンジを見下ろしていた。

 

「なんだよ……」

 

 シンジは静かに言った。

 

「何年もほったらかしにしてたくせに、いきなり戦えなんて……」

 

 シンジは体を震わせた。そこまで声に出すと、もう怒りを抑えることができなかった。

 

「なんなんだよ、僕を都合のいい道具かなんかと思ってるのか?」

 

 シンジは場所をはばかることなくそう叫んでいた。

 周りのスタッフの視線がシンジのほうに注目した。

 

 シンジは感情を表に出すタイプではない。少なくとも、このような場所で大声を出すタイプではなかった。

 しかし、体が勝手に反応していた。ゲンドウの自分に対する態度が許せなかった。

 

 どうしてここまで怒りの感情が高まったのか、シンジ自身もよくわかっていなかった。

 もしかしたら、父親から優しい言葉を聞けることを期待していたのかもしれない。

 しかし、ゲンドウから放たれた言葉は、シンジの期待を裏切るものばかりだった。

 

 シンジの怒りの叫びを受けたゲンドウは表情1つ変えることなく、次のように言った。

 

「人類の未来のために戦うことができないやつにここにいる資格はない。さっさと立ち去れ」

 

 ゲンドウの言葉はいつもどおり淡々としていたが、シンジにはその言葉が強く突き刺さった。

 

「葛城三佐、初号機のメインパイロットにはレイを使いたまえ。シンクロ率に問題はあるだおるが、そこの腰抜けよりは役に立つ」

 

 ゲンドウは淡々と言った。

 ミサトはうなずいた。

 

「レイは?」

「エリア15に待機してもらっています。いま通信をつなぎます」

 

 ミサトは待機中のレイとコンタクトを取った。

 シンジはそのやり取りを怒りを抑えながら見ていた。

 そんなシンジに、ゲンドウの言葉が突き刺さっている。

 

「何をしている、シンジ。戦う気のないお前など仕事の邪魔だ。さっさと立ち去れ」

「……」

 

 立ち去れ。

 シンジにとって、最も厳しい言葉だった。

 

 ここを立ち去れば、おそらくはこれまでの日常に戻ることができる。

 だらだらと学校に通い、休日はだらだらとゲームをする日々。

 そんな日常にあれば、使徒と戦う必要もない。命の危険にさらされることもない。

 

 しかし、シンジの足は動かなかった。

 ここで立ち去ったら、一生ゲンドウと関わることはなくなる。

 

 それが何か?

 大嫌いな父親と二度と関わることがなくなるなら、願ったり叶ったりだ。

 

 シンジは頭でそう思い込もうとしたが、そうはならなかった。

 どこかで、父親に認められたいという気持ちがあった。

 父親から、「よく頑張った」「ありがとう」と言った言葉をかけられたい気持ちがあった。

 

 地球上の誰よりも、父親に認めてもらいたかった。

 

 父親を嫌いながらも、シンジは人一倍父親のことを意識していた。

 だから、引き下がることができなかった。

 

「ミサトさん」

 

 シンジはミサトに話しかけた。

 

「僕、戦います。エヴァに乗ります」

「シンジ君……」

 

 シンジは先ほどまでの戦いにおびえる顔でなかった。体は震えていたが、シンジの心には闘争心が芽生えていた。

 

 それから、シンジはもう一度ゲンドウのほうをにらみつけた。

 

「エヴァ初号機、メインパイロット碇シンジで起動します。作戦の詳細は後で伝えますが、エリア11にて使徒を迎え撃ちます」

「了解」

 

 ミサトの掛け声と同時に、エヴァ初号機による使徒殲滅作戦が始まった。

 シンジはまだ迷いがあった。しかし、ゲンドウの顔を見ると、引き返すという選択肢は消え失せた。

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